酒井順子(1966.9.15- )「松本清張の女たち 第三回 お嬢さん探偵の限界」『小説新潮』2022年10月号
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第三回 お嬢さん探偵の限界」
鈴木美千代・画
p.244-250
『小説新潮』2022年10月号
新潮社 2022年9月22日発売
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BB6H667M
https://www.shinchosha.co.jp/shoushin/backnumber/20220922/
松本清張(1909.12.21-1992.8.4)
「昭和三十三年(1958)は、
松本清張にとって読者の幅が大きく広がる年となった。
『点と線』、『眼の壁』がベストセラーとなり、
社会派推理小説ブームが到来したのだ。
清張作品における女性の存在に注目している私にとって、
この年はまた「お嬢さん探偵元年」でもある。
まずは年初に、お嬢さん探偵ものの原型をつくった
『ゼロの焦点』の連載がスタート。
その中で清張は、ごく普通の女性が探偵役を務める
というストーリーに手応えを感じたのかもしれず、
同じ年に、女性が探偵役となる長編小説の連載を、
さらに二作スタートさせている。
『蒼い描点』1958年7月『週刊明星』連載開始
『黒い樹海』1958年10月『婦人倶楽部』連載開始
『週刊明星』では、創刊と同時の連載開始。
『婦人倶楽部』は、女性誌における初めての長編推理小説の連載
ということで、どちらも清張にとっては新たな挑戦であったに違いなく、
その主人公として選ばれたのが、若いお嬢さんだった。」
p.244
「『蒼い描点』は、『ゼロの焦点』から派生した、
本格的なお嬢さん探偵ものの第一号である。
…
清張作品における印象的な女性登場人物の多くは水商売、
もしくは元水商売なのだが、お嬢さん探偵ものでは、
水商売感が一切漂わない素人女性が主人公に据えられる。
『黒い樹海』でも同様である。」
p.245
「お嬢さん探偵ものは清張の女性誌連載における一つのパターンとなった。
昭和三十六年(1961)に『マドモアゼル』連載がスタートした
『紅い白描』もまた、その一作である。
『マドモアゼル』は小学館から刊行されていた、若い女性向けの雑誌。
1961年7月号に、「文壇のチャンピオンの野心作いよいよ登場」と、
清張の連載は鳴り物入りで登場している。」
p.249
「特筆すべき能力や大きな欠点や心の闇を持たない、
常識の範囲内に収まる普通の娘さんである、お嬢さん探偵達。
そのキャラクターには、清張作品では珍しく、何の凸凹も見られない。
[『蒼い描点』の
「女子大を出て文芸出版社に入社したての新米編集者]
典子も、
[『黒い樹海』の
「女子大を出て新聞記者として働いていて事故死した姉に代わって新聞社に入社し、記者として働く」]
祥子も、
[『紅い白描』の
「美大を出た後に一流デザイナーが経営するデザイン研究所に就職する」]
葉子も
似たような人物として読者の記憶に残りづらいのであり、
お嬢さん探偵ものが、
清張作品の中で名作としてカウントされづらいのは、
そのせいもあるのだろう。
女性誌という不慣れな舞台、
そして推理小説の世界では新参者である女性読者に対して抱いた
清張の「遠慮」が、お嬢さん探偵達に平板さをもたらした
のではないかと、私は思う。
清張の「遠慮」の行方を、さらに探っていきたい。」
p.250
松本清張の作品一覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/松本清張の作品一覧
酒井順子雑誌掲載記事
http://www.hatirobei.com/ブックガイド/作家から/酒井順子/雑誌掲載記事
読書メーター
酒井順子の本棚(登録冊数34冊 刊行年月順)https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11092015
https://note.com/fe1955/n/n1474f3c18934
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち 第一回
初めての女性誌連載」
『小説新潮』2022年8月号
https://note.com/fe1955/n/n5789709a4899
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第二回 『ゼロの焦点』の表と裏」
『小説新潮』2022年9月号
https://note.com/fe1955/n/nd73f79dc9dd9
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第四回 初めての恋愛小説」
『小説新潮』2022年11月号
https://note.com/fe1955/n/ncc1a2176c33c
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第五回 転落するお嬢さん達」
『小説新潮』2022年12月号
https://note.com/fe1955/n/n644b2c0ce468
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第六回 『婦人公論』における松本清張 1」
『小説新潮』2023年1月号
北村薫(1949.12.28-)
有栖川有栖(1959.4.26- )
「『ゼロの焦点』を解き明かす!」
『オール讀物』2022年6月号
https://www.amazon.co.jp/dp/B09ZCQTY1B
酒井順子
『日本エッセイ小史 人はなぜエッセイを書くのか』
講談社 2023年4月26日発売 224ページ 1760円
https://www.amazon.co.jp/dp/4065310067
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000374525
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