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《フィーヤン30周年記念》安野モヨコ×新旧担当スペシャル座談会!②

今年30周年を迎えたフィール・ヤングと、昨年画業30周年を迎えた安野モヨコさん。1995年に連載を開始した『ハッピー・マニア』から現在連載中の『後ハッピーマニア』まで、新旧担当をまじえながら当時から今までの作品のこと、フィール・ヤングのことを赤裸々に振り返ってもらいました。

《『FEEL YOUNG』2021年8月号掲載分を4回に分けて公開致します》

安野モヨコ Moyoco Anno
高校在学時に「まったくイカしたやつらだぜ!」でデビュー。主な作品に『ハッピー・マニア』『働きマン』『さくらん』『シュガシュガルーン』などの作品がある。『鼻下長紳士回顧録』で第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、小誌で『後ハッピーマニア』、「I’m home.」でエッセイ『ふしん道楽』を連載中。
吉田朗 Rou Yoshida
元『FEEL YOUNG』編集者(現在は引退)。『ハッピー・マニア』を立ち上げたかつての担当。

小林愛 Ai Kobayashi
『FEEL YOUNG』編集者。『後ハッピーマニア』を立ち上げた現担当。

最初からマンガ家で食っていくという軸があった(吉田)

――安野さんは高校卒業直前にデビューされているんですよね。そこからしばらくは少女誌で描かれていて。

安野 そうですね。家の事情もあったんですけど、バイトはいっぱいしました。学校生活とマンガを描くことしか知らない生活だと、この先マンガが描けなくなるんじゃないかと思って……。特に水商売をしていたことはすごく勉強になったというか、それで大人になったところはあると思います。

小林 だから、フィール・ヤングで描き始めた時、すでに精神年齢はだいぶ高かったんですね。でも実際の年齢は若いから、その感性を持った状態で『ハッピー・マニア』が描けたのかなと思いました。

ハピマニ01_result

吉田 安野さんには、最初からマンガを描いて食っていく、という軸があったんだよね。それがあると何をやってもネタになるというか。よくマンガ家さんが、殴られると「痛い」と思いながらも「これで1本描ける!」と思ってしまう、と言いますよね。

安野 確かに、どこかでネタにできるという気持ちはあるんですけど、それが前面に出すぎると、殴られたことに正面から向き合わなくなるんですよ。「いいよ、どうせネタにできるし!」とか思っていると、自分の心が助かってしまう。そのうち、リアルに怒ったりしなくなるんですよ。そうすると描くものが嘘くさくなる。だからいったんマンガ家であることは置いておいて、その時はめちゃめちゃ真剣に怒ることが大事だなと思います。

吉田 なるほど……ある種の逃げみたいになっちゃいますもんね。

小林 お話を聞いていると、当時は社交的でお酒好き!みたいな方がたくさんいらしたようですし、時代柄もありますけど男性との関係も豊富な作家さんがたくさんいらしたんだなあと。そういう方たちが、マンガを描くことを選んだことが興味深いなとも思います。もちろん今のマンガ家さんにもそういう方はいますが、ちょっと雰囲気が違うのかなあと思います。

――吉田さんと安野さんはほとんど打ち合わせをしていなかったとのことですが、小林さんとはいかがですか?

小林 私もそれほど打ち合わせらしき打ち合わせ……はしていないと思います。ざっくり「どういう展開になるんですか?」とか「そろそろこういうことを描きますか?」とか雑談のようにお話しするくらいで。

安野 いや、小林さんはすごくちゃんとしてる! 私が前に言ったまま忘れていた設定を「あれはどうなっていますか?」とか「このあたりを読者は読みたいと思います」とポイントをちゃんと投げてくれる。

小林 雑談で安野さんが「こういう人が出てきたらおもしろいよね」みたいなことをポロッと言ってくださるので、「絶対に見たいなその人!」と思うと、「あの人は出てこないんですか? 見たいのですが……」と念押ししてしまうんです(笑)。

――安野さんは編集さんによっていろいろなスタイルがあっていいかなと思っていらっしゃるのでしょうか。

安野 そうですね。吉田さんは時々思いついたようにとんちんかんなことを言うので「そんなことあるわけないじゃないですか!」って怒りのあまりネームが進んだりもするので(笑)。

吉田 逆をつくことで、僕は反作用みたいなものを引き出しているんですかね?(笑)さっきの、「みんな彼氏がいる」とかね。結果オーライです。

安野 (笑)。小林さんとか若手の編集さんには、若い人のセンスを聞けるのが助かっていますね。単行本の表紙をどれにするか、とか。自分がいいと思うものはやっぱりちょっと古い感じがする時もある。それはそれでいいんだけど、そこにプラスアルファすることで、今の人でも手にとろうと思ってくれるようなものにしたい。それには若くてセンスのいい人の言う事を聞こうと思っています。

小林 それは『後ハピ』がはじまってからすごく言ってくださいますよね。

安野 老いては子に従え、みたいな(笑)。

50歳の自分が読みたい恋愛もの、
と考えて描いているのが『後ハピ』です(安野)

後ハッピーマニア1cov帯つき

――『ハッピー・マニア』連載時のご自分と、『後ハッピーマニア』を始めてからのご自分とに、変化を感じますか?

安野 感じます。若い時って、自分の前にいっぱい人がいるわけじゃないですか。それを後ろから抜いていくぜ!っていう感じだから、楽といえば楽なんですよね。できなくても何も言われないし、失敗してもともとだ!っていう気持ちでできる。あとリアルタイム感があるというか、自分のセンスとか感覚が完全に「今」と合致しているっていう自信があった。

吉田 うんうん。

安野 でも今は、4、50代の人の感覚としては今と合致しているかもしれないけど、30代とかもうちょっと下の人たちの感覚は完全にはわからなくて。どこかにずれはあるんだと思う。でもフィール・ヤングを読んでいる人たちに「化石……?」とは思われないように、「これも読もうかな」くらいに思ってもらえるようにはしたいなと。埋められる単純な違いは、若い編集さんたちに聞きながら埋めていきたいです。ただ、自分が若い女の子の気分で恋愛を描くのは無理だと思う。50歳の自分が親のような目線で若い女の子の恋愛を描くことはできるかもしれないんですけど……恋愛ものはディテールとかエピソードの新しさが大事なので。今の子たちの生活にはこういうイベントがあるとか出会いがあるとかは描けなくなっていく。それができる人もいると思うんですが、私にはできないなと。

吉田 特に学校を舞台にするのは相当難しいですよね。

安野 今の学校って教室の壁がなかったりするらしいですしね(笑)。私が50代になっても読みたいマンガは歴史ものみたいな物語としてのおもしろさがはっきりあるものなんですよ。そうじゃなければ刑事もののような事件解決ストーリーとか。そういう中でも、もし自分が恋愛ものを読むとしたらどういうものが読みたいのかな……?と考えて描いているのが、『後ハッピーマニア』です。

小林 4、50代が主人公の物語は多くないと思うので、かなり新鮮味にあふれていると思います。

吉田 めちゃくちゃ難しいテーマに挑んでいますよね。それをやってのけている安野さんは本当にすごいなあと思う。小林さんがいてよかった。僕だったら担当できない……。

安野・小林 (笑)

小林 時代設定は完全に「今」ですし、『ハッピー・マニア』で20代を駆け抜けたキャラクターたちが、あの時とは恋愛や結婚に対しての価値観が変わってしまった世の中で40代、50代になって戸惑いながら生きている……そういうリアルさがある。彼女たちの姿を、やがてくるかもしれないものとして今の2、30代が見ることにも意味があると思います。

吉田 モデル学習みたいな感じだね。
小林 読みながら、そうやっていろいろ考えるのも楽しいなあと思うんですよね。

安野 4、50代って親の介護とか子どものこととか、自分の闘病とか、すごくハードなライフイベントがたくさんありますよね。それをそのまま描いたら、かなり重い内容になっていくと思うんですよ。だからといって全て無視して描いたら「そんなわけない」というものになってしまう……なので「もし自分がその状況だったら?」と考えて、「どうやって乗り越えるか」を描いているところがありますね。

(インタビュー・文/門倉紫麻)

▶▶▶③に続く!▶▶▶

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