無礼な行動が観察者に与える影響~創造性やパフォーマンスをどのように低下させるか~実験1
ある会社員と先輩との会話
見えにくい無礼行動の影響を明らかにした研究
私たちの日常生活において、相手の尊厳や感情を軽視する行動が思いのほか頻繁に起こっています。例えば、「大声で怒鳴る」、「他人の意見を無視する」、「人前で他人を批判する」、「侮辱的な言葉を使う」などがあたります。他人の感情を考慮しないこのような発言や行動は、「無礼行動」と呼ばれ、職場や学校など、私たちが日々過ごす環境で発生しうる軽度の攻撃的な行動を指します。
しかし、何が無礼なのかは文化や状況によって異なり、自覚するのも難しいものです。自分の行動が他者にどのように影響を与えるのか、気づかないことがあります。また無礼行動は、明らかなハラスメントや暴力と違い、一見するとそれほど大きな問題ではないように思われるかもしれませんが、無意識のうちにネガティブな影響を及ぼす可能性があります。
今回、この無礼行動についての興味深い実証研究(Porath, C. L., & Erez, A. 2009)を紹介したいと思います。
この研究の面白いところは、無礼行動が、それを直接受けた相手だけでなく、その行動を観察しただけの人間の感情やパフォーマンスにまで影響を及ぼすことを明らかにしています。
この事実は、私たちの日常的な言動が想像以上に大きな影響力を持っていることを示唆しています。些細な無礼さが、周囲の人々の仕事の質や創造性、さらには助け合いの精神にまで影響を与えるのです。
この研究では3つの実験が行われていますが、今日はその中の実験1を紹介します。
実験1の手順
74人の大学生を2つのグループに分ける。この研究の目的は人々のパフォーマンスに影響を与える性格要因を調査することだと説明。
5人ずつの小グループで実験を行う。
実験が始まって7分後、サクラである学生が遅刻して入ってきて謝罪をする。「遅れて申し訳ありません。授業が予定通り終わりませんでした」と。
2つの群で分けて無礼行動の影響をみる。
ニュートラル群(40名): 実験者は遅刻学生の謝罪を受け入れ、すでに実験は始まっているので、実験に参加できない旨を伝える。
無礼群(34名): 実験者は遅刻学生に対して「何なんだ?遅刻して...無責任だな...社会に出たらどうやって仕事するつもりなんだ?」と無礼行動をする。
その後、参加者たちに以下の課題をしてもらう。
10個のアナグラム(文字を並べ替えて単語を作る)を10分で解く(単語並べテスト)
5分間でレンガの使い方をできるだけたくさん考える(ブレインストーミング)
最後に、ボランティアとして追加の実験を手伝うかどうか聞く(組織市民行動をみるため)。
実験1結果の詳細(表も参照)
アナグラムの正解数:
ニュートラル群: 平均5.79個
無礼群: 平均4.82個
レンガの使い方のアイデア数:
ニュートラル群: 平均9.74個
無礼群: 平均7.88個
レンガの使い方の創造性(7点満点):
ニュートラル群: 平均5.61点
無礼群: 平均5.20点
実験者を手伝った人の割合:
ニュートラル群: 50%
無礼群: 26.5%
レンガの攻撃的な使い方のアイデア(7点満点、点数が高いほど攻撃的):
ニュートラル群: 平均2.49点
無礼群: 平均3.04点
「demure(控えめな)」というアナグラムを「murder(殺人)」と間違えた人数:
ニュートラル群: 2人
無礼群: 10人
まとめ
これらの結果から、無礼な行動を観察しただけでも、人々の作業能力、創造性、他人を助ける意欲が低下し、攻撃的な考えが増えること示唆しています。役割外行動であるボランティアをしようとする気持ちを萎えさせ、murader(殺人)という攻撃的な言葉を想起させる誘因にもなっており、無礼な行動は、観察者の心理状態にもネガティブな影響を与える。観察者は、攻撃的な思考にとらわれやすくなり、その結果、職場の雰囲気が悪化し、人間関係に緊張が生じる可能性があります。
実験2に続く
<参考文献>
Porath, C. L., & Erez, A. (2009). Overlooked but not untouched: How rudeness reduces onlookers' performance on routine and creative tasks. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 109(1), 29–44.
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