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【競争力はエビデンス】オンライン医療相談の成長戦略

「Femtech-X」は日本のフェムテックビジネス推進を目指し、日本のフェムテックプレーヤーの創業の思いや事業概要を発信しています。

第8回は、株式会社Kids Public 産婦人科オンライン代表の重見 大介 氏にお話を伺いました。

後編では、サービスの安全性・有効性の検証、自治体・企業との連携事例などについて伺いました。

インタビューはFemtech Community Japan公式のYoutubeチャンネルからもご覧いただけます!
https://youtu.be/Lyh3k0YIxYM

前編はこちら
https://note.com/femtechjapan/n/n8eded4e109fa


1. エビデンスに基づいたサービスの安全性・有効性

弊社は医師が主導するサービスなので、本当に健康に貢献できているのかを常に検証している点が特徴です。例えば、オンライン相談サービスを運営している多くの企業では、サービス利用による健康への寄与や安全性のデータをきちんと検証・公開していないところが大半です。

弊社では、効果検証のため利用後アンケートを取り、客観的な分析を行っています。産婦人科オンラインへの相談後の状況を見ると、サービス利用後に救急受診した方が0.7%ほどいました。ただ、その0.7%のユーザーのデータを詳細に見ていくと、チャットや音声通話のツール間でその割合に差はありませんでした。また、その0.7%は相談後に予想外の悪化やトラブルで受診したのではなく、全例がオンライン相談時に「もしこういう症状の変化があったら、そのときはすぐ医療機関へ連絡してください」とお伝えしていた結果でした。そのため、「早く受診できてよかった」という利用者からのコメントをいただいていました。このように、相談サービスの不備に起因した救急受診がなかったことを検証し、さらにはこれを学術誌で論文発表することで、客観的な知見として公表しています。

安全性の検証の論文化(産婦人科オンライン資料より)

産後うつ予防効果を測る臨床研究

横浜市と東京大学との共同研究として、オンライン相談による産後うつ病の予防効果を測る研究も行いました。結果、「産婦人科オンライン」相談を妊娠中から産後まで使える環境にいる場合、産後うつ病のハイリスクだと判断された女性が相対的に約3割減少したことを明らかにしました。

横浜市・東京大学と共同で産後うつ予防効果を臨床研究で検証
(産婦人科オンライン資料より)

経産省フェムテック事業採択(令和3~4年)

また、経産省による支援プログラム「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」に2年連続で採択され、働く女性の健康課題における効果検証を行っていました。
▼令和3年度『働く女性への健康支援プログラム』/株式会社Kids Public

▼令和4年度『新入社員向け「女性特有の健康課題に関するeラーニングプログラム」の開発と検証』/株式会社Kids Public

サービスの効果・安全性の検証と臨床研究の実装

ーーサービスの効果や安全性に関する検証や臨床研究を行う中ではどのような苦労や難しさがあったのでしょうか。

弊社のサービスでは、相談いただく際に利用規約やプライバシーポリシーに「匿名化の上で学術研究に利用する」ことを了承いただいてから、サービス利用いただくという仕組みにしています。このように、あらかじめ、匿名化されたデータとして学術研究を目的に利用できるよう、最初にきちんとした仕組みを作っておくことが、その後の検証において重要です。

例えば、先ほどお話しした『安全性の検証と論文化』においては、当時までの相談データを分析して検証しました。

一方、『産後うつ予防効果の臨床研究』においては、事前に計画を立て、複数のステークホルダーと共同で進めました。本研究(事業)では、「ソーシャルインパクトボンド」という枠組みを活用するため、横浜市と弊社間で調整を重ねました。また、研究面では東京大学が中心となり、計画書の作成や倫理申請を行ってもらいました。

さらに、中立性・客観性を保つために、研究デザインはランダム化比較試験を採用し、相談データは弊社が保有しますが、最終的な産後うつ症状の評価データ(スクリーニング結果)については東京大学の研究者だけが保有・分析でき、弊社は一切関わらないという建付けにしました。

この建付けでは、もしかしたら相談サービスの有効性を示せないという可能性もありましたが、東京大学と弊社間では、どんな結果となってもきちんと予定通り公表する契約を締結しました。最後まで不安もありましたが、客観的に研究を進め、最終的にはとても良い結果が出たことで、逆に弊社の提供するサービスに対して大きな自信を持つことができました。

この研究は2年ほどかけ、だいぶ私自身の時間を使いました。弊社としては、思い切って将来のために投資した形になります。

ーーこれだけ明確に数字が出ると、ユーザーはもちろん、自治体や企業の導入の際も、明示的に効果を訴求できるようになりますね。

数値でのエビデンス・検証結果があることで、自治体や企業に対して説明しやすくなりました。また、医療者のリクルートにも非常にポジティブな影響があります。「検証や研究に基づいた結果があって、良いサービスであれば、是非協力したい」と評価いただいています。

2. 利用ユーザーの相談内容

ーー利用ユーザーのみなさんからは幅広いさまざまな相談が上がってくると思います。具体的にどのような相談トピックスがあるのでしょうか。

相談の時は、何の相談かをカテゴリで選ぶ仕組みになっており、例えば、そこで「精神的な不調や不安」とメンタル不調を選ぶ方が一定数いらっしゃいます。その場合、相談相手として助産師が相談されやすいです。やはり、妊産婦さんにとって一番身近な存在、相談しやすい職種として認識されているのだなと考えています。

メンタル不調で相談する利用者の方の状況もさまざまで、例えば「妊娠したいと思っていたけど、いざ妊娠するとお腹の赤ちゃんをかわいいと思えません。私は母親失格でしょうか」といった悩みを持たれている方もいらっしゃいます。また、産後1〜 2週間後ぐらいの一番大変な時期に、「夜泣きもひどくて、私も眠れません。正直もう消えてしまいたくなります」と話す方もいらっしゃいます。

もう一つ、サービスを通じてわかったこととして、産後1ヶ月以降、実は半年~1年経ってもメンタル不調を抱えている方が少なくないことです。このような方にはオンライン相談だからこそ、緩く長く繋がって支援できることがあると考えています。

メンタル面の不調以外にもいろいろな相談があります。もともと「診療」ではなく「相談」なので、何か診断名をつけるものではありません。妊娠中の食事のことや、仕事との兼ね合い、産後の授乳のトラブルや、お子さんの育て方など、別に診断名はつきませんが、実は身近なことで不安や疑問があるという相談はとても多いです。

それ以外にも、生理痛や、更年期障害による体調不良、最近は不妊治療が保険適用になった影響もあり妊活や不妊に関する相談もかなり増えてきています。

ーーまさに、病院にわざわざ出向いてまでは相談しにくい悩みに対して、包括的に支援されているサービスだと思います。

普段は病院に行くとしたら、何か明確な症状がないとなかなか行くことができません。それが、「オンライン相談」だと少しハードルが下がります。また、医師と助産師には違いがあるため、その点でもうまく役割分担できると良いと思っています。

3. 自治体や企業との連携事例

ーー多くの自治体がサービスを導入されていますが、面白い事例があればぜひご紹介いただきたいと思います。

神奈川県では、新しい取り組みとして、プレコンセプションケアのサービス導入について話しました。また、それ以外の都道府県として、富山県、山口県、徳島県は市区町村単位ではなく県全体で導入いただいています。市区町村全部、一括して導入してくれていることにより広くサービスを提供できるため、非常にありがたいと感じています。

また、鹿児島県の錦江町という小さな地域の事例もあります。その地域には小児科医・産婦人科医がおらず、かなり初期から弊社のサービスを導入していただいています。導入の経緯として、「ふるさと納税で集めた予算を何に使うか」の議論が起こったときに、「できるだけ子どもや妊産婦など、未来に繋がることに使いたい」という意思決定がなされたそうです。このような事例は私たちも非常に嬉しく思っています。錦江町のような地域が増え、各地域で子どもや妊産婦、女性を守っていこうという雰囲気が生まれていってほしいなと思っています。

ーー導入企業も著名な企業が多いですね。企業の従業員の利用率などの状況について教えていただけますでしょうか。

企業は、自治体と違って、良いサービスと判断いただければ、意思決定が早く、導入まで非常に早く進むので大変ありがたいです。

一方で、こうしたサービスは、企業が従業員向けに福利厚生として導入しても、利用率が高くならないという声はよく聞かれ、一定の課題として常にあります。普段忙しく働いている従業員にとっては、福利厚生として何が利用できるのか忘れてしまいがちです。常に、困ったときに思い出してもらえるような工夫や、目に触れる機会を定期的に持たせていただくことが大事だと思っています。

そのため、企業に向けては講演会を提供することがあります。特に、経営層や上司の方は男性が多い傾向にあるので、そういった方を巻き込んで、従業員の方に話を聞いていただくこともあります。また、社内掲示板などに積極的に載せていただく企業だと、使用率が高まりやすい傾向が強いです。一度導入いただいて終わりではなく、疑問があるときや困ったときに使っていただくために、企業と一緒に相談しながら、施策を練っていく取り組みも行っています。

産婦人科オンライン導入企業の一例(産婦人科オンラインHPより)

ーー福利厚生として導入しても、サービスや制度に「更年期」や「不妊治療」という名前がつくと、使いにくい方もいらっしゃるという話も聞いたことがあります。利用率を高めていくうえで、企業もしくは自治体との二人三脚の体制はすごく大事だと感じました。

■法人向け 産婦人科オンラインに関するお問い合わせはこちら

4. 今後の展望

ーー今後の事業の展望について教えてください。

私たちは「社会インフラにしたい」という思いがあるため、引き続き自治体への提供を進めていきたいと考えています。幸いなことに、国として少子化対策に向けて各種予算を確保し自治体向け補助金を拡充していますので、補助金を使った導入が進みやすい環境になってきています。

企業の導入も、並行して進めていきますが、「女性ばかり支援することが公平性に欠けるように見えて社内で説得をしにくい」、「社内でどう見えるのか不安だ」という担当者からのお声をいただくことがあります。その時はこんな説明をしています。

企業の健康診断では、肥満や喫煙など明らかに男性の該当者が多い健康課題が主な対象となっています。一見公平な施策ではありますが、結果的としてほとんど男性のための施策になっている傾向があり、これがずっと続いてきたわけですから、女性向けの相談サービスの導入が「女性を優遇する」ことにはなりません。これまでマイナスだった部分をなるべくゼロに近づけるものだと考えていただきたいです。職場環境は、いろんな人が幸せに勤務できることでより良いものになりますから、こうした観点でぜひ考えていただきたいと思っています。

相談対応の効率化も大きなテーマに掲げています。医療者が一対一で相談対応していく形態だけでは、必ずリソース的に限界が来ます。全国の自治体や全企業に導入されたら、絶対数として対応する医療者が足りなくなるため、弊社でも数年前から解決策を考えています。

例えば、弊社で現在提供中の「くすりぼ」というサービスはシンプルなチャットボットですが、一部の妊産婦のお薬の相談事に対して自動的に質の高い情報を提供できるサービスです。また、これまで何千件、何万件というノウハウ蓄積を活用して、利用者が悩み事を検索しQ&A形式で過去の事例を閲覧できる仕組みを開発中です。知恵袋のようなQ&Aサービスやネット検索よりも、より迅速に、かなり精度の高い情報を提供できると考えています。このように、人的リソースだけに頼らず、不安や悩みを解消できる自動化の取り組みは、AI(人工知能)技術も含めてどんどん進めていきたいです。

ーー大企業、医療機関、研究機関との連携も、引き続き進めていかれるのでしょうか。

もちろんです。また研究や検証は引き続き取り組んでいきます。フェムテック業界でもエビデンスに基づいたサービス作りにしっかり取り組んでいる企業として、リードしていけたら嬉しいです。

(写真左)株式会社Kids Public 産婦人科オンライン 代表 重見 大介 氏
(写真右)Femtech Community Japan 代表理事 皆川 朋子

5. メッセージ

ーー最後にメッセージやお知らせをお願いします!

今回は、産婦人科オンラインというサービス、株式会社Kids Publicという企業についてお話ししました。できる範囲でいろんな取り組みをしていますが、私たちだけではできない部分は一緒に協業・連携したり積極的に考えたりしていきたいと思っています。サービスを導入してくださる方はもちろん、事業の連携や協力も、ぜひいろいろな方と実現していきたいので、お気軽に問い合わせいただきたいと思っています。何かイベントでお会いできたときには、ぜひお話ができれば嬉しいです。

産婦人科オンラインとしての取り組みもすごく注力はしていますが、個人的にも情報発信を行っています。書籍やニュースレターなど好評いただいているので、もしご興味あればご覧ください!

■ニュースレター

■書籍

(産婦人科オンライン資料より)
(産婦人科オンライン資料より)

【インタビュアー:Femtech Community Japan 代表理事 皆川 朋子】
外資ITコンサルティングに従事後、英Cambridge大学でのMBA留学を経て、独立系戦略コンサルティングファームの執行役員、人工知能ベンチャー取締役・事業責任者に従事した後、独立系VCに参画しスタートアップへの投資・事業成長の支援、女性起業家支援などに従事。複数のFemtech企業への投資実績を有する。現職は、Women’s Healthに注力するグローバル製薬企業にて女性ヘルスケア領域の事業拡大に従事。
2021年3月、Femtech Community Japanを設立。

【取材協力・執筆:Femtech Community Japan 金井 響加】
京都の大学でジェンダー論を専攻しながら、Femtech Community JapanでSNSを担当。ジェンダー平等の実現に向けて、最新のトピックスを発信しながら、誰もが自由に自分らしく生きられる社会の実現に貢献したいと考えている 。

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