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司法修習(民事裁判・刑事裁判修習)について

今月6日、司法試験の合格発表がありました。試験を受けられた方は、それぞれの結果を受け止め、前に進み始めておられる頃かと思います。合格された方におかれては、本当におめでとうございます。在学中受験資格で合格された方は、引き続き気を引き締めてロースクールでの学修に取り組んでください。
今回合格された方が司法修習を開始されるのはもう少し先のことかもしれませんが、分野別修習のイメージを持ってもらうため、裁判所における民事裁判修習・刑事裁判修習について、簡単にご紹介します。


前提

司法修習の全体像を念のため紹介しておきます。まず、各地における分野別修習の前に、和光にある司法研修所において導入修習が行われます(約1か月)。ここでは、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の5つの分野について、事件記録(白表紙といいます)に基づいた検討や実務の入門的な講義等が実施されます。その後、各地の地方裁判所に配属され、民事裁判、刑事裁判、検察、弁護の4つの分野の修習を2か月ずつ行います(分野別修習)。分野別修習が終われば、A班とB班に分かれ、司法研修所における集合修習選択型修習(各自の関心等に応じて、裁判所や民間企業、弁護士会等が提供するプログラムに応募して修習を行います)となります。集合修習では、総仕上げとして、記録に基づく即日起案や、民事・刑事の模擬裁判等を行います。最後に、いわゆる二回試験(司法修習生考試)が行われ、これに合格すれば、法曹(裁判官、検察官、弁護士)になる資格が得られるわけです。

裁判修習

執務環境

地方裁判所には、民事と刑事でそれぞれ「部」というものがあります。小さな庁だと、民事と刑事それぞれ1か部しかないところもありますが、普通は「第2民事部」のように、部が複数存在します。1つの部には裁判官が3人以上いることが通常で、合議体の裁判長を務める人(「部長」と呼ばれますが、いろいろな内部的事情で、裁判長をやるが部長ではない人もいます。)、裁判長から見て右側に座る人(「右陪席」といい、10年以上の経験のある裁判官が多いです。普段は1人で裁判をやっています。)、同じく左側に座る人(「左陪席」といい、若手の裁判官です。普段は合議事件の主任裁判官を務めていて、合議事件の期日進行を考えたり、判決を起案したりします。)がいます。部によっては、右陪席が2人、左陪席が2人いることもあります。そんな裁判官室には、司法修習生の座る机が用意されており、各部には概ね3人から4人の修習生が配属されます(人数の少ない地方であればもっと少ないこともあります。)。

修習内容

基本的には、修習生がそれぞれ部長と右陪席に割り当てられ、単独事件を中心に記録を読み、期日を傍聴することになります。修習生は、傍聴席ではなく、法廷のバーの中に修習生席が設けられ、そこに座って傍聴することが多いです。民事の単独事件であれば、法壇の上で裁判官の横に座って傍聴させてもらえることもあります。民事・刑事ともに、はじめの事件傍聴では、期日で裁判所と当事者の間でなされたやり取りの法的意味、根拠条文等を確認することが重要です。一つ一つの手続に根拠と意味があり、デュープロセスをしっかりと実感することからはじまるわけです。記録を検討して、要件事実を踏まえた争点整理案を作成したり、和解案を作成したり、事実認定について起案したりといったことを繰り返していくことになります。裁判官への任官を希望するのであれば、判決起案にチャレンジしてみるのも良い経験になります。

当事者から提出される書面

裁判修習では、当然、裁判官になったつもりで、当事者から期日間に提出される準備書面や書証等を読むことになります。これは、裁判官への任官を考えている修習生以上に、弁護士になる予定の修習生にこそ、とても大きな意味があります。自分以外の弁護士が書いて提出する書面を大量に読む機会は、このときしかありません。また、出された書面に対する裁判官の率直な評価、感想を聞くことができるのもこのときだけです。裁判官をしっかり説得できる優れた弁護士となるためには、裁判修習がもっとも重要といえます。

評議

民事・刑事ともに、合議事件の記録を検討したり、期日を傍聴したりする機会もあります。裁判所によっては、医療集中部や行政集中部といって、医療事件や行政事件を集中的に扱っている部があり、その多くは合議事件となります。合議事件は、3人の裁判官の評議によって、期日の進行や和解案、事件の結論や判決の内容を決めていくことになりますが、司法修習生には、この評議の傍聴を許すことができると法律で規定されています(裁判所法第75条第1項)。合議事件がどのような評議を経て結論に結実しているのか、期日の進行についてどのような意見が交わされているのかを見ることができるのはこのときだけです。部によっては、修習生にも意見を出してもらい、事実認定等を議論するといったこともされていますので、是非、合議事件についても興味を持っていろいろ見ていただければと思います。刑事部では、裁判員裁判の評議を傍聴することができるので、これも貴重な機会です。ただし、一般の方が参加する裁判員裁判の評議ですので、裁判官のみの評議とは性質が異なります。修習生は「観葉植物になれ」と言われることもあります(じっと黙って見てろという趣旨です。居眠りなど論外。)。

即日起案(いわゆる問研起案)

実際の事件記録をベースに作られた模擬記録(白表紙)を下に、事実認定等の起案を半日程度かけて実施する即日起案(問研起案などと呼ばれます)が、民事・刑事でそれぞれ1回実施されます。実施後、司法研修所の教官による講評と個別の面談が行われます。裁判官への任官を考えている人にとっては、この起案の結果は非常に重要なものになります。ただし、裁判修習の成績は、この問研起案の結果のみで決まるわけではなく、日頃の記録検討や部内の裁判官との議論の状況、その他修習中のすべての事情を総合し、部内の裁判官の評議によって決められていることが多いです。

まとめ

私は、裁判修習が最も充実していたこともあり、お世話になった部の裁判官の方々と将来一緒に仕事がしたい、こんな裁判官になりたいという気持ちが芽生え、任官を決めたのだと思います。特に左陪席の裁判官は、修習生と期が近いことも多く、人によりますが修習生と密に接してくれるかもしれません。また、あまり書けませんでしたが、書記官の仕事を知る上でも貴重な機会でもあります(書記官は、弁護士が裁判所とやり取りする際に裁判所側のカウンターパートになる存在で、訴訟手続のスペシャリストです。書記官の生態を知り、どう接するか、どう利用するかということも重要です。)。
これから修習生となる方にとって、この投稿が少しでも参考になれば幸いです。

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