同じ痛みを共有できる存在-OB・大澤健
2021年度で6年目の活動を迎える【未来の教育イノベーターズ・スクール】通称:FEIS(フェイス)は、これまで様々な人財を輩出してきました。
FEISで学び、それぞれの道へ旅立って行った先輩が今、どのようなことをしているのかインタビューをするこの「OB・OG図鑑」という企画で、これを読む方々に少しでもFEISの魅力を知って頂ければと思います!
今回のOBは「大澤健(おおざわけん)さん」です。
FEIS立ち上げとほぼ同時期から運営として企画設計に携わり、徐々に大きくなるFEISとともに歩んでこられました。
「ざわけん」の愛称で親しまれています。
(FEISに参加した際のざわけんさん:一番右)
それでは、ざわけんさんのインタビューをご覧ください。
1.ざわけんさんについて
「“境界線”と“福祉”がキーワード」
---(インタビュアー:松葉。以下、松)今どんなことをされていますか?
メインの活動として、「越境ことはじめ」というのをやっています。世の中の「境界線」に着目して、その線引きを問い直し、見直していくことで社会に新しい価値を生むことができるのではないか。こんな仮説を軸に、仲間と探究・実験を続けています。
もう一つは、「福祉」領域での活動です。
教育と福祉ってかなり近くにあるんですよね。
FEISの活動の参加者にも、児童福祉に強い関心がある人もこれまでよくいました。
僕自身はFEISやってた時は福祉を意識していたわけではなかったんですけど、去年の2月ぐらいにある先輩に「福祉の現場に入ってみいひん?」って言われたのを機に、現場に足を踏み入れたことで福祉との距離がグッと縮まりました。そして今は、SOCIAL WORKERS LAB という活動のプロジェクトメンバーもしていて、「福祉に関りのない人に福祉に関心をもってもらうには何ができるんだろう」ということを考えるまでになっています。
福祉は社会の土台。そうでありながら、福祉の重要性への認識はあまり高くないのが現状です。僕自身がそうであったように。福祉と福祉外にも明らかに断裂、境界があります。その線引きを問い直し、福祉とわたしたちの距離を見直していく。
福祉に向き合うことは、「境界線」というテーマにも通じているんです。
(写真を撮るのが好きなざわけんさん)
2.今後の進路について
「フリーで色んな人と協力しながら理想の実現を目指す」
---(松)ざわけんさんの今後の進路について教えて下さい。
今ちょうど福祉で関わっていること自体が「境界」というものを考える上で実践しながらやっている形になります。そこで色んな福祉と福祉以外の境界を揺らがすことができているし、それが起きている現象を見ることができているので、そこに来年以降も関りながら、かつ並行して僕自身が境界を問い直すっていう事例にしていけると思っています。
同時に、今まで活動を積み上げてきた滋賀や地域領域においても、新たに境界の視点から動きを作ってみたいです。特定の領域や社会課題にこだわりのある人とパートナーになり、チームを作りながら、互いの欠けた部分を補い合い、それぞれの思いが両輪となって、新たなうねりが駆動するのが理想です。その夢を追って、就職はせず、フリーランスで生きるという選択をしました。
---(松)「自分で道を作っていかないといけない」となった時に、どこか特定の場所に所属するより、フリーでやっていきたいということですか?
自分がやりたいことをやっている人や団体がないので、自分がやらざるを得ないと思っている感じでしょうか。もちろん不安定な道になるし、本当はもっと他の道を選んだら、安泰な生活を送ることもできるだろうなと思うけど、「そこにいったら僕が今もっているこういう感覚は死ぬ」という確信があります。それを殺したら僕にとっては自分の真ん中にあるものが死んじゃうことになるので、やっぱりその道はとれないなっていう感じですね。少なくとも今は。もちろん、たくさん不安もありますし、いまも葛藤し続けています。
3.FEISで得られた価値
「同じ痛みを共有できる存在との繋がり」
---(松)FEISでの経験が今にどういう影響を与えていますか?
僕が運営してた時(2016~2019年度)には阪大の林田君(愛称:リンダ)がリーダーをしていて(2017~2018年度)、彼は今も教育に関わることをやっているのですが、そういう仲間に出会えたのは自分にとって大きな影響を与えてくれたと思っています。
それを感じたのは、自分が教育から離れて立ち止まった時期でした。元々教育を軸に据えて活動しながらも、一度教育から離れて、立ち止まって考えるということをやりました。それは、活動することが評価されるというところに自分自身が引っ張られている感じがしたからです。動いて何か生み出すっていうところが生産性の呪縛に囚われ続けている感じがして気持ち悪くなりました。
でも、そこから離れる時にも「やっぱり社会ってこのままじゃダメだ」と思っているので、「ここから離れていいのかな、逃げじゃないのかな」という葛藤がありました。しかし、リンダとか他の仲間が頑張っている姿を見て、「彼らは頑張り続けているし、そういう存在がいるんなら、僕がちょっと立ち止まっても大丈夫かな」っていう感覚を持てました。そういう自分の選択を支えてくれる、安心感をもたらしてくれる存在と出会えたのはFEISで得られた大きな価値だと思っています。
能力的なところだけじゃなくて、同じような課題感や社会への意識、痛みを共有できる存在と繋がれることは、大きな価値があることだと思います。ちょっと質問に対する回答になっているかは分からないけど。これは経験じゃないな(笑)
(リンダさん(左)とざわけんさん)
4.もう一つのFEISで得られた価値
「自分自身のあり方を見直した」
---(松)講師陣(FEIS顧問やゲスト講師)とのやり取りで印象に残っていることはありますか?
1回生の時に、FEISが始まって一番最初のサマースクールに参加した時に、佐藤先生(FEIS顧問の1人)に怒られたんですよね。それはなぜかと言うと、「態度が悪い」と(笑)。懐かしいな~。
僕が参加した初期のFEISで、1回生の2人と3回生、4回生の先輩とグループワークをする機会がありました。当時の僕はだいぶ斜に構えてたんですが、その議論のプロセスの意味が僕は分からなくて。「その空間で何が生まれてるんだろう。正直、1人で考えたらもっとスムーズに辿り着くところなのに、何をこの人たちはこんなに右往左往してるんだろう。」と、その時の僕の目には映っていました。そこに対して介入するわけでもなく、一歩引いたところで、楽しそうな表情もせず、ただそこに存在していました。
それに対して、「そんな態度やったら帰れ」と佐藤先生に言われて。その時は正直かなりびっくりしました。そういう怒られ方を経験したことが殆どなかったので。その時すぐにそれを消化できたわけではないけれど、後になってそういう自分自身の態度は大きな問題であると理解できるようになりました。「相手に敬意を払う」ということ、「場を信頼する」ということ、「自分でやるのと仲間とやるのでは後者の方が好いものが生まれる」ということ、そういうことが根本的に僕は分かってなかった。あの瞬間の僕の態度には顎の上がった部分が表出していて、そういう姿勢の奴はいらんって言われていたんだと暫くして、その後の経験とかも紐づけながら気付きました。
このままじゃあかんし、「このままじゃ僕は世の中に対してなにもできないんだな」というのは体感として理解するようになり、FEISでは自分にとって基礎の基礎の部分を問うてもらったと思います。
それに、FEIS顧問の方々もそうですし、メンターの先輩、ゲスト講師の方々の姿も含め、自分自身のあり方を見直すことができました。
物事を、同じような想いをもって、しっかり形にして社会に価値を生み出してる人から何を盗めるかと言うと、表面的な戦略ではなく、もっと深いところに違いがある気がします。FEISで言うと資質(教育者×イノベーター)のような、ほんとに“あり方”的な、Beingの根本的な部分っていうのをあの場を通して少しずつ体感しながら、同時にモデルを見ていくっていう経験だったのかなっていうのは今振り返って思いますね。
---(松)それまでほとんど関りがなかった佐藤先生にいきなり怒られたんですね(笑)
そうですね(笑)
でもあれがやっぱり優しさですよね。言ってくれへんもんな、あれ。特にもう学生終わると誰も言ってくれへん。
(楽しそうに話すざわけんさん)
5.運営として経験したこと
「FEISそのものがイノベーティブな活動をしている」
---(松)運営側でFEISと関わってて、先生と距離はより近くなると思います。その中で印象に残っていることを教えて下さい。
FEISそのものが教育イノベーションになり得るものであるっていうのは大きな意義だと思います。「教育イノベーター」という概念を軸に据えて、教育にイノベーションを起こす必要性を声を大にして発信しています。更に、それを担っていく人を生んでいくということ自体って、佐藤先生の大学でいったらFDと構造は似てますよね。波及する影響ってうまくいったら大きくて、それ自体が教育界に対してイノベーションを生む根幹としてFEISがある状態そのものがイノベーティブだと思います。
FEISの運営とは、学生の立場で教育イノベーションの最前線に実際に関わるということです。自分の力をそこに注ぐ体験は、実際に自分自身が何かやるという時に多くのものが生きてくると思います。FEISの運営に関われることは、自分にとってだけではなく社会にとっても大きな価値を生むことになっているのがいいなという気がしますね。
---(松)運営に携わってて、活動自体がイノベーティブなものではないかということをざわけんさんが感じた瞬間はありますか?
FEISがいいっていうことは今だから言えてる部分はあって、離れてはじめて見える部分もあります。僕自身、色んな悩みを抱えながら大学生活を過ごしてきたけど、当時FEISの活動に全てのエネルギーを注ぐことはできていませんでした。色んな葛藤や他の活動にもよそ見をしながらだったので、今振り返ったらFEISにはもっと色んな関わり方、力の注ぎ方できたよなっていう後悔も含めて言ってるんですよね。活動している時はその団体の良さを実感することってなかなか難しいと思います。
その体感をもてる瞬間って簡単に訪れるものじゃないかもしれないけど、それが内から醸成されるのは相当その活動に没入して自分自身を投げ入れてようやくっていう感じだと思います。でもそこまでの覚悟を学生に求めるのって酷なことですよね。FEIS以外の選択もいっぱいあります。学生団体、インターン、起業、などなどある中で「FEISにそこまで絞れるの?」って言ったら、そう簡単な判断ではないですよね。じゃあ、そう思わせてくれるものって何かなって言った時には、やっぱりまずはそこにいる仲間、そして、そこに関わってきた人かなと。間違いなくFEISには大きな価値を生んでいく、そういう可能性っていうのが十分に秘められているって僕は言うし、きっと他のインタビュイーも言うだろうし、僕たちの存在が少しでもFEISに関わってくれる人の支えになったらいいなと。そんな想いでこの話をしています。
6.これからFEISに関わる人へメッセージ
「FEISは漠然とした考えを受け止めてくれる場」
---(松)これからFEISに関わってくれる人(参加者・運営)にメッセージをお願いします。
今、教育っていうのも転換・変化を求められているタイミングで、教育に限らず世の中全体で色んな今まで作ってきたものが限界に来ているところにコロナがきて、色んなものを見つめ直す必要に迫られ、変化に迫られています。
でもそれを変えていくのってすごく難しいことだし、色んな理想が考えられる中で、それを世の中に出していくこと、そのプロセス自体もすごく困難なことです。教育をどうにかしないといけないのはわかるし、教育は絶対大事だけど、でもどうしたらいいんだろう?と漠然と考えている人も少なくないんじゃないでしょうか。そういった考えをFEISという場は受け止めてくれてます。そしてそれを仲間と一緒に磨いてくれて、その先に実際に教育のイノベーションが生まれて社会に貢献する可能性までもっているところだと思っているので、その空間にぜひ一回身を投じてみて欲しいなと思いますし、そこにしっかりと身をゆだねてみるのもいいと思います。僕の1回生の時みたいに一歩引くんじゃなくて、その空間にいる瞬間は身をゆだねて没入することでしか得られないものもあるので。
とにかく志をともにできる仲間が増えてくれると、僕自身心強いです。僕が今関わっている分野は教育ではなく福祉ですが、根底にある思いは変わっていないと自覚しているので、いずれ仲間になっていけると嬉しいです。みなさんと肩を組んで歩めるよう、僕も自分のフィールドで精一杯頑張りますね。
---(松)素敵なお話をありがとうございました。
(地元、滋賀の琵琶湖をバックに)
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