【海外動向】米国Femtech最新事情
1.米国マーケット事情
2023年11月、バイデン大統領夫人のJill Biden氏は、更年期を含む女性の健康に関する研究支援を目的としたイニシアチブを発表しました。
この取り組みは、民間部門や慈善団体と連携し、女性の健康研究における長年の課題であるギャップを埋め、女性の健康を改善するための変革的な投資を促進することを目指しています。
イニシアチブの議長には、女性の健康研究で著名なイェール大学のCarolyn Mazur博士が就任し、参加メンバーには、米国保健福祉省、国防省、退役軍人省などの連邦機関や、ホワイトハウスの行政管理予算局、科学技術政策局のメンバーが含まれています。
この取り組みを通じて、議会指導者、民間企業、研究機関、慈善団体に呼びかけ、全米の女性の健康と生活の向上を図る活動が展開される予定です。
このような背景も影響してか、アメリカではテクノロジーを強く印象付けるFemtechという言葉よりも'Women’s Health’と表現されることも多くなりました。
2.米国の医療システム&健康保険の仕組み
一般的にアメリカの医療費は高額で知られており、その背景には専門性の高いサービスの提供という特徴や医療はビジネスという側面があります。
病院ごとに価格が異なり、地域によっても大きく差が生じます。全体的な傾向として、年々すでに高額な医療費はさらに高騰し続けています。
①高額な医療費の一例
そして日本と異なりアメリカには国民皆保険制度はありません。公的な保険は所得と年齢で仕切られ、主に65歳以上向けと低所得者向けに「メディケア」と「メディケイド」の2つが用意されているだけです。その枠組みに入らない多くの人々は勤務先が福利厚生として提供している保険に加入します。
各企業においては福利厚生として提供する保険の内容や自己負担額を自由に設計できるため、手厚さは勤務先ごとに異なります。つまり、従業員側は給与面だけでなく企業がどのような保険を提供しているのかを重要視し、従業員の入社や転職のモチベーションにも大きく影響します。
Kaiser Family Foundation の発表では、家族加入の場合、企業は平均して保険料の7割超を負担し年間$17,393、日本円にしておよそ260万円(1ドル=150円で日本円に換算)もの金額を従業員一人当たりに対して負担しています。
企業が負担する保険料は前年度の保険利用額や医療費の上昇率に大きく影響を受ける仕組みになっており、この仕組みによって保険会社は契約している企業の従業員が使用した医療費実績をもとに翌年の保険料を設定することが一般的です。
そのため、医療費の高騰や保険利用の増加が保険料の上昇につながり、結果として企業の負担が大きくなります。このような背景からアメリカではウェルビーイングに関する事業が次々と生まれています。
②【参考】企業と従業員が自負担する保険料の割合と推移(家族加入)
3.注目Femtech企業紹介
Femtech市場の半分以上は米国ですが、その中から注目すべきFemtech企業2社を紹介します。
①Kindbody:妊活・妊娠支援
誰もが便利で手頃な不妊治療と家族づくりのケアを受けられるべきという信念を持つ企業です。
総資金調達額は3億ドル超。2018年にニューヨークで設立された医療サービス企業で、妊よう力を測定するAMH検査を主軸としたサービスを提供し、企業に対してはダイバーシティ経営を意識したヘルスケアサービスを訴求しています。
創業以来、不妊治療を専門とするクリニックの運営を拡大し、現在ではニューヨークやロサンゼルスを含む主要都市に直営施設27か所を展開。さらに全米180以上の提携施設を通じて、さまざまなカップルのヘルスケアをサポートするハイブリッド統合型福利厚生サービスを提供しています。
(1)主なサービス
(2)成長のポイント
おしゃれなポップアップトラックでのウォークイン形式によるホルモン検査をはじめ、若者が身近に検査やカウンセリングを受けられる場を提供し、特に若い世代へのアプローチに成功しています。
また、店舗とオンラインを組み合わせたハイブリッド型サービスにより、ユーザーの選択肢を広げています。
さらに、男性向けのAMH検査や同性カップルへの精子提供、妊娠代理出産に関するカウンセリングサービスを展開。トランスジェンダーやLGBTカップルへのメンタルヘルス支援や栄養管理も含め、多様なカップルに寄り添うヘルスケアサービスを提供していることがポイントです。
②Willow:自動小型搾乳器
2014年にカリフォルニア州マウンテンビューで創業、女性がより自由なスタイルで母乳育児を続けられるよう、装着可能な小型搾乳器の開発と販売をする企業です。総資金調達額1億ドルを超えます。
(1)商品の特徴
一部の商品は100%こぼれ防止設計により、搾乳中にポンプを動かしてもミルクがこぼれない設計となっています。食洗機で簡単にパーツを洗える手入れの手軽さもポイントです。
(2)保険適用の概要
Willowの搾乳器はアメリカの多くの保険の対象となる場合があり、加入している保険次第では最大50%の保険適用が期待できます。
(3)成長のポイント
アメリカでは産休が基本的に無給で、取得できる休暇期間も地域や勤務先により手厚さが異なります。
経済的な理由や日本のように産休・育休の制度が整備されていないことから、出産後わずか2週間で赤ちゃんと離れて職場に復帰するケースも珍しくなく、ほとんどの女性は産後3か月を待たずに復帰します。
このような背景から、忙しいけれども母乳育児にこだわりたい層から大きな支持を得たことや、手ごろな価格ではないが大半のケースで保険対象になることが普及した一因だと思われます。
4.まとめ:国の文化や制度を踏まえたモデルがビジネス発展には重要
米国は、国土が広いことや医療費が高額であるため、医療へのアクセスが他国と比べてハードルが高くなっています。そのため、「病気になる前に予防しよう」という意識が高いことが、Femtech市場が発展しているひとつの要因です。
一方、日本は国民皆保険で、医療費も通常3割負担であることから「病気になったら病院へ行けばいい」という方も多く、なかなか予防まで目が向かないのが現状です。
ただし、Willowのように保険対象になり、手頃な価格でユーザーが利用できることでビジネスを広げる事例は、日本でも同様のビジネスチャンスが期待できます。
そのような文化や制度の違いや似ている点も踏まえ、海外のFemtech製品・サービスの特徴を見てみるのも、ビジネス展開のひとつのヒントになりえるかもしれません。