道具のストーリー①:シザーのこと
皆さん初めまして。
埼玉県の動物病院に勤務しております。トリマーのイサといいます。
あまり文章を書くことは得意ではないのですが、ボチボチ道具のことについて書いていけたらいいなと考えています。
まずは自己紹介から。
現在の動物病院に勤務して13年目。その前は、ペットサロンを転々としていました。
自称トリミング道具のマニアです。
基本的に私自身の原動力の基礎は「コンプレックス」だと思っています。
自分語りになってしまうけれど、道具との馴れ初めのエピソードを。ご興味ある方はお付き合いください。
------------------------------------------------------------------------------------
私は小さな頃からトリマーさんに憧れ、迷いなくこの道を選びました。
約15年前、念願かなってペットサロンに就職するも…まともにワンちゃんをトリミングすることもできず、お客様や先輩・会社にたくさん迷惑をかけ「あぁ、なりたい気持ちだけではトリマーになれない。このお仕事に自分は向いていないんだ」と絶望の毎日でした。
当時の自分に「向き不向きをまともに判断できるほどこの仕事に向き合っていないくせに、何を言っているのだ」と今の私なら小言をぶつけてしまいそうです。歳とったんだと思います。
新卒時はなんやかんやブツブツ言って、やることもやらずに結局毎日をやり過ごすだけ。そんなポンコツお荷物の私にも応援してくれる人がいました。
両親です。
両親には自分が著しく仕事ができないことをカミングアウトすることもできず、ひたすら頑張っているポーズだけを見せていたところ、
なんと、就職祝いで両親がシザーを買ってくれることになりました。
申し訳ない気持ちもありつつも…よし、応援してくれる人もいるのだからこれをきっかけに現状を打開しよう!と意気込み、当時のキラキラした先輩が愛用していたシザーと同じものを注文したのです。
それがですね。
…全く使いものにならなかったんですよ。
がびーん!と今なら笑って言えるけど。
切れないハサミを手にしてしまった罪悪感。明らかに先輩の切れ味とは違うハズレくじを引き当てた感。そういう星のもとに生まれてしまった感…
まるで、見た目はトリマーという職種で同じのなのに、キラキラした先輩と自分の使えなさをシザーに重ね合わせて更なる絶望を繰り返す始末。
・両親がせっかく買ってくれたのにハサミが切れないという事実
・両親が応援してくれるのに必要とされる人材ではないという事実
こんなことをなかなか受け入れられずに居ました。
せつないです。ちっぽけなことかもしれませんが、なんだか申し訳なさで押しつぶされそうでした。
そんな新卒ポンコツの極みの時期に「鋏の若菜さん」というはさみやさんと出会い、私のトリマー人生の最初で最大の転機を迎えます。
若菜さんの研ぎ・調整によりそのシザーが生まれ変わったかのように、サクサクカットができたのです。
すると、ワンちゃんが嫌がらない、効率よくカットができる、なにより「切りたいところを捉えることができる」ことに衝撃を受け、
まるで自分が一人前のトリマーさんになったかのような錯覚に陥りました。
単純なものです。
昨日まで「自分なんて」「どうせ」が口癖の奴がくだらない自己否定を忘れ、すっかり道具の魅力に取り憑かれ、このお仕事とはじめて向き合おうと思えた大きなきっかけだったと記憶しています。(基本的な根暗と卑屈は現在も継続中ですが、当時は爆発的に面倒なタイプだった)
・下手くそでも、早くワンちゃんのカットができるようになりたい!
・どんなものでも、扱い方によって生まれ変わることができるんだ!
これが当時の私の活力になり、スタートとなり、今に紐づいていると思います。
つづく。