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■演奏会の感想:オールラヴェルプログラムの演奏会@ミューザ川崎 20250125

久しぶりの投稿ですが、今年は、主にコンサート、絵画展、本、映画などの感想を投稿してみようと思います。

タイトルは、今年初めて出かけたコンサート。コンサートの1週間前に急きょ聴きに行くことにして、お誘いくださった音楽家の方に種々解説いただいてとても楽しめたので、あとで読み返せるように記録しておくことにしました。

当日プログラム(演奏順):

  • 古風なメヌエット

  • ピアノ協奏曲 ト長調

  • (休憩)

  • 左手のためのピアノ協奏曲

  • ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲『展覧会の絵』

指揮:矢崎彦太郎
ピアノ:菅野潤
オーケストラ:ザ・シンフォニカ
(敬称略)


■古風なメヌエット

  • 背景と特徴

  • ラヴェルが20歳のころピアノ曲として作曲して、友人のピアニスト:リカルド・ビニエスに献呈した、とはwiki情報。この曲は作曲から30年経ってから、ラヴェル自身によりオーケストラ用に編曲、自身の指揮で演奏会で披露したということで、実質的なデビュー作だったため格別な思い入れがあったのでは、とのこと。

    • 所感

    • 約6分と少し短い曲で、今回のコンサートをコース料理に譬えると前菜のようでもありました。初めて聴く曲だったので、印象がさほど強くなく、感想をまとめるためにピアノ版とオーケストラ版の両方をYoutubeで聴きながら、この曲ができた背景などをネットで調べてまとめました。オーケストラ版の編曲をしたという1929~1930年というのは、記憶障害などが始まった後ということでした。音楽家としての仕事のまとめに入っていた時期だったのかも知れないと思い当たりました。

■左手のためのピアノ協奏曲

  • 背景と特徴

  • ラヴェルが1930年以降に完成した3つの作品のひとつで、左手だけで演奏するピアノ協奏曲。ピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインの依頼により作曲されました。ラヴェルは制約を課すことで新たな創造性を引き出す「不可能事への挑戦」を楽しんだとのこと。

  • 音楽的特長

    • 豊かな叙情性とジャズの影響、諧謔的な行進曲のリズムが融合。

    • 切れ目なく続く1楽章形式で、以下の3部分で構成されています:

      • レント(導入部):苦悩に満ちた神秘的な雰囲気。

      • アレグロ(中間部):熱狂的で複雑なカデンツァが特徴。

      • 終結部:皮肉と哄笑を伴う劇的なフィナーレ。

    • ピアノ独奏の技巧が際立ち、ジャズ的要素を盛り込んだ旋律が展開。

  • 所感

  • この曲を作ったとされる1930年ごろは、「古風なメヌエット」の編曲をした時期とも重なりますが、ラヴェルにとって晩年ともいうべき時期であったのでしょうか。この時期に先行して、サティなどの革新的な音楽家が現れており、自分の音楽はもう最先端ではないということを感じ始めつつも、大好評を博した米国での演奏旅行で、本場のジャズやニューヨークの街並みに感銘を受けて、この曲を含む帰国後の作品に反映するなど、クリエイターとしての意欲もあり、名声を揺るがぬものとした時期と読み取れました。体調不良も始まったために、決して長くはないと思われる残り時間を意識して力を振り絞った時期でもあったのだろうと推察しました。
     とても華やかな難曲で、左手だけで演奏している、というのが信じられなくてついついピアニストの菅野潤先生のひざ元に目をやると、右手を膝にのせていらして、改めて何という曲だろう、と驚嘆しました。


■ピアノ協奏曲 ト長調

  • 背景と特徴

  • 1930年作のため、やはりラヴェルの後期の作品。この作品を「快活華麗であるべき」と述べ、自身が演奏する予定で作曲しました。健康上の理由でツアーは断念しましたが、作品はラヴェルの大胆な色彩感覚と精緻な計算で作られている。

  • 音楽的特長

    • 第1楽章 アレグラメンテ
      ムチの音で始まり、軽快なジャズ的要素を含む2つの主題が登場。クレッシェンドで劇的に高揚して終わります。

    • 第2楽章 アダージョアサイ
      サラバンド風のリズムと左手の伴奏が対照的。調が不安定になる中、最終的には安定したホ長調に戻ります。

    • 第3楽章 プレスト
      活力に満ちた終楽章。小太鼓の連打や行進曲風の楽奏が展開し、ゴジラのテーマを想起させる主要主題が登場。目まぐるしい楽器の交代とリズムで最後は華やかに終わります。

  • 所感

  • いたずらで俊敏な妖精が飛び回っているかのような、花火がパンパンはじけるような、賑やかで華やかなお祭りのような、それでいて洗練された曲を生き生きと演奏されるオーケストラとピアノのコラボに釘付けになりました。

■亡き王女のためのパヴァーヌ(ピアノアンコール)

  • 作品の概要

  • 1899年に作曲されたラヴェルの初期の代表作。調べてみて、ラヴェル自身、この題名は「亡くなった王女の葬送の哀歌」ではなく、「昔、スペインの宮廷で小さな王女が踊ったようなパヴァーヌ」だとしている、とのことから、当初イメージしていたような、幼くして亡くなった王女を回想する曲ではないということを知りました。また、パヴァーヌというのは、16~17世紀にかけてヨーロッパの宮廷で普及していた舞踏とのこと。メヌエットも舞踏の音楽だったので、宮廷での踊りというのは当時の作曲家にとって曲を作るうえでの重要な題材だったのでしょうか。

  • 所感

  • 華やかなピアノコンチェルトが2曲続いた後、ピアニストの菅野潤先生は、ふと空(くう)を見上げて、祈りのように見えるしぐさをされて間合いを取ってからアンコールのこの曲を弾き始めました。さわさわと首~肩から背中・腕に静かに何かがはしるのを感じました。たとえようもないくらいの美しさと、何と言ってよいのか、生きる哀しみのようなものも感じて、繰り返される主題と美しいアルペジオを聴くたびにこみあげるものがありました。
    指揮者も、オーケストラの団員の方たちも、客席も、静まり返って息もせず身じろぎもせずに、はかなく美しい曲の世界を共有したひと時でした。


■ムソルグスキー「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)

  • 作品の背景
    ムソルグスキーが親友の画家ビクトル・ハルトマンの遺作展を訪れた印象を元に作曲したピアノ組曲。ラヴェルが管弦楽編曲を行い、色彩豊かな表現で大成功を収めました。ハルトマンは、ムソルグスキーと親しくつき合いだしてからまもなく、39歳の若さで動脈瘤のため急死したとのこと。

  • 編曲の特徴

    • ムソルグスキーの原曲に忠実でありつつ、近代的な管弦楽法でまばゆいほどの効果を与えました。

    • ロシア民族音楽や直感的な表現性が特徴的。

  • 主な楽曲

    1. プロムナード:各曲をつなぐ散策のテーマ。

    2. 小人(グノムス):奇妙な足取りの小人を描写。

    3. 古城:吟遊詩人が古城で歌う中世の幻想。

    4. パリのティルリー公園:遊ぶ子供たちの描写。

    5. 牛車(ビドロ):農民の憂鬱を秘めた旋律。

    6. 殻をかぶった雛鳥:バレエ風の軽快な曲。

    7. サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ:裕福な男と貧しい男の対話。

    8. リモージュの市場:賑やかな市場の情景。

    9. カタコンブ:ローマ時代の墓の幻想。

    10. バーバ・ヤガーの小屋:伝説の妖婆の描写。

    11. キーウの大門:壮大なクライマックスで締めくくり。

  • 所感

  • ムソルグスキーの原曲のピアノバージョンばかり聴いていたことが却って幸いして、たしかに、管楽器の華やかな響きや、打楽器の効果など、原曲を活かしつつさらにグレードアップしたのだ、ということがよくわかりました。そしてまた、ピアノという楽器の豊かな響きにも改めて気づくことができました。
    最後の最後、キーウの大門での「やり切った感」に大喝采でした。
    「キエフ」の表記は、ここ数年の戦争の影響で「キーウ」に変わったものと思われますが、どうか、ラストの曲から思い浮かべるキーウの大門の壮大さが、軍隊の侵攻・行軍を表すものとはならないでほしい、と祈るばかりです。


まとめ:
このコンサートにお誘いくださったのは楽器の演奏も指導もされている音楽家の方で、クラッシック音楽の魅力をより多くの人に知ってもらいたい、と、演奏会に同行する人たちに、あらかじめ作曲家や演目の各曲について予習ができるようにしてくださるので、これまであまり進んで鑑賞することのなかったラヴェルの音楽と、その人となりについても理解が深まって味わい深くなりました。(演奏会後、各曲の概要や背景についてメモをお送りくださったため、それを使わせていただきました。)

会場のミューザ川崎も初めてのホールで、さすがの音響や駅からの抜群のアクセス、今後も機会を作って足を運びたいと思いました。

※各曲の概要や種々エピソードについては、同行くださった音楽家の方のメモと、ウイキペディアの記載を参考にしました。


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