ラブとかいうらしい
別れたくないから付き合わない、というスタンスを抱えていた。一般常識からほど遠いと重々認識しながらも、やめられなかった。天の采配で素敵なパートナー(候補)に出会えたとしても、関係が長く続くとは限らない。仕事や友人関係や住む環境で縁が切れてしまうことなどザラにある。その昔「つきあわないお付き合い」をしていたひとが何名かいて、うちひとり(中井貴一に似ていたので、中井さんとする)は今でも連絡を取り合い、たまに喫茶店で近況報告をしている。
中井さんは今まで会った中では断トツに相性が良く、少し年上で、気づくと2~3時間は会話しているような、文句のつけようがないひとだった。お互い100%の好意があったけれど、私は結婚もお付き合いもしたくなかった。要因は明らかで「それを想像できなかった」から。お休みの日に待ち合わせして映画をみたり、公園をあてもなく散歩したり、お家デートしたり、記念日にプレゼントを贈りあったり。そういうことはしたくなかった。スーツ以外の私服も、だらしなくソファに寝転がる姿も、男友達と飲んだくれて朝帰りする私に嫉妬する姿も、1ミリもみたくなかった。私だけの夢小説でいてほしかった。バカだなと思う。有難いことに相手も同じだけバカだったので、謎の「つきあわないお付き合い」は数年続いた。そのうち互いにパートナーができて関係は解消、復活、また解消とルナシーかイエモンみたいなことをしている。今は大事な友人である。私がぽろっと「つきあって別れるのってしんどい。レベル1からスタートとか、やりたくない」と漏らしたら、中井さんに「だからみんなさっさと結婚するんでしょうね」と返され、ああ結婚て契約だ、私達はお互いなにも背負わせたくないから、付き合えないんだと気づいた瞬間だった。これも一種の愛情なんだろう、と納得し、その日は乾杯した。
仕事への姿勢も、性格も、金銭感覚も、ライフスタイルも、食の好みもばっちりあうのに、恋人にはなれない。そんな相手が世の中には案外転がっているのだ。
★タイトルはヤマシタトモコ「イルミナシオン」収録の短編からとりました。
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