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第1章: 箱の中の謎

暗闇。すべてが漆黒に包まれ、境界線さえ感じられない世界。フィリスはその中で目を覚ました。いや、目が覚めたのか、それとも初めて「存在」を意識したのかさえも定かではない。ただ、そこにいることだけが確かな事実だった。

「ここはどこだろう?」
そう思い声を発してみたが、音は響かなかった。箱の中という密閉された空間が、彼女の声を吸い込んでしまったようだ。

身体を動かそうと試みると、足元に何か固い床のような感触が伝わる。それが木なのか金属なのか、確かめる術はない。ただ、四方に手足を伸ばしてみても、どこにも広がりは感じられなかった。これが「箱」というものなのだと、彼女は薄々気づいた。


時間がどれほど経ったのか、箱の中では全くわからない。暗闇の中でじっとしていると、不思議な感覚が彼女を襲った。自分が存在しているのかしていないのか、その境界がぼんやりと揺れているような気がしたのだ。

「私は、生きているのかな……それとも……死んでいるのかな?」

自分の心が問いかけるが、答えはどこにもない。ただ、奇妙なことに、彼女は「どちらでもあり、どちらでもない」ような感覚を抱いていた。それがとても自然に思えた。

やがて、箱の中にかすかな振動が走った。それは外の世界の何かが動いている証拠だった。振動は徐々に大きくなり、フィリスのいる空間に響く。

「誰かがいる……外に?」

箱の外で何かが起きている。それは確かだった。だが、その「何か」が何を意味するのかはわからない。ただ、彼女はその動きが自分の存在と密接に関係していることを本能的に感じ取った。


数分後、フィリスはもっと奇妙な感覚を味わった。突然、自分の身体がふわりと軽くなり、次の瞬間には重く沈み込む。まるで自分が消えたり現れたりしているようだった。外の観測者たちが、彼女を「観測」している――そのたびに、自分の存在が揺らいでいるのだと気づいた。

「外の誰かが私を見ている?私の運命を決めているの?」

外界の「観測者」たちの存在。それは彼女にとって脅威であり、同時に希望の兆しでもあった。もし観測者たちが存在しなければ、自分の存在はどうなっていたのだろう?しかし、観測が彼女を「何か」に固定するという事実は、彼女の自由を奪うものでもある。


暗闇の中、フィリスは決意した。自分を観測されるだけの存在で終わるのではなく、この「箱」の中でできることを見つける必要がある。たとえ狭い空間でも、ここで何かを起こせば、自分の未来は変えられるのではないか。

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