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【Deeptech】iPS細胞×不妊治療スタートアップ:研究開発型ビジネスの拡がり

「Femtech-X」はフェムテック産業の「今」を伝え、「未来」をつくるメディアとして、日本のフェムテックプレーヤーの創業の思いや事業概要を発信しています。

第7回は、株式会社Dioseve CEO 岸田 和真氏にお話しを伺いました。

後編では、iPS細胞由来の卵子作製技術「DIOLs」の事業化のお話しや、事業化に向けた生殖補助医療ならではの課題などについて伺いました。

インタビューはYoutubeのFemtech Community Japan 公式チャンネルでもご覧ください!→https://youtu.be/nyXWEwzwchY

前編はこちら→https://note.com/femtechjapan/n/nd47c9039cb6c


1.「DIOLs」の事業化で目指す新しい不妊治療

ーーこれから、どのように卵子を作る技術、DIOLsを不妊治療に適用されていくのでしょうか。

女性の不妊の理由としては、体質、年齢、がん治療で卵子が消失してしまったケースなどがあります。また、原因は分からないが子供ができないという方もいらっしゃいます。

現在、不妊治療では、ホルモン治療や体外受精と呼ばれる治療法があります。ホルモン治療は、ホルモンを女性の体内に打つことによって、卵子の成長を促進する治療法です。体外受精は、卵巣から卵子を取り出し、パートナーの精子と受精をさせて、その受精卵を子宮に戻す治療法です。逆に言うと、これらの治療オプションしかありません。

さらに、現状、そもそも卵子を持たない女性は、治療方法がありません。ホルモン治療や体外受精で子供ができなかった場合は、次にあるオプションは、卵子ドナーのような選択になるため、遺伝子が我が子に受け継がれない状況になってしまいます。

こういった課題に対して、弊社の技術では新たに卵子を作製することが可能となります。弊社の技術を活用する場合、卵子が原因で子供が持てない女性がクリニックにいらしたときにまず血液を採取します。この血液を製造施設、つまり細胞加工するしていく施設に輸送し、その血液からiPS細胞を作り、そしてそのiPS細胞から卵子を作ります。その卵子をクリニックにお繰り返して、そこでパートナーの精子と体外受精をして、受精卵を女性の子宮に戻す治療法になります。

この治療法の大きなポイントとしては2つあります。1つ目が、年齢に関係なく卵子ができることです。血液からiPS細胞を作ると細胞自体の年齢が巻き戻されることが分かっています。女性の年齢に関わらず、妊孕性の高い卵子を作れることが1つ大きなポイントです。

2つ目のポイントが、作製する卵子の数に制限がないことです。極論では、血液を採取してiPS細胞を作ることにより何万~何十万、何百万に増やして、卵子を作ることができます。

現在の体外受精では、実は1回採卵で、だいたい10個の卵子を採取できたら多いほうと言われます。そのため、弊社の技術では1回のプロセスで、多数の卵子を得られるのは非常に大きなメリットとなります。

弊社の技術を使うと、年齢が巻き戻った妊孕性の高い卵子を大量に作ることができるので、その中から最も妊娠しやすい受精卵を選んで、子宮に戻すことができます。もし、その受精卵が妊娠できなかったとしても、まだ何回もチャンスがあり、本人が望む限りそのプロセスを繰り返すことができるがめ、妊娠の可能性を極めて高めることが可能です。

つまり、総括すると、年齢に関係なく自分が子供が欲しいと思ったタイミングで、子供を持つことができる社会を目指していることになります。

多くの女性からお話しを聞く機会がありますが、「子供が欲しい場合は早く子供を産まなければいけないというプレッシャーがある。そうすると、結婚適正年齢や出産適正年齢を軸にライフプランを組まなければいけないということがある。」という声をよく聞きます。一方で、例えば30代はキャリアを望まれる女性にとっては非常に重要なタイミングです。不妊治療は大変なプロセスで、仕事と並行することはなかなか難しいと言われています。

キャリアなのか子供なのか、二者択一で選ばなくてはいけない現状、弊社のこの治療法が社会実装されれば、キャリアを優先しても良く、その後自分が母親になりたいタイミングで子供を持つことが可能となります。「子供が持てないのではないか」という不安から、地球上のすべての女性を開放することを目指している事業です。

不妊治療ソリューションとしての「DILOs」の展望(Dioseve社資料より)

2. 生殖補助医療と法規制

ーー「DIOLs」について、不妊治療に従事する医師のみなさまからはどのような期待があるでしょうか?

医療機関からは、国内だけでなく世界中のあらゆる研究機関や医師から問い合わせをいただいている状況です。日本でも共同研究開発をやっています。

世界でもまだ実装されていない技術のため、規制をどのように整備していくかという問題もあります。日本は精子・卵子といった生殖細胞を作る研究で世界をリードしています。さらに、不妊や遺伝病の原因解明に向けて、生殖細胞に関する規制緩和がどんどん動いている状況です。

一方で、やはり時間がかかることは間違いありません。実は、イギリスは世界でも生殖細胞の研究が進んでいると言われます。弊社では、現在イギリスの複数の大学・病院からお声がけをいただいており、共同研究を進める議論を進めています。

なぜイギリスかというと、実は世界で初めて体外受精という治療方法が実施されたのがイギリスだからです。1978年に、世界で初めて研究者による体外受精によってルイーズ・ブラウンさんという女性が誕生しました。この研究者は、のちにノーベル賞を受賞されています。

イギリスの研究者たちは、生殖補助医療・不妊治療をリードしてきている自負を持っており、実際に体外受精に限らず、生殖補助医療において世界初となるさまざまな技術の実用化を進めているという背景があります。弊社もDIOLsに紐づく規制・開発はイギリスと親和性が高いと考え、共同研究などの議論を進めている状況です。

ーー生殖補助医療の研究を進める上では、倫理的・社会文化的な課題が国によって違うため、法規制や社会実装の進め方での難しさがあるのではと思います。「生殖細胞をつくる研究としてどこまでやって良いのか」という観点で、標準的なルールや体制を作っていくということでしょうか。

おっしゃる通りです。実用化に積極的と聞くと、イギリスは規制が緩いように聞こえるかもしれませんが、全くそうではありません。実際、イギリスの規制機関との議論では、実社会でのリスクとベネフィット(利点)を比較して、フェアに判断する姿勢でした。

イギリスは、HFEA (Human Fertilisation & Embryology Authority)という、生殖補助医療に関する規制を検討する機関を独自に国で設立しており、世界でも他にない取り組みです。それだけイギリスは生殖補助医療を適切に進めていく基盤が整っています。そこで、弊社の技術DIOLsについても適切な審査を通じて安全性を示していくことが必要だと思っています。

3. 研究開発における課題

ーー研究開発においては、キーオピニオンリーダー(KOL)の医師の先生方を巻き込んでいくことも非常に重要だと思います。そういった点で工夫されたこと・苦労されたことなどはありますか。

まず、卵子を作る技術の開発を進めていて、ポジティブに感じた面は、この技術を求めている患者が非常に多く、規制側でも「社会実装していきたい」という意思を持っていらっしゃる方が多いことです。

弊社の技術が、世界的に見ても非常に強いことは自負しており、そのおかげで世界のいろんな研究者の方でも、「知ってるよ、あの技術でしょ」と言っていただけるので、お話し自体は進めやすいと思っています。

一方で、難しい面としては、この技術は一回も失敗できないことがあります。万が一、生まれたお子さんが何らかの障害を持ってしまうことがあると、それは私たちとしても実現したいことではありません。その一回を完全に防がなければいけないという点で、私たちの技術・アイデアから、どのように安全性を理解してもらうのかは、共同研究や議論を通じてこれから進めていかなくてはならないと改めて感じています。

4. 今後の展望

ーー今後の事業の展望について教えてください。今後どういった展開・領域を検討していらっしゃるのでしょうか。

ビジョンに立ち返りますが、この技術の価値を最大化してできるだけ多くの方に貢献していきたいと思っています。そのためにもまず不妊治療の領域でしっかり展開していくことが大前提となります。なぜならば、不妊治療は新しい命を生む、社会を前に進めていく治療法だからです。

がん治療も本当に注目されており、素晴らしい治療技術だと理解しています。一方で、がん治療に焦点が集まることによって、不妊治療の重要性がある意味見過ごされてきた過去があると感じています。不妊治療は、唯一、未来の社会を作る方法だと考えています。これをしっかり取り組んでいかないと、豊かな未来に作ることはできません。

ただ、この技術は不妊治療のみで収まらない技術で、遺伝病の原因解明にも繋がってきます。重い病気の方々と話をする機会がありますが、生まれながらに、何も悪くないのに、体質や遺伝的な病気で明らかに人と違うご自身を見てしまって、「自分は生まれてきてよかったのだろうか」と思っている方もいらっしゃいます。

それは本当に辛いことで、そういう人達に向けて貢献できないかと常に考えています。弊社の技術がそういう人たちに、希望を持ってもらえるものにしていきたいです。実は、遺伝病など生まれながらの病気による不平等を解決していくために、水面下で進めているプロジェクトもいくつかあり、これらが将来社会に出ていくことを目指して頑張っています。

Dioseve社のビジョン「全ての生命に新しい選択肢を」

5. 求める人材

ーー研究開発や事業展開を進められていく中で、採用ニーズもお伺いできればと思います。

2024年6月に10億円の調達を完了し、累計14.2億円の資金調達を行いました。投資家の方々からの期待はひしひしと感じています。日本で生まれた世界で勝てる技術をしっかりと実現していくことは、私たちの責任だと考えています。そのために、まずビジョンに共感して仲間になっていただける方を募集中です。製薬企業で臨床開発の研究されてきた方、研究開発に興味がある方は、ぜひお声がけください。

上記に限らず、「世界で戦っていきたい、日本の技術で世界をあっと言わせてやる」という気持ちを持たれている方々も、ぜひ一緒にやっていきましょう。お気軽にご連絡いただければと思っています。

6. メッセージ

ーー最後に一言、岸田さんから皆さんにメッセージをお願いします!

DeepTechと呼ばれる領域にはすごく思いが強いのですが、お世辞抜きで日本の技術は本当に強いです。これをただの「技術があった」で終わりにせず、きちんと社会に実装し、世界で勝つことを日本全員で考え、取り組むことが必要だと思っています。

もちろん、全員がDeepTech領域の事業をやるべきという訳ではありません。少しでもDeepTech領域をやろうかなと思っている方々が、やるかやらないかというのは非常に大きな違いになると思います。

例えば、「DeepTechの世界はよくわからないから、あんまり踏み出せない」という方も多くいらっしゃると思います。そういった方は、ぜひ何でもいいので、お声がけいただければと思います。僕の答えられることは答えていきますし、周りの方々に少しでもご関心をお話しいただくだけで、見えてくる世界も変わってくると思います。

私も起業して本当に楽しくやっています。「本当にやってよかった」と日々やりがいと共に感じているので、ぜひ弊社だけ、DeepTechだけではなく、日本を盛り上げる取り組みを一緒にできればと考えています。

写真左:株式会社Dioseve 岸田氏
写真右:Femtech Community Japan 代表理事 皆川

【インタビュアー:Femtech Community Japan 代表理事 皆川 朋子】
外資ITコンサルティングに従事後、英Cambridge大学でのMBA留学を経て、独立系戦略コンサルティングファームの執行役員、人工知能ベンチャー取締役・事業責任者に従事した後、独立系VCに参画しスタートアップへの投資・事業成長の支援、女性起業家支援などに従事。複数のFemtech企業への投資実績を有する。現職は、Women’s Healthに注力するグローバル製薬企業にて女性ヘルスケア領域の事業拡大に従事。
2021年3月、Femtech Community Japanを設立。

【取材協力・執筆:Femtech Community Japan 金井 響加】
京都の大学でジェンダー論を専攻しながら、Femtech Community JapanでSNSを担当。ジェンダー平等の実現に向けて、最新のトピックスを発信しながら、誰もが自由に自分らしく生きられる社会の実現に貢献したいと考えている 。

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