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福永武彦・中村真一郎・丸谷才一『決定版 深夜の散歩 ミステリの愉しみ』講談社 1978年6月刊


福永武彦(1918.3.19-1979.8.13)
中村真一郎(1918.3.5-1997.12.25)
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
『決定版 深夜の散歩 ミステリの愉しみ』
装幀・挿絵 和田誠 講談社 1978年6月刊
1978年7月12日第2刷
購入年月日・古書店 不明 350円 

初版 早川書房 1963年8月刊
私が読んだ丸谷才一の最初の本は、
高校生の頃(1970-73)、東京都立立川図書館で借りた、
この初版(裏表紙のまだ三十代の写真が若いなぁ)でした。

講談社文庫 1981年6月刊 未見
https://www.amazon.co.jp/dp/B000J7XTS4

ハヤカワ文庫 1997年11月刊 未見
https://www.amazon.co.jp/dp/4150305919

「深夜の散歩 福永武彦
バック・シート 中村真一郎
マイ・スィン 丸谷才一

一冊のミステリを手に“深夜の散歩”に出かける。おかげで翌朝は寝不足でたいへんだ。だがこの“悪癖”はやめられない。自他ともにミステリ中毒者を認める当代きっての文学者三人が、該博な知識を背景にミステリを読む愉しみについて洒脱に、縦横無尽に語る。高い批評性と予見性をもって現代ミステリの数々の傑作を論じ、後代に決定的影響を与えた。」

北村薫『雪月花 謎解き私小説』新潮社 2020年8月刊
2020年10月11日読了https://www.facebook.com/tetsujiro.yamamoto/posts/4536071999800737 
「個人的には脱線トリオ[由利徹・南利明・八波むと志 1956-61]と
てんぷくトリオ[三波伸介・戸塚睦夫・伊東四朗 1961-73]の間に入るのが、『深夜の散歩』のトリオである。
高校時代、友達に教えられ、県庁所在地の浦和の古本屋さんに行った。『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガシンが、一冊三十円で摘まれていた。まとめ買いしては読んだ。その中に、エッセイ『深夜の散歩』があった。見事な語り口で、ミステリについて教えてくれた。福永武彦、中村真一郎、丸谷才一の名を知った、これが最初である。」p.206「はな」

『深夜の散歩』早川書房 1963.8
(重版されなかったと、「決定版あとがき」に)
『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』
1958年7月号~1963年6月号掲載。
福永武彦は1979年に、
中村真一郎は1997年に亡くなったので、
もう知らない人も多いかもしれませんが、連載当時は著名な作家でした。

丸谷才一(1925-2012)はまだ芥川賞を受賞する前ですから、小説家というよりも、國學院大學助教授で英米文学者・翻訳者と見られていたと思います。

探偵小説の大好きな三人の作家が探偵小説専門雑誌に連載したエッセイを一冊にまとめたのがこの本です。

マイ・スィン 丸谷才一

クリスマス・ストーリーについて
すれっからしの読者のために
長い長い物語について
サガンの従兄弟
冒険小説について
手紙
ダブル・ベッドで読む本
犯罪小説について
フィリップ・マーロウという男
美女でないこと
ケインとカミュと女について
男の読物について
ある序文の余白に
タブーについて
新語ぎらい

「マーロウは、「あなたのようにしっかりした男がどうしてそんなに優しくなれるの?」と女に訊ねられたとき、こうこう答えるのである。
「しっかりしていなかったら、生きていられない。優しくなれなかったら、生きている資格がない」」p.240
丸谷才一「フィリップ・マーロウという男」『EQMM』1962年8月号

このセリフが1978年の角川映画『野生の証明』の宣伝に改ざんして用いられたことについては、
丸谷才一『遊び時間2』大和書房 1980年2月刊
https://www.amazon.co.jp/dp/B000J8A2H4

中公文庫 1983年7月刊
https://www.amazon.co.jp/dp/4122010403
に収録され、

『快楽としてのミステリー(ちくま文庫)』筑摩書房 2012年11月刊
https://www.amazon.co.jp/dp/4480429999
に再録された、

「角川映画とチャンドラーの奇妙な関係」
『週刊朝日』1978年10月20日号
をご覧ください。

「話は二十年近く前にさかのぼるが、当時わたしは早川書房から出てゐた『エラリー・クインズ・ミステリ・マガジン』(略称EQMM)といふ雑誌で、毎号、新刊の翻訳探偵小説を一つ取上げて論じてゐた。

その文章のなかで、あるときチャンドラーの『プレイバック』(清水俊二訳)を、『EQMM』編集長、小泉太郎にすすめられて取上げ、私立探偵マーロウについてかう書いたのである。

「[略]マーロウは、「あなたのようにしつかりした男がどうしてそんなに優しくなれるの?」と女に訊ねられたとき、かう答える。「しつかりしていなかつたら、生きていられない。優しくなれなかつたら、生きている資格がない」」

「わたしのこの文章によつて、マーロウのこの台詞はたちまち名声を確立した。まづ『EQMM』編集長、小泉太郎がこの文句にすつかりいかれてしまひ、その結果(ここのところがちよつと飛躍してるけれど)早川書房をやめてハードボイルド専門の探偵小説作家、生島治郎になり、そしてハードボイルドとは何かといふむづかしいことを論ずるたびに、何度も何度もこれを引用した。

さらに、当時はまだ彼の奥さんであつた女流探偵小説作家、小泉喜美子もまた(夫唱婦随だつたのか、婦唱夫随だつたのか知らないけれど)この引用句を熱愛し、探偵小説論、男性論、女性論、恋愛論、人生論と何を論ずるに当つてもこのマーロウの台詞を引き合ひに出した。

片やわが国ハードボイルドの代表者である美男、片や女流探偵小説家中、屈指の美女にしてかつ才媛。この二人の影響力はすごかつたね。 なるほどイカす、と感心して、いろんな人々がこれを引用した。

"If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive."
「やさしくなければ」と角川映画的に訳したのでは。「ハード」から「ジェントル」への時に応じての変化といふ一番大事なものが落ちてしまふ。
ここはやはり「優しくなれなかつたら、生きている資格がない」と清水俊二ふうに訳すのが正しいのだ。」
丸谷才一 「角川映画とチャンドラーの奇妙な関係」
『快楽としてのミステリー(ちくま文庫)』p.185-188

高校生だった私に、ロサンゼルスの私立探偵、フィリップ・マーロウの存在を教えてくれたのは、十年前、2012年10月に亡くなられた丸谷才一さんの、この文章でした。

エクセルファイル "発表年月日順・丸谷才一作品目録.xls" 現在2990行
目次・初出・書評対象書を、単行本80数冊分他、発表年月日順に並べ変えて編成中。

読書メーター 丸谷才一の本棚(登録冊数173冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091201

ミステリの本棚(登録冊数334冊 著者名五十音順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091193



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