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【海外動向】月経・避妊分野のフェムテックビジネス

2024年の経産省のレポートによると、月経随伴症による日本経済の年間損失額は約6,000億円と推計されています。その経済損失の要因の内訳をみると、欠勤が約1,200億円、パフォーマンスの低下が約4,500億円です。

また、国内の10~40代の女性1000名を対象に実施したエムティーアイの調査によれば、生理に関する症状や悩み、不安について「ある」と回答した人は全体の約70%でした。

具体的な悩みや不安の内容では、「生理中の不調(頭痛、下腹部痛、吐き気、疲労感など)」が約72%と最も多く、続いて「生理前の不調(PMS /月経前症候群)」約70%でした。 また、生理に関する症状や悩み、不安が「ある」と回答した人のうち、約80%の人が生理に関する症状によって、生活に影響が出ている/やや影響が出ていると回答しています。つまり、生理(月経)による何らかの心身の不調によって悩む女性は非常に多いことがわかります。

出典:株式会社エムティーアイ(2024)「FEMCATION白書 2024」
より筆者作成

このような月経関連の悩み実態に対し、国内では、月経やPMSによる心身の不調や悩みを解決する製品やサービスを開発・提供するスタートアップは約20社あります(2024年12月現在)。例えば、月経やPMSの周期を管理するデジタルアプリケーションや、月経痛を緩和するデバイス、オンラインピル処方などです。

今回は、月経やPMS、避妊の課題に取り組む海外のスタートアップや研究機関を取り上げ、ソリューションの特徴やビジネスモデル、最先端のテクノロジーを紹介します!

▼国内の月経・避妊分野のスタートアップについてはこちらもご覧ください!

※為替レートは、$1=156円で換算しています。


1.月経

Flo Health:月経周期トラッキングアプリ『Flo』

設立:2015年
拠点:英国
累計調達額:$275.8M(約431億円)

2024年7月にはシリーズCで$200Mを調達。フェムテックのユニコーン企業としても注目されています。『Flo』のビジネスモデルはフリーミアムで、有料ユーザーの獲得が主な収益です。月経周期、基礎体温や生理やPMSの症状のログなどを通じてパーソナライズのアドバイスを提供しています。

同社によると、米国の約4人に1人の女性(18~44歳)が『Flo』を利用しています。グローバルのユーザーは約3億8000万人で、有料プランの月間アクティブユーザー(MAU)は500万人だといいます(2024年8月時点)。2023年からは月経周期をパートナーと共有できる機能『Flo For Partners』も搭載されました。

Qvin:ナプキン型の経血検査キット『Q-Pad』

設立:2014年
拠点:米国
累計調達額:不明

経血に含まれるバイオマーカーから健康診断を行う、ナプキン型の検査キット。従来の健康診断で用いられてきた血液検査に代わる非侵襲の健康管理ツールとして開発が進められています。自宅からナプキンのストリップ(試験紙)を同社のラボに送り、診断結果のレポートをeメールもしくは専用のアプリで受け取ります。

糖尿病のモニタリングを目的とした『Q-Pad™A1c』はFDA承認済み。スタンフォード大学医学部との共同研究によって、貧血や不妊症、更年期障害や子宮内膜症、甲状腺関連の疾患など、さまざまな疾患や症状のバイオマーカーを検査する技術としての可能性も検証しています。また、HPVのスクリーニング、ホルモンのモニタリングへの技術の応用も模索しています。

Daye:生理痛に特化したオンライン診療『Period Pain Clinic』

設立:2017年
拠点:英国
累計調達額:$17.1M(約27億円)

産婦人科医など専門家によるオンライン診療で、月経痛を緩和する治療薬やCBDタンポンなどパーソナライズされた治療法を提供しています。また、月経痛を緩和するウェアラブルデバイスを提供するMyoovi(英国)など他のフェムテック企業とも提携し、割引価格でそれらの製品・サービスも提供しています。

2024年7月には、更年期障害や不妊治療、性感染症など、婦人科系の疾患・症状を包括的にカバーするオンラインクリニックも立ち上げました。

iPulse Medical:月経痛緩和デバイス『Livia』

設立:2016年
拠点:イスラエル
累計調達額:不明

『Livia』は腹部に電極パッドを貼り、皮膚に痛みが出ない程度の微弱な電流(経皮的電気神経刺激=TENS)を流すことで月経痛を緩和するデバイスです。ホルモンフリーで低用量ピルのように副作用がないことも特徴です。FDA、CEの承認済みで、120カ国以上で販売されています。月経痛緩和デバイスの草分け的存在となっています。

出典:Adobe Stock

Gals Bio:タンポン型の経血検査キット『Tulipon』

設立:2016年
拠点:イスラエル
累計調達額:不明

『Tulipon』は経血量と膣内のpHレベルをバイオマーカーとして健康状態をモニタリングする新しいタイプの生理用品です。使い捨ての月経カップはタンポン型のアプリケーターで腟内に挿入して使用します。12時間程度交換不要で、大型のタンポン3~4個分の経血を保持します。

2.避妊

Natural Cycles:避妊アプリ『NC° Birth Control』

設立:2013年
拠点:スウェーデン
累計調達額:$99.5M(約155億円)

アプリに記録した基礎体温をベースに、同社独自のアルゴリズムで妊娠可能日を予測します。アプリとOura Ring、Apple Watchを連動させ基礎体温をトラッキングするプランも提供。同社は、ピルやコンドームを使わずに、93%の精度で避妊効果が期待できると報告しています。FDA、CEをはじめ、カナダ、オーストラリア、韓国、シンガポールの規制当局から承認を受けています。

Ocon Therapeutics: ホルモンフリーのスマート子宮内避妊器具『IUB Ballerine』

設立:2020年
拠点:イスラエル
累計調達額:$29.5M(約46億円)

『IUB Ballerine』はビーズ状のスマート子宮内避妊器具。従来のIDU(Intrauterine device)より低侵襲で挿入可能で、同社は最長5年間の避妊効果が期待されると報告しています。2025年からは日本でも展開予定です。

Adyn:避妊法のパーソナライズサービス『The Birth Control Test』

設立:2020年
拠点:米国
累計調達額:$2.6M(約4億円)

自宅で採取した血液をラボに送り、ホルモンレベルや遺伝子リスクなどの分析結果から、IDUや避妊パッチ、ピルといったパーソナライズの避妊法を提案してもらえるサービス。創業者のエリザベス氏は、避妊目的で服用したピルの副作用によって苦しんだ経験をもとに、同社を立ち上げました。

出典:Canva

FHI360: 生分解性の避妊インプラント『Casea S』

『Casea S』は挿入後、体内で溶解するまで18~24ヶ月程度の避妊効果が期待されています。開発はpH SciencesおよびGeSea Biosciencesとの協力により、FHI 360のContraceptive Technology Innovation Initiativeによって進められており、ビル&メリンダ・ゲイツ財団からも資金援助を受けています。

3. まとめ:顧客にとって心身の負担が少ない選択肢が求められている

海外も国内のフェムテック市場と同様に、特定の疾患・症状を示す指標となるデータをトラッキングしたり、バイオマーカーを測定することによってパーソナライズの治療法やケアのアドバイスを提供するサービスが見られます。

一方で、違いとしては既存の治療法やケアに代わる、顧客(女性)にとってより負担の少ない治療法やケアを提供する製品・サービスが出てきていることが特徴です。

例えば、OvinやOcon Therapeuticsのような低侵襲・非侵襲で痛みの少ない検査や避妊器具であったり、Natural Cyclesのようなデジタルアプリケーションで副作用のない避妊ツールなどが挙げられます。個人で異なる痛みの感じ方であったり、治療薬の効果や副作用に焦点をあて、より顧客が快適に利用できる製品・サービスにニーズがあると考えられます。

このようなプロダクト・サービスの開発に向けた1つのアプローチとしては、既存の研究・技術シーズを「女性の健康」という文脈で捉え直し、新たなサービスや製品に転用することが考えられるかもしれません。

【執筆:Femtech Community Japan 金井 響加】
京都の大学でジェンダー論を専攻しながら、Femtech Community JapanでSNSを担当。フェムテックをはじめ、「エンパワーメント」と「社会実装」を軸にビジネスで社会課題を解決したいと考えている。

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