大塚ひかり(1961- )「嫉妬と階級の『源氏物語』 第三回 紫式部の隠された欲望」『新潮』2023年3月号
『新潮』2023年3月号
新潮社 2023年2月7日発売
2023年3月30日 拾い読み
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BSVMTH12
https://www.shinchosha.co.jp/shincho/backnumber/20230207/
大塚ひかり(1961- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
第三回 紫式部の隠された欲望」
p.146-157
「朧月夜、六条御息所といった源氏にふさわしい高い地位の女たちがバタバタと正妻候補から消える中、源氏の正妻格に収まったのは、孤児同然の紫の上であった。」p.150
「大貴族の女、権門の女は主人公に愛されず、落ちぶれ女、孤児同然の女主人公の妻や恋人になるという、現実離れした設定になっている。そこには、明らかに紫式部の意図があったとしか思えない。上流ではなく、中流の女を「成功させる」という意図である。その意図の早い段階での現れが「雨夜の品定め[帚木(ははきぎ 第二帖)]」だ。」p.151
「[雨夜の品定めで左馬頭が言う]受領階級にも細かな階層があり、もとの家柄も低くないのがいる……といったくだりは、紫式部の自己紹介さながら。
この品定めに刺激され、源氏がただ一度関係した空蝉などは、夫が父親ほども年上である点、のちに夫と死別している点、主人筋の源氏のアプローチを受けている点、家が "中川のわたり" にあった点など、紫式部その人と言えるほどで、古来、作者と結びつけられている。
紫式部も『紫式部日記』によれば、主人筋の道長の夜の訪問を受け、南北朝時代の系図集『尊卑分脈』には道長の "妾" と記され、その説を支持する学者も多い。
何より落ちぶれ貴族であるというところが似ている。
紫式部は受領階級といっても、曾祖父・兼輔は空蝉の父同様、中納言で、娘・桑子は醍醐天皇に入内して皇子を生んでいた。
『源氏物語』に描かれる「中流の女推し」「落ちぶれ女の優遇」や「権門の女の受難」には、紫式部自身の願望が反映されていると思う」p.153
「六条御息所は、「地位が下の者=夕顔」と「地位が上の者=葵の上」の両者に嫉妬し、後者……自分と同等の出身階級ながら、自分の得られぬ正妻の座にいた葵の上……への妬みに、より苦しんで、源氏との関係に終止符を打つことになった。
末摘花のオバももともとの身分は "やむごとなき筋" で、末摘花はもちろん、姉妹であるその母と同等の身分だったのが、受領との結婚によって下位に甘んじていた。そこに激しい嫉妬と「逆転」への野望が生ずる理由があった。
下位の者の嫉妬はいくら激しくても、上位の者のそれと違って、いじめなどの表立った行動として表れにくい。
しかし心の底では恨みをつのらせていて、相手の弱り目を狙って攻撃する。
こうした同等・下位者による激しい嫉妬は、物語の後半でメインキャラクターの身に降りかかることになる。(つづく)」p.157
https://ja.wikipedia.org/wiki/大塚ひかり
読書メーター
大塚ひかりの本棚(登録冊数14冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091320
源氏物語の本棚(登録冊数42冊)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091219
新潮の本棚(登録冊数13冊)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11500428
https://note.com/fe1955/n/n8ef90401b665
大塚ひかり(1961- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
新連載
『源氏物語』は「大河ドラマ」である」
『新潮』2023年1月号
https://note.com/fe1955/n/ne724166a7ad9
大塚ひかり(1961- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
第二回 はじめに嫉妬による死があった」
『新潮』2023年2月号
https://note.com/fe1955/n/n124d45f52d2b
大塚ひかり(1961- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
第四回 敗者復活物語としての『源氏物語』」
『新潮』2023年4月号
https://note.com/fe1955/n/n942cb810e109
大塚ひかり(1961.2.7- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
第五回 意図的に描かれる逆転劇」
『新潮』2023年5月号
https://note.com/fe1955/n/ncc2837435432
大塚ひかり(1961 .2.7-)
「嫉妬と階級の『源氏物語』
第六回 身分に応じた愛され方があるという発想」
『新潮』2023年6月
https://note.com/fe1955/n/nc07bb6cbfb99
山本淳子 (1960.8.27- )
『源氏物語の時代
一条天皇と后たちのものがたり
(朝日選書 820)』
朝日新聞社 2007年4月刊
305ページ
https://note.com/fe1955/n/nef8cb068b3ec
山本淳子(1960.8.27- )
林真理子(1954.4.1- )
『誰も教えてくれなかった『源氏物語』本当の面白さ
(小学館101新書)』
小学館 2008.10
192ページ
https://note.com/fe1955/n/n8a77c09049c5
山本淳子(1960.8.27- )
『私が源氏物語を書いたわけ
紫式部ひとり語り』
角川学芸出版 2011.10
253ページ
https://note.com/fe1955/n/nc3a1160a0123
山本淳子 (1960.8.27- )
『平安人の心で「源氏物語」を読む』
朝日新聞出版 2014.6
328ページ
https://note.com/fe1955/n/n27e6fad89d78
山本淳子(1960.8.27- )
『枕草子のたくらみ
「春はあけぼの」に秘められた思い(朝日選書)』
朝日新聞出版 2017.4
312ページ
https://note.com/fe1955/n/n2b8658079955
林望(1949.2.20- )
『源氏物語の楽しみかた(祥伝社新書)』
祥伝社 2020.12
『謹訳 源氏物語 私抄 味わいつくす十三の視点』
祥伝社 2014.4
『謹訳 源氏物語 四』
祥伝社 2010.11
『謹訳 源氏物語 五』
祥伝社 2011.2
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「舟のかよひ路」
『梨のつぶて 文芸評論集』
晶文社 1966.10
https://note.com/fe1955/n/na3ae02ec7a01
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「昭和が発見したもの」
『一千年目の源氏物語(シリーズ古典再生)』
伊井春樹編 思文閣出版 2008.6
「むらさきの色こき時」
『樹液そして果実』集英社 2011.7
https://note.com/fe1955/n/nf22b8c134b29
三田村雅子(1948.11.6- )
『源氏物語 天皇になれなかった皇子のものがたり(とんぼの本)』
新潮社 2008.9
『記憶の中の源氏物語』
新潮社 2008.10
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?