諏訪太一

寂しいから書きます。 どこかの朝。

諏訪太一

寂しいから書きます。 どこかの朝。

最近の記事

凪、或いは経る月日のこと

少年は波を見ていた。 朝焼けの押し寄せる波打ち際で、 絶えず漂う揺らぎに触れていた。 夜を超えた泉は、埃と甘い砂の香りを揺らした。 それは、秘密そのものだった。 思えばそれは、遥か昔から少年のなかに脈うっていた。 陽光が、肌に触れた。 際限なく続く長い列や、柱や、その巡りが 少年に刻まれていた。 波が触れ合い、脈うち、 花や雫が身を揺らすことを少年に教えた。 そうして少年は、自らの爪先と空の同じことを知った。 星が透け、大地が走り出したとき、 そのすべては初めから一つ

    • 佐保姫

      峠に陽差しが漂い、春が轍を隠した。 朝露に濡れた木々は嫋やかに小径をつくり、行く先を示した。 私は、天の近いことを知った。 あるのもは聳え、あるものは綻び揺れるこの森は、人々のようだった。 花弁が一枚落ち、不細工に風に揺られる花の装いは、音や足取りの行き交う街に佇む私自身のようだった。 それはやがて土に還る。 いつの時代か、新しい花を支える土になる。 この森は、蠢く一塊の生物だ。 佐保姫は微笑み、欠伸をしたあと、それを着るだろう。 勿忘空、靡く雲が山を包み、とうとう彼女を