あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん 吉海直人(1953- )『百人一首を読み直す 2 言語遊戯に注目して』新典社 2020年9月刊 「第三章 柿本人丸歌(三番)の「ひとりかも寝ん」の解釈」
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して
新典社選書 97』
新典社 2020年9月刊
312ページ
2020年11月19日読了
福岡市総合図書館蔵書
https://www.amazon.co.jp/dp/4787968475
「第三章
柿本人丸歌(三番)の
「ひとりかも寝ん」の解釈」p.35-46
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん
拾遺和歌集 巻十三 恋三 778
「これはあくまで百人一首の人丸歌であって、
『万葉集』では作者不詳(非人麻呂歌)である。
しかも
「思へども思ひもかねつあしひきの山鳥の尾の長きこの夜を」
[万葉集 巻十一 2802]の異伝として
「或本の歌に曰く」として出ている歌である。」p.44
「「ひとりかも寝む」は、
『万葉集』に用例が少なからずあったにもかかわらず、
平安時代の用例は非常に少なく、
『古今集』『後撰集』には用例が見当たらなかった。
『拾遺集』一首、『新古今集』二首。
歌語としては閉塞している。」p.39
「定家[九十七番]の
「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎにやくや藻しほの身もこがれつつ」
[新勅撰 巻十三 恋三 849]
との比較。
『万葉集』に詠まれた「松帆の浦」を
定家は掛詞として用いることで、
待つ女のじりじりとした心情を表出している。
百人一首の配列を考えると、
巻頭・巻末に親子天皇を配置しているという特殊事情が浮上する。
それに続く人丸・赤人の対として
巻末の定家・家隆を考えると、
人丸と定家・赤人と家隆という
新旧歌人の番(対)になっていることがわかる。
それが定家の意図的な配列だとすると、
人丸と定家は
独り寝を題にした番(時代不同歌合)という構図が浮上する。
平安朝において、「ひとりかも寝む」表現は衰退し、
わずかな用例も男の立場に限定されているようだが、
定家は古い人丸歌をあえて来ない男を待つ女の立場からの歌
とすることで、新たな境地を開拓しようとしている。
一夫多妻の通い婚という平安貴族の特殊事情を踏まえると、
来ない男を待つしかない女が想起される。」p.43
「3・4番に人丸・赤人が位置しているのは、
歌聖として尊重されていたから。
97・98番に定家・家隆を配しているのは、
自分を人丸とあわせることによって、
歌人としての地位を誇示している。」
吉海直人
『百人一首への招待』
ちくま新書 1998.12 p.121
2003年1月11日読了
福岡市早良図書館蔵書
https://www.amazon.co.jp/dp/448005782X
https://www.amazon.co.jp/dp/4787968475
「広く親しまれている百人一首も、
その歌独自の表現に注目して読み直すと、
従来説とは異なる解釈の可能性が見えてくる。
和歌の読み解きから、藤原定家の選歌意識にも迫る、
好評書籍待望の続編。
吉海 直人(よしかい なおと)
長崎県生まれ
國學院大學文学部卒業、同大学院修了(文学博士)
現在、同志社女子大学表象文化学部日本語日本文学科特任教授
源氏物語と百人一首の総合研究をライフワークとする。
主な著書に
『百人一首を読み直す』(新典社選書)、
『百人一首かるたの世界』(新典社新書)、
『百人一首の正体』(角川ソフィア文庫)、
『だれも知らなかった百人一首』(ちくま文庫)、
『百人一首の新研究』(和泉書院)、
『百人一首研究ハンドブック』(おうふう)、
『百人一首注釈書目略解題』(和泉書院)、
『百人一首年表』(青裳堂書店)などがある。」
目次
はじめに
第一章
天智天皇「秋の田の」歌(一番)を読み解く
第二章
「白妙の」は枕詞か 持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い
第三章
柿本人丸歌(三番)の「ひとりかも寝ん」の解釈
第四章
柿本人丸歌(三番)の「長々し」の特殊性
第五章
大伴家持「かささぎの」歌(六番)を待恋として読む
第六章
阿倍仲麻呂「天の原」歌(七番)の再検討 上野論を起点として
第七章
在原行平「立ち別れ」歌(一六番)の新鮮さ
第八章
在原業平歌(一七番)の「ちはやぶる」幻想 清濁をめぐって
第九章
在原業平歌(一七番)の「水くぐる」再考 森田論を受けて
第十章
素性法師歌(二一番)の「長月の有明の月」再考
第十一章
『百人一首』の「暁」考 壬生忠岑歌(三〇番)を起点にして
第十二章
紀友則歌(三三番)の「久方の」は「光」にかかる枕詞か?
第十三章
清原元輔歌(四二番)の「末の松山」再検討 東北の大津波を契機として
第十四章
藤原公任「滝の音は」歌(五五番)をめぐって 西行歌からの再検討
第十五章
小式部内侍「大江山」歌(六〇番)の掛詞再考 浅見論を契機として
第十六章
清少納言歌(六二番)の「夜をこめて」再考 小林論の検証
第十七章
俊恵法師歌(八五番)の「閨のひま」再考
第十八章
参議雅経歌(九四番)の「さ夜更けて」の掛詞的用法
第十九章
従二位家隆歌(九八番)の「夏のしるし」に注目して
初出一覧
後書き
『百人一首を読み直す』新典社 2011年5月刊
https://www.amazon.co.jp/dp/4787967916
https://www.facebook.com/tetsujiro.yamamoto/posts/796282843779690
吉海 直人(よしかい なおと)
1953年長崎県生まれ
同志社女子大学表象文化学部日本語日本文学科特別任用教授
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/talk/japanese/detail01/
吉海直人さんの本を読むのは7冊目です。
読書メーター
吉海直人の本棚(登録冊数7冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091377
百人一首の本棚(登録冊数13冊)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091294
その半分7冊は吉海直人さんです。
https://note.com/fe1955/n/n62266db52edf
春すぎて夏来にけらししろたへの衣ほすてふ天の香具山
田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪はふりつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第二章 「白妙の」は枕詞か
持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い」
https://note.com/fe1955/n/nce8e9a0c3675
後鳥羽院(1180.8.6-1239.3.28)
『新日本古典文学大系 11
新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
『後鳥羽院 第二版』
筑摩書房 2004.9
『後鳥羽院 第二版』
ちくま学芸文庫 2013.3
https://note.com/fe1955/n/n8dfcbf3d6859
式子内親王(1149-1201)
田渕句美子(1957- )
『新古今集 後鳥羽院と定家の時代(角川選書)』
角川学芸出版 2010.12
『異端の皇女と女房歌人 式子内親王たちの新古今集』
KADOKAWA(角川学芸出版) 2014.2
平井啓子(1947- )
『式子内親王(コレクション日本歌人選 010)』
笠間書院 2011.4
馬場あき子(1928.1.28- )
『式子内親王(ちくま学芸文庫)』
筑摩書房 1992.8
https://note.com/fe1955/n/n47955a3b0698
後鳥羽院宮内卿
(ごとばのいんくないきょう、生没年不詳)
『新日本古典文学大系 11
新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1
https://note.com/fe1955/n/n34d98221cddf
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうにわたしを攫つて行つては呉れぬか
永田和宏(1947.5.12- )
『あの胸が岬のように遠かった 河野裕子との青春』
新潮社 2022年3月刊
318ページ