「強い女の子が大好き」「そう、大っ好き」━━萌えの原点を探る|ヤマシタトモコ×えすとえむ対談 「物語」への欲望を語り合う(1/4)
2015年に発売された『ヤマシタトモコのおはなし本』(祥伝社)の電子配信が本日12/7から開始いたします! 配信解禁を記念して、ヤマシタトモコ先生×えすとえむ先生のスペシャル対談(初出:『onBLUE』vol.2(2011年4月25日))を一挙大公開! 同い年でかつ作家としてもほぼ同期、「執筆の場が一番かぶってる」というおふたりが出会いや"萌えの原点"についてたっぷり語り合ってくださいました! 突然始まる朗読劇(官能小説風)にもご注目♡
■ 「これが、えすとえむさんなの!?」
―お二人の出会いはいつですか?
ヤマシタ 出版社の飲み会です。4年くらい前かな。
えむ ユイちゃん(阿仁谷ユイジさん)がミュール履いてたから夏だったと思う。
えむ ヤマシタさんとは、テーブルは喫煙と禁煙で別卓だったから、最初は挨拶だけで。
ヤマシタ えむさんと挨拶したときは「これが!? これがえすとえむさんなの!? Really!? 気さく~!」という印象で。
えむ 第一印象それかー(笑)。
ヤマシタ そのとき「『愚か者は赤を嫌う』(旧版・宙出版/新装版・小学館)が素晴らしい!」って伝えたら「スペインまで取材に行ってきた」と熱烈に語ってくれました。
えむ アツかったんです、取材。そしてそれをすごく人に言いたい時期だったんだと思います。
あの頃、東京漫画社の他に「メロメロ」(宙出版)でも一緒に載っていたから。掲載中もお互い読んでたんだよね。
ヤマシタ 執筆の場が一番かぶってるんですよね。(祥伝社、東京漫画社、リブレ出版、宙出版など)
えむ 私のヤマシタさんへの印象は「細い! 細くておしゃれが来た! ヤマシタさんだ~」と。そのときから私は「サインをもらわなきゃ!」と狙っていました。最後に「宴もたけなわなところ、場を乱して申し訳ありませんが…」的に言い出したりして。ユイちゃんにももらった。
ヤマシタ えむさんは喫煙テーブルにいて、あのときはあんまりしゃべれなかったけど、そんなことを考えていたんですか…。
えむ うん。その後も会って飲む機会はそれほど多くはないけど、ツイッターとかで日々交流してるよね。
ヤマシタ そうそう。えむさんは会う度に靴を褒めてくれます。
えむ いつも素敵な靴を履いてるんだな~。足下ばっかり見てる。…あ、何か言葉が悪いなあ。
ヤマシタ 足下見てる(笑)。たまたまなんだけど、会うときはえむさんが好きそうな靴ばかり履いているなあ。レースアップとか。私も「この靴、えむさんの漫画に出てきそうだよなあ」と思って履いていたことがあったりします。
えむ この前も、とても素敵な靴を履いていたんです。
ヤマシタ 次に何の靴を履いて行こうか、プレッシャーになりますよ。
えむ いつネタ切れなんだ。
ヤマシタ すぐ切れますって。
えすとえむさんは『IPPO』(集英社)という靴職人漫画を執筆するほど靴好き。
■ 挿絵、描いてくださいよ。
えむ 最近通い始めたというフィットネスはどうですか?
ヤマシタ まだ1回しか行ってませんが、これなら私でも続けられると思った。一人で黙々とする作業。誰とも話さずマシーンをやり、自転車をこいで1時間で帰る。
えむ 寿司屋の客みたい。すっと来て、黙って帰るという。
ヤマシタ そう。ランチメニューが〝トン〟と出てきてさっと食べる。
えむ スポーツクラブを題材に描いたらいいのに。面白い人いっぱいいそう。
ヤマシタ 作品って、BLで? 〝肉体の肉〟感を感じますよね。
えむ 痩せてたんだけど、30代になってベルトの上に肉が乗るようになった人と、トレーナーの組み合わせがいいんじゃないかな。
ヤマシタ 鍛えてる細マッチョなトレーナーと、ちょいメタボな客、とか。
えむ ちょいメタボは、とても萌えるよね!
ヤマシタ マシーンの使い方がわからない彼を見かねて、…と縮まる距離。
えむ いい!
ヤマシタ 私の中ではリアルゲイ的な光景。「汗でムンとした尻が…」(朗読調)みたいな。
えむ 小説なの!?
ヤマシタ ええ(笑)。突然、漫画家の私が小説を書いてきたと思ったら、官能小説やゲイ小説のような代物で…と、いう流れ。
えむ ノリはスポーツ新聞に載っている雰囲気みたいな感じに聞こえましたよ。
ヤマシタ ゲイの官能小説だから。
えむ 「達郎は…」(朗読調)。
ヤマシタ 「脱いだスパッツからほのかに立ち込める男のにおい…」(朗読調)。
―小説をお書きになって、挿絵をえむさんにお願いしたら良いじゃないですか(笑)。
ヤマシタ いいな、ぜひお願いします。尻とスパッツの感じをぜひ。
えむ 尻とスパッツを描写することは決定してるんだ(笑)。
ヤマシタ もちろん。
えむ (爆)。そして「君はいつもここへ一人で来るのかい」(朗読調)!
ヤマシタ 「ちょっとその短パンが短過ぎるんじゃあないか」(朗読調)! ……あ、今のところも挿絵お願いします。
えむ 語感が少しおかしい。言葉尻が変だ。でも、これが商業ベースで実現しているところは見たい。
ヤマシタ けっこうみなぎってきた…! スタンスはギャグなんだけど、内容はガチでまじめに書いたら面白いよね。
■ 萌えの原点
―同い年のお二人ですが、幼い頃はどんな漫画を読んでいましたか?
えむ 小2くらいから「りぼん」を読み始めたんですが、最初は混乱してましたね。雑誌を理解できていないから「この読みものは、なぜこんなモヤモヤするところで終わっちゃうんだ!」って。すぐさま書店に行くものの、同じ本(号)しかないぞ! とさらに当惑。
ヤマシタ りぼん」は『姫ちゃんのリボン』(集英社)とか『ママレード・ボーイ』(集英社)がやってた頃。
えむ とにかく岡田あーみん先生が輝いていました。
ヤマシタ 今でも突然読みたくなりますよね。
えむ 初めて買ったコミックスは、楠桂先生の『ごめんなさいこ♡ぱわあ』(集英社)。
ヤマシタ 私も楠先生、大っ好きでした‼ 小学生のとき一番ハマっていたのが楠先生の作品で。『桃太郎まいる!』(集英社)も! 今考えると、楠先生って、私の萌えの起点になったものが、けっこうあるかも。
えむ 本当に憧れだったなあ。あのスカートのプリーツの美しさったら。
ヤマシタ 目の描き方も。私、「なかよし」では『きんぎょ注意報!』(講談社)が好きだったなあ。「りぼん」と「なかよし」、両方買うんじゃなくて、友だちと協力して相互に読み合う形で読んでました。
えむ けっこう、並行して両方読んでいる世代だよね、私たち。少コミも面白かった。
ヤマシタ 私は少コミでは『くちびるから魔法』(小学館)が好きでした。
えむ あとは『×―ペケ―』(小学館)を単行本で。
ヤマシタ 他には白泉社系もよく読んでました。
えむ 私、「花とゆめ」と「LaLa」(ともに白泉社)は読んだことがなかった。あとはジャンプ(「週刊少年ジャンプ」(集英社))、サンデー(「週刊少年サンデー」(小学館))とかね。
ヤマシタ 私はジャンプ、マガジン(「週刊少年マガジン」(講談社))、サンデーでいくと、サンデーっ子。3つとも読んでたけど。
えむ 私は『うしおととら』(小学館)だったね。もう、語り出すと朝まで語れますね。でも同じところを行ったり来たりするだけ。
ヤマシタ どこですか?
えむ とらと真由子の関係。大好き過ぎる。
ヤマシタ 私も〜!!! この前も電車の中でそういう話をしましたよね。とらは絶対復活して、真由子とくっ付くからって。
えむ そう! そう!!
ヤマシタ あれは私の中で二次創作してますもん。
えむ 19巻のデパートの回と最後の「甘いもの大丈夫? ケーキも焼いてあげるね」って髪をとかしてあげるところは、嗚咽をあげましたよ。
ヤマシタ 海のところでね。「とらちゃんがデートするの」ってね。あーもう、涙出てきた。「夢物語はわかっているよ」って真由子が言うところ。あそこ、一番熱いわ〜。
えむ 「それでもねえ」ってあとに続かないんだよね。私も鳥肌立ってきた!
ヤマシタ 髪をすいてあげるんですよ。藤田先生はすごいよー! 藤田先生ー!!
えむ 人生で初めて漫画であんなに泣いたなあ。ティッシュが足りないったら。
ヤマシタ あの終わり方はまじでスゴイですよね。いろいろなものを教えてもらった。
えむ あの風呂敷のたたみ方はすごい。理想のひとつ。でも自分の漫画の立ち位置とは全然違うんですけどね。
ヤマシタ 〝大きめのクリーチャーと少女〟とか、〝おじさんと少女〟への萌えの原点は、うしとらと宮崎駿です。
えむ 私、〝チームジジイ〟萌えは宮崎作品から来ている気がする。
ヤマシタ ジジイが幼なじみのまま大きくなったような、あの感じね。商店街かって。
えむ たまらん! あと、おっさんと少女ね。
ヤマシタ 大きくて強いおっさんと、それを凌駕する強さを持った少女。すごい好きですよ!
えむ そう! たまらん。あと王女とヘタレだよね。
ヤマシタ クシャナとクロトワみたいな。
えむ 萌えの原点はそこ。いまだに引きずっています。あれが「萌え」だったんだろうな。射抜かれていた。
―「萌え」って言葉を知る前に好きになったものって、何か忘れられないものですよね。
えむ もう「萌え」なのか「影響」なのか「刷り込み」かわからない。クシャナが好き過ぎて、アシスタントさんと3時間も語ってしまったこともあるくらい。
ヤマシタ 漫画版『風の谷のナウシカ』(徳間書店)で蟲に襲われた場面で、怪我したクロトワを連れて子守唄を歌っているところが実に素晴らしい。「子守歌を歌ってやがる」ってクロトワがこぼすんですよね。髪切って「たむけだ受け取れ」って言うところも素敵!
えむ やりたい! 私もやりたいなあ!
―描きたいんですか、現実でやりたいんですか。
えむ う〜ん。描きたい? いや、誰かにやりたいんですよ。
ヤマシタ うん。旅行に行くときとか友だちに駅弁を「たむけだ受け取れ」って渡そう。
えむ あと、清水玲子先生の『月の子』(白泉社)とか大好きでした。あの作品はBL的な萌えありますよね。読んでる当時は意識してなかったけど。
ヤマシタ 確かに、『輝夜姫』(白泉社)とかでもそうですもんね。
えむ スケールの大きい少女漫画って素敵。
ヤマシタ 昔の少女漫画に特に多いけれど、SFや異世界トリップ、未来ものだとか、すごく好きなんですよ。最近は読んでないなあ。
えむ 女の子が何かでっかいものをしょっているという成分に触れてない、最近。私たち、強い女の子が大好きなのにね。
ヤマシタ そう、大っ好き。だけど、自分では描かないんだよね(笑)。
えむ 待ちの姿勢で(笑)。青年誌なんかでは存在すると思うけど、少女漫画で読みたいんですよね。少女に向けて女性が描いてほしい。
えむ 『BASARA』(小学館)みたいな。女の子が弱いけど強いやつ。
ヤマシタ そうカッコいいメンズに助けられながらね。弱いんだけど、みんなに祭り上げられる存在である強さ。
―読者募集しましょう。
えむ いいですね。「あなたの好きな少女漫画(SFぽいもの)」を教えてほしい。
第二回以降も随時更新してまいりますのでお楽しみに! ヤマシタトモコ先生の『違国日記』最新5巻は本日12/7発売、最新26話は本日発売の「FEELYOUNG」1月号巻頭カラーでご覧いただけます。是非あわせてご確認くださいませ!
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