【KOGURE FUTSAL ACADEMY】第5回レポート「トランジションを制するものが勝負を制する」
フットサルは試合中に攻守のトランジション(切り替え)が頻繁に起こる競技だ。互いのゴールの距離が近いため、ピンチから一転チャンスになることも、その逆も多い。また、トップレベルでは守備陣形が整った状態ではなかなかゴールは生まれない。だからこそ、チーム全体で素早い切り替えができるか否か、そこで相手を上回れるかは勝敗を左右する重要な要素だ。
木暮氏が率いてFリーグを制覇した16-17シーズンのシュライカー大阪も、攻守の切り替えが極めて早いチームだった。引いた相手の守備をこじ開ける圧倒的な個人技や流れるようなジョガーダに目が行きがちだが、カウンターからの得点も非常に多かった。逆に相手にボールを奪われた際には瞬時に切り替えてプレスを掛け、数秒以内に奪い返して得点してしまうシーンも何度も見られた。
奪われた瞬間から始まるボール狩りは、当時の大阪の超攻撃的なスタイルそのものだった。第4回で木暮氏が「ゴールを守るために守備をするのではなく、ゴールを奪うために守備をする」と語ったが、まさしくそれを体現したようなプレーだった。チーム全体での素早い切り替え、そこからの躍動感溢れるプレッシングはいかにして可能になったのだろうか。
「ボールを失った後に素早くプレッシングに移行するには、自分たちがボールを持っているときから奪われたらどうやってプレッシングを掛けるのかという準備ができていないといけません。大阪では①相手陣内でプレーする②コンパクトな状態で攻撃する③3ラインを形成しながらプレーするということを徹底していました」
ボールを回しながら攻め込む際にも、全体的にコンパクトな陣形を保ち、選手間の距離を一定に保つ。そうすることで、奪われた瞬間にはすでにバランスの良い陣形ができ上がっており、すぐさま連動したプレスに移行することができるのだ。
ここで例えば、フィクソがきっちりと押し上げられていなければ、奪われた後に一発でピヴォに入れられてしまったりということが起きる。前線の選手がいくら早く切り替えようとしたところで、1人、2人では効果的なプレスは生まれない。チームとしての共通理解と連動性がなければ、「プレスに行こうにも行けない」状態となってしまうのだ。
「“ボールを奪われた瞬間にプレッシャーを掛けろ”と、口で言うのは簡単です。しかしチームとしてどのようにトランジションしてプレスを掛けるのかというガイドラインが無ければ、各選手がただがむしゃらにボールを奪いにいくことになります。いくら“切り替えを早くしろ”と言ったところで、それでは質の高いトランジションは生まれません」
「切り替え」という言葉は、競技レベルが下がれば下がるほど精神的な意味合いが強くなる傾向がある。だが緻密な連動性が要求されるフットサルという競技において、トランジションは精神論や個々の意識だけででどうにかなるものではない。チーム全体がユニットとして淀みなく連動しなければ、質の高いトランジションは実現できない。そのためには、監督から選手への具体的なガイドライン(チームとしてどのような方法でそれを実現するのか)の提示、落とし込みが必要不可欠だ。
「チームにはどんな場面でも共通するプレーモデル(骨格・土台)が無いといけません。もちろん、選手個々のタレント、クリエイティブな部分については選手にイニシアチブがありますし、監督が全てのプレーに言及する必要は無いかもしれない。ただ、それ以前のチームの基準が無くては試合になりませんし、それはトランジションにおいても同じです」
一言に「切り替え」と言っても、監督によって具体的な方法論が示されているチームと、特に決まり事もなくただ「切り替えろ!」と声を掛け合っているだけのチームでは、切り替えの早さ・質に大きな差が生じるのは当然だ。そして両者の差は、そっくりそのまま、競技力・チーム力の差なのである。
文:福田悠
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