酒井順子(1966.9.15- )「松本清張の女たち 第六回 『婦人公論』における松本清張 1」『小説新潮』2023年1月号
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第六回 『婦人公論』における松本清張 1」
鈴木美千代・画
p.448-454
2023年5月23日読了
『小説新潮』2023年1月号
新潮社 2022年12月21日発売
https://www.amazon.co.jp/dp/B00AJS0OQI
https://www.shinchosha.co.jp/shoushin/backnumber/20221221/
https://ja.wikipedia.org/wiki/松本清張の作品一覧
「清張は『婦人公論』において
四回の小説連載を行っている。」
p.448
昭和三十四年(1959)
『霧の旗』
昭和三十六年(1961)
『影の車』連作短篇
昭和三十八年(1963)
『絢爛たる流離』連作短篇
昭和四十年(1965)
『砂漠の塩』
「『婦人公論』は、
『女性自身』と並び、
清張が最も頻繁に原稿を執筆した女性誌で、
清張は二つの女性誌の個性を見極め、
それぞれの読者に合った小説を書いた。
初めての恋愛小説
『波の塔』が
『女性自身』誌上[1959年5月29日号~1960年6月15日号]
で大人気となると、その後も清張は同誌において、
人が殺されない「ミステリー・ロマン」系の小説を中心に書いていく。
…
社会派女性雑誌
『婦人公論』では、
ミステリー・ロマン系の作品は
『砂漠の塩』のみ。」
p.448-449
「『婦人公論』は、
社会における女性の立場を向上させるという意思を
創刊以来堅持していた雑誌であり、
「女性のあり方」に興味を持つ読者が読む雑誌だった。」
p.449
酒井順子
『百年の女 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成』
中央公論新社 2018.6 414ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4120050920
中公文庫 2023年6月22日発売予定 448ページ 1,100円
https://www.amazon.co.jp/dp/4122073774
「『霧の旗』の単行本が出版された時の広告…
清張の顔写真の下に最も大きな文字で、
これこそ私の最も愛する作品だ・著者
連載完結後、著者が「最も愛する作品だ」といって、一年間座右におき、徹底的に朱筆を加え、今年(注・昭和三十六年[1961])の一月ようやく脱稿をみたものである。松本清張の自他ともに許す代表作である。」
p.449
「清張はなぜ、『霧の旗』をそれほどまでに愛したのか。
そしてなぜ、『霧の旗』への愛をそこまでアピールしたのか
と考えると、そこには
『波の塔』との関係があるのではないか、と私は推理する。
『波の塔』は
『女性自身』の部数を押し上げるほどの人気となり、
昭和三十五年(1960)に、カッパ・ノベルスから刊行されると、
大ベストセラーになった。
恋愛小説の大ヒットによって、
清張のイメージも変化したものと思われるが、清張としては、
『波の塔』的なイメージが強くなりすぎることは、
本意ではなかったのかもしれない。…
何が清張に『霧の旗』を書かせたのか
…
「貧乏人は裁判に絶望しなければならないのか!
無能な官選弁護人のために無実のものが
空しく刑死しなくてはならないのか!」
冤罪事件に対する問題提起が、
『霧の旗』のキモなのだ。
松本清張と冤罪と言えば、
帝銀事件が思い出されよう。
[占領期]昭和二十三年(1948)に発生した
大量毒殺事件について清張は、
『文藝春秋』1959年5月号~7月号で
「小説帝銀事件」を連載。
…
『霧の旗』の連載は
『小説帝銀事件』の連載とバトンタッチするように
七月から『婦人公論』で始まっている。」
p.450-451
「[清張は
「小説帝銀事件」
『文藝春秋』1959年5月号~7月号連載の]
翌年、同じく
『文藝春秋』で
「日本の黒い霧」の連載を始めている。
下山事件、松川事件など、戦後の混乱期に発生した事件の謎を、
GHQの謀略と結びつけて推理したこの連載は大きな話題を呼んだが、
ここでも清張は再度、
「帝銀事件の謎」として取り上げ、
「小説帝銀事件」よりも一層はっきりと、
旧日本軍の関与を「想像」している。
…
そんな "霧" がもたらす重い湿り気を、清張は
『霧の旗』と共に読者へと知らしめたのではないか。
清張は『婦人公論』を、
一般誌に近い感覚で相対することのできる女性誌
として捉えていたように思う。だからこそ
『霧の旗』のようなメッセージ性の高い
[冤罪事件に対する問題提起]小説を、
『婦人公論』には書いたのだろう。
『霧の旗』の次に連載された
『影の車』は、
短篇小説を連載する「連作短篇」という形式で、
『週刊朝日』に書いた「黒」シリーズ
(『黒い画集』、『黒の様式』、『黒の図説』)他、
週刊誌などでしばしば用いられていたこの形式だが、
女性誌で採用したのは
『婦人公論』のみ。」
p.451-452
「清張の女性誌小説に「殺す女」が登場するのも、
『婦人公論』が初めてである。
一般誌においてはそれまでも、
女性が殺人を犯す小説を書いたことはあったが、
女性誌で「殺す女」を書くのは、
憚られたのかもしれない。しかし
『婦人公論』の連作短篇[『影の車』]では、
女性が急に人を殺しだすのだった。
…
「殺す女」を書くことによって清張は、
女性読者に一種の爽快感を与えようとしたのかもしれない。
他の女性誌小説においては、
読者を喜ばせるためにお嬢さんを小説に登場させたり、
ロマンスの世界を描いたりしたものの、
どうもピリッとしなかった。
しかし『婦人公論』で清張は、
殺意という女性の陰の部分をむき出しにすることによって、
生気を得たのではないか。
清張は、光が当たる人生を歩む、お嬢さんを描くのはあまり
得意ではなかったが、
女性を描くこと自体が不得意なわけではない。
光ではなく、陰を描く時、
その対象が男であろうが女であろうが、
清張の筆は快調に走るのである。」
p.452
https://ja.wikipedia.org/wiki/松本清張の作品一覧
http://www.hatirobei.com/ブックガイド/作家から/酒井順子/雑誌掲載記事
読書メーター
酒井順子の本棚(登録冊数34冊 刊行年月順)
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酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第一回 初めての女性誌連載」
『小説新潮』2022年8月号
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酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第二回 『ゼロの焦点』の表と裏」
『小説新潮』2022年9月号
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酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第三回 お嬢さん探偵の限界」
『小説新潮』2022年10月号
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酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第四回 初めての恋愛小説」
『小説新潮』2022年11月号
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酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第五回 転落するお嬢さん達」
『小説新潮』2022年12月号
https://note.com/fe1955/n/nb74e11adb53b
酒井順子(1966.9.15- )
「人はなぜエッセイを書くのか
日本エッセイ小史
第一回 エッセイという謎」
『小説現代』2020年9月号
酒井順子
『日本エッセイ小史 人はなぜエッセイを書くのか』
講談社 2023年4月26日発売 224ページ 1760円
https://www.amazon.co.jp/dp/4065310067
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000374525
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