ねむ×ヤマシタ対談 こぼれ話1 【こんな風に生まれる『ボンクラ』と『違国日記』】《アンコール掲載》
※2017年11月 FYnetに掲載された記事を修正のうえ再掲したものです。
揃って大好評発売中!のねむようこさん『ボンクラボンボンハウス』1巻と
ヤマシタトモコさん『違国日記』1巻。
おふたりの近い刊行を記念して掲載された初対談はこちら。
実は、話が弾みに弾み、収録しきれなかったこぼれ話もたくさんありました。
今回から3回にわたり、仲良し対談のこぼれ話を公開しちゃいます!
1回目は「こんな風に生まれる『ボンクラ』と『違国日記』」と題し、
おふたりの漫画制作の現場をご紹介。
お楽しみください!
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◆「4コマ方式だとやりやすいんです」
——ねむ式絵コンテプロット
——ネームはどんな風にやってらっしゃるんですか?
ねむ:まずは4コマ漫画がずっと縦に繋がってるみたいな絵コンテプロットを作っています。『三代目薬屋久兵衛』の途中からやるようになった方法なんですが、これを固めてからネームに入るので、ネームではページごとにコマ割りをするだけの作業になるんです。
▲ねむようこ『ボンクラボンボンハウス』1巻5話より。
ヤマシタ:超丁寧だね。
——どういう風に描きだすんですか?
ねむ:私は描けるところからやったりします。一番描きたい見せ場から描くと、前半に何が必要か見えやすくなる。
あと、私の癖として前半を長くしてしまいがちなので、一通りできてから不要な所を削るのが、この4コマ方式だとやりやすいんです。
——「削る」というのは、ネームをやっている1日の中でジャッジしますか? それとも翌日になって一通り見直してから削ります?
ねむ:プロットは1日か2日でやるのでまちまちです。
ねむ担当:私もこの方式はすごく見やすいです。
ねむさんは、全部わかって送ってくださっているので「このエピソードはたぶん長いと思うんだけど、こことかこことか見てください」みたいに言い添えてくださって。
全体のバランスを見て削ったり強調したりする箇所が相談しやすいんです。
▲ねむようこ『ボンクラボンボンハウス』1巻5話より。
ヤマシタ:なるほど。
担当さんからは「ここの顔が大きく見たいです。」とかがあらかじめ言えるんですね。
ねむ担当:そうです。そうです。
ねむ:絵コンテプロット状態では、全部同じサイズのコマだけど、「これは大きいコマで」とか「このシーンをページの最後に持ってきたい」みたいなポイントのアタリを付けられるんだよね。
これをスキャンして、コマを切り離して、大体5コマずつくらい1ページに配置する。
▲ねむようこ『ボンクラボンボンハウス』1巻5話より。
ねむ:それぞれのコマを、大きくしたり小さくしたりして、流れを大体把握して、ネームの下描きを作ります。
それを参考にネームにしていく、みたいな。
——プロットをフル活用してますね。
ねむ:そう。めっちゃ使います。あと、コマの数で「今、何ページできとるな。」みたいなの把握しやすいんです。
大体30コマとか16コマとか、調整できます。
ヤマシタ:そうか、もう頭の中にフォーマットができてたら「今、これで1ページ分、2ページ分」とか計れるわけだ。
ねむ担当:あと、絵コンテプロット時にすでに良い表情が描かれてたりするので「もうこのままで」と、そのまま下絵にされてたりしますね。
▲プロット→ネーム→完成原稿。オキちゃんとカズキの顔がそのまま!
ヤマシタ:確かに、ネームで一番いい顔が出てしまったりする時があるんですよね。
ねむ:ペン入れしてもぜんぜんダメだったりして。
ヤマシタ:めちゃめちゃいい顔なのに、めちゃめちゃデッサン狂ってんなとか。「どうする?」ってなる。もう、元の絵を1回も見ないでやるってことにしないとダメなんですよね。
ねむ:もう1回新しいやつを作る気持ちで描くことになりますよね。
ねむ担当:この方式はとてもいいと感動して、ねむさんに「他の作家さんに教えていいですか?」とお願いしました。私が担当している作家さんにジャンジャンお伝えいたしまして、うまく取り入れてくださった方もいらっしゃいますよ。
ねむ:やったー!
——大発明ですよ。
ヤマシタ:すごい。
ねむ:本出そっかな。
ヤマシタ:一儲け狙ってるんだ。
——(一同爆笑)
◆「ああ、もうちょっと我慢すれば山場だ。」
——ヤマシタ式ネーム
——ヤマシタさんはどんな風にネームをやっていますか?
ヤマシタ:私は全部、同時進行です。プロットとも言えないようなメモを、バーッて書くんです。そこには、描きたいこととやりたいこと、大事なシーン、思いついたことなどを書く。
そこにたどり着くためにどうするかっていうのを、1ページ目から、コマ割りと入れる絵とセリフを同時に。同時にやらないと考えられないから。
——あたまの1ページ目からいくんですね。
ヤマシタ:そうですね。頭から描いていけば、「ああ、もうちょっと我慢すれば山場だ。」みたいな感じが分かります。
——それは、長年の勘みたいなものなんですか?
ヤマシタ:勘というか…まあそうですね。
「あともうちょっと、ここまで我慢して描けたら山場で、8ページくらい取れる。8ページ取ったら、残り8か。でも落ちにするにはちょっと長いなあ。」みたいに調整しつつ。
その後、自分で読んでみて違和感を感じたら、直すべきところが見えてくる。「あ、頭2ペーシ足せばいいんじゃん。」みたいに直していくと、最初の違和感は、急にスーッてなくなって話は進んでいきます。
——ネームの運動神経みたいなものが良いんですね。
ヤマシタ:どうでしょう、私は基本的にあきらめが早いので。ちょっとやってできなかったら、これは何かたぶん、全部間違ってるんだと思って、やり直してます。だから、結構途中まで描いて止めてるネームがありますよ。
——レイヤーを重ねて、分けてるんですよね。
ねむ:おお〜! その同じページの?
▲ページごとにレイヤーが分かれている
ヤマシタ:そう。いちいちデータを描き出さなきゃいけないんだけど。編集さんにはPDFデータで送る。
ねむ:なるほど。
ヤマシタ:結構ボツにしたところあるんです。あ、これボツにしたネームですよ。
▲『違国日記』2話ボツネーム画像
ねむ:読んでいいんですか?わーわー。
ヤマシタ担当:いただいたネームと全然違いますね。
ヤマシタ:全然違うんですよ。それを描いたのは、1話目を描く前かもしれない。
ねむ:詰まった時は本当に戻った方が早い。全部、捨てた方が早いよね。
ヤマシタ:そうそう。詰まってるところで「うーん」って言ってるより、読み返してどこが間違ってるのかを考えた方が早い。「もう頭っから、なんか違うじゃん。」とか「ここが足りてないんだ。」とか。
ねむ:とてもわかる。
◆「これもう小説じゃん」
——文字でちゃんとしたプロットを書いてみると
——漫画って、キャラ、セリフ、コマ割り、表情を1人の漫画家が考えるから、マルチタスクな作業ですよね。
ねむ:でも、色々なことを一緒に同時にガーッてやっとるように見えて、意外と1つのことをやっているような感覚ですよ。
ヤマシタ:まあ、確かにね。独立した作業ではないから。結局は「漫画を描く」っていう作業。
ねむ:そうそう。
ヤマシタ:コマも、ただ絵の区切り線として機能しているコマもあれば、表現として機能するコマもあるし。例えば、この横線だけでシュッて途中から消えてく線とかは、違う雰囲気が出るじゃないですか。
▲ヤマシタトモコ『違国日記』1巻4話より。
ねむ:うん。
ヤマシタ:これはもう、単純なコマ(というパーツ)じゃなくて、漫画そのものの一部なんですよね。
ねむ:実際、セリフとかもそんなに切り離して考えてない気がしますよ。
——全部一緒なんですね。
ねむ&ヤマシタ:うん。
ヤマシタ:私は特に、文字だけで起こすと「この量のセリフを言わないと伝わらないけど、この量は1コマに入らない」みたいなことになってしまうんです。だから同時進行でやらないと怖い。「これもう小説じゃん」みたいになっちゃう。
ねむ:なるなる。短編のプロットを作っとる時とかに、よく「小説だこれ」みたいなことありますよ。
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次回「こぼれ話② 漫画のごはん」は5月8日(金)更新!
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