ウイスキー学入門編「ウイスキー完成までの9の工程」
ウイスキーは、理解を深めることでより味わいを楽しむことができる。
はじめに
fcamです。
この記事を読んでくださり、ありがとうございます。
読者の皆様、日々お仕事お勤めご苦労様です。
今回は建築の話ではなく、僕が普段息抜きで嗜むウイスキーの話をさせていただきます。
読者の皆様はウイスキーに対し、どのような印象をお持ちでしょうか。
居酒屋で出てきたハイボールをなんとなく飲むだけでウイスキーの楽しみを終わらせてしまうことは非常にもったいないと僕は思います。
・なんとなく興味はあるけど難しそう。
・バーなんて敷居が高過ぎて入りづらい。
・何を飲んでいいかわからないし、そもそも味の違いがよくわからない。
ご安心ください。
ウイスキーは初心者こそ発見が多く、楽しみ方に幅があります。
僕も戻れるものなら、初心者に戻って好奇心の向くままに飲み比べてみたいものです。
ぜひ「自分なんて・・・」などという壁を破り、少しおしゃれをしてバーに向かっていただきたいです。
ウイスキー学を知らずともウイスキーを楽しむことはできますが、知ってバーマンと会話する楽しさを知ると、バー通いがやめられなくなります。
少しずつ趣味程度に知識を蓄えていく工程もまた味わい深く、ウイスキーを楽しむ方法の一つです。
今回は、そんな初心者に向けたウイスキー学入門「ウイスキー製造法」について解説していきます。
要点を絞り、各工程書きすぎないようにまとめさせていただきました。
この記事を読み、ウイスキーの製造法について全く知らない状態から「麦芽からウイスキーと呼ばれる液体になるまで」の過程を理解していただけると幸いです。
※補足
この記事で説明する工程は、「大麦麦芽」を原料とする「モルトウイスキー」の製造法について書かせていただいております。
モルトとは麦芽の意味で、他にとうもろこしや小麦、米、発芽させていない大麦を使ったウイスキーも存在し、「グレーンウイスキー」と称され製造方法は若干異なります。
原料についても別途記事を作成する予定です。
※この記事は「ウイスキー学初心者」向けの記事です。
※10分程度を目安に時間を頂戴します。
製造法はウイスキーを楽しむために必要な知識。
ウイスキーを学ぶために、まずは原料・製造方法について理解しておく必要があります。
今回は製造方法について大枠を説明させていただきます。
それぞれの工程一つひとつ自体奥が深く、この記事一つにまとめるとなると長くなり過ぎてしまいます。
まずはウイスキー製造工程の大枠を理解し、入門編としてこの記事を読んでいただきたいです。
それぞれの工程を行う意味、重要性、個性等についてはまた別の記事でそれぞれ紹介する予定です。
それでは、実際に9つの工程について解説していきます。
1.Malting:モルティング
日本では「製麦」と呼ばれている作業。
Malting:収穫された大麦から不純物を取り除き、グリストと呼ばれる粉末状の麦芽に加工する作業のことです。
具体的には
1.水の入ったタンクに収穫された大麦を入れ、数日かけて浸麦(大麦に水分を吸収させること)する。
2.浸麦後1週間程度かけて発芽させ、焙燥(乾燥させ、発芽を止めること)する。焙燥に用いられるピート(泥炭)、石炭、熱風によって、大麦に特有の風味が着く。
3.焙燥で風味をつけてから、大麦を発芽させる(大麦麦芽の完成)。
4.大麦麦芽をグリスト化させる(=粉砕する)。
このモルディングの作業の時点で、完成するウイスキーの風味が変わってきます。
まだ1工程目ですでに完成品の風味に影響するとなると、数百・数千種類のウイスキーが存在することも納得できますね。
2.Mashing:マッシング
日本では「糖化」と呼ばれている作業。
Mashing:グリストに含まれる「でんぷん」を、アルコール生成に必要な「糖」に分解する作業のことです。
グリストを「マッシュタン」と呼ばれる糖化層の中に入れ、お湯と混ぜ合わせます。
マッシュタンは二重底になっており、微細な穴が空いたフィルターで上層から下層に落ち、ウイスキー製造に用いられるウォート(麦汁)と搾りかすに分けられます。
搾りかすはウイスキー製造から外れ、飼料として使われることが多いです。
3.Fermentation:ファーメンテーション
日本では「発酵」と呼ばれる作業。
Fermentation:ウォートに含まれる糖を、酵母の作用でアルコールに化学変化させる作業のことです。
発酵には「ウォッシュバック」と呼ばれる発酵層の中にウォートと酵母を入れ、数日寝かせて発酵させます。
発酵後は、ウォートは「ウォッシュ」というアルコール度数8%前後の酸味のある液体へと変化しています。
4.Distillation:ディスティレーション
日本では「蒸留」と呼ばれる作業。
Distillation:ウォッシュに含まれる水を取り除き、アルコールのみを抽出する作業のことです。
蒸留器により水分を取り除かれたウォッシュを「蒸留液」と呼びます。
蒸留方法は大きく「単式蒸留」「連続式蒸留」の2種類が存在します。
4-1.単式蒸留
単式蒸留器(主にポットスチル)を用いてウォッシュを蒸留します。
効率は連続式蒸留より劣り手間がかかりますが、原料の風味が残りやすいため、高価なウイスキーは単式蒸留で製造されたものが多いです。
2回蒸留、3回蒸留という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
1工程1回の蒸留しかできない単式蒸留ならではの言葉ですが、単式蒸留器を複数回通すことを2回蒸留、3回蒸留、、、と表現します。
単式蒸留器のうちウォッシュバックから直接ウォッシュが送られる、初めて蒸留作業を行う単式蒸留器を「ウォッシュ・スチル」と表現します。
2回目以降の再蒸留に使用される単式蒸留器を「スピリット・スチル」と表現します。
ウイスキーはモルトウイスキーがこの蒸留方法を採用していることがほとんどであり、他に
・テキーラ
・ブランデー
・焼酎
・泡盛
・ジン
これらのお酒は蒸留酒の中でも「単式蒸留」の工程を踏んで完成品となります。
4-2.連続式蒸留
連続式蒸留器(主にコラムスチル)を用いてウォッシュを蒸留します。
一器につき一回しか蒸留できない単式蒸留器に対し、一器につき連続的に気化・濃縮を繰り返し行える蒸留方法です。
効率的により度数が高い酒を製造することができますが、単式蒸留より原料の風味が残りにくいため透き通った味わいになる傾向があります。
5.Cut:カット
Cut:蒸留液からウイスキーに使用される部分を抽出する作業のことです。
蒸留液全てがウイスキーになるわけではありません。
蒸留器から出てくる最初の部分を「前留」、中間の部分を「中留」、最後の部分を「後留」と呼びます。
・前留はヘッド、フォアショッツとも呼ばれます。
・中留はハート、ミドル・カットとも呼ばれます。
・後留はテール、フェインツとも呼ばれます。
ウイスキーになるのはこの中留の部分であり、蒸留技術士によって丁寧に抽出されます。
前留、後留はワインと混ぜ合わせ、再留で別の酒として製造されることが多いです。
6.Filling:フィリング
日本では「樽詰め」と呼ばれている作業。
Filling:中留によって抽出された液体を樽に詰める樽詰め作業のことです。
ウイスキーと樽の関係性は語ることが多過ぎてこの記事では省略しますが、樽の種類や樽自体の製造方法、使用回数によって完成するウイスキーの風味や色、味わいが全く異なります。
樽についての記事もぜひ読んでいただきたいです。
7.Storage:ストレージ
日本では「貯蔵」と呼ばれている作業。
Storage:フィリングした液体を貯蔵庫に入れ、熟成させる貯蔵のことです。
エンジェルズ・シェアという言葉をご存知でしょうか。
ストレージの工程で、樽中の液体のアルコール分が蒸発し、液体量が少し少なくなることです。
日本では「天使の分け前」と表現されることもあります。
高温多湿の環境では蒸発量が多く、低温低湿の環境では蒸発量が少ないことが特徴です。
熟成期間が一定以上経てば、ようやくウイスキーと呼ばれる飲料が完成します。
8.Blending:ブレンディング
日本では「調合」と呼ばれている作業。
Blending:一定期間のストレージを終えた原酒を調合する作業のことです。
前提として、樽熟成された原酒は1つとして同じ仕上がりのものはできません。
それは、全く同じ時期にストレージの工程まで進み、同じ期間貯蔵されたとしても多少は差が出てしまうものなのです。
にもかかわらず、市場に出回っている同じ銘柄のウイスキーは同じ味に感じられますよね。
同じ瓶のウイスキーが全く同じ味に感じられるのはこの調合の工程のおかげです。
そう簡単なことではありません。優秀なブレンダーによって調合されているおかげで、僕らが自分の気分に合わせて好みのウイスキーを嗜むことができるのです。
ブレンダーってすごいですよね・・・
ちなみにウイスキーのボトルに書かれた熟成年数は、同じ年数のものを調合したものではないのです。
15年と表記されたものは、ブレンディングしたウイスキーの中でもっとも熟成年数が短いものが15年であるという意味です。
中には表示年数よりはるかに古いウイスキーがブレンディングされていることもあります。
飲むウイスキーについては下調べが欠かせない理由の一つとして、この事実があることもお分かりいただけるでしょう。
9. Bottling:ボトリング
日本では「瓶詰め」と呼ばれている作業。
Bottling:最後の瓶詰めのことです。
この工程でようやく完成します。
ボトリングにもさまざまな種類があり、この記事でまとめきれません。
専門用語も多数あるため、別の記事で学んでいただきたいです。
少しだけ紹介するとしたら、ボトリングの際に水を加えることを加水、加水せず樽からそのまま瓶詰めすることをカスクストレングスと呼びます。
カスクストレングスは加水しないため、アルコール度数が60%を超えることが多いです。
実際に飲む際に水を加えて広がる香りを嗜むも良いですし、ストレートで力強さを堪能するのもいいでしょう。
ちなみに、僕は祝い事や仕事の節目でカスクストレングスのウイスキーを1杯飲むことを何よりも楽しみにしています。
おわりに
ウイスキーをなんとなく好きという漠然とした状態から、ウイスキーの製造9工程をそれぞれ確認することで理解を深めることができます。
一つずつ復習していきます。
1.Malting:モルティング(製麦)
収穫された大麦から不純物を取り除き、グリストと呼ばれる粉末状の麦芽に加工する作業のこと。
2.Mashing:マッシング(糖化)
グリストに含まれる「でんぷん」を、アルコール生成に必要な「糖」に分解する作業のこと。
3.Fermentation:ファーメンテーション(発酵)
ウォートに含まれる糖を、酵母の作用でアルコールに化学変化させる作業のこと。
4.Distillation:ディスティレーション(蒸留)
ウォッシュに服まえれる水を取り除きお、アルコールのみを抽出する作業のこと。単式蒸留と連続式蒸留の2種類。
5.Cut:カット
蒸留液からウイスキーに使用される部分を抽出する作業のことです。
6.Filling:フィリング(樽詰め)
中留によって抽出された液体を樽に詰める樽詰め作業のことです。
7.Storage:ストレージ(貯蔵)
フィリングした液体を貯蔵庫に入れ、熟成させる貯蔵のことです。
8.Blending:ブレンディング(調合)
一定期間のストレージを終えた原酒を調合する作業のことです。
9.Bottling:ボトリング(瓶詰め)
最後の瓶詰めのことです。
ウイスキーの製造方法を学び、基礎知識をつけ、ぜひバーでウイスキーを嗜める愛好家になっていただきたいです。
ウイスキーへの想いを少しだけ語ります。
ウイスキーをバーで嗜むようになってから、僕自身のコミュニティもかなり広がってきました。
僕の場合、夜の飲み会でただ淡々と酒を飲むことに少し退屈を覚え、元々好んで飲んでいたウイスキーを学ぶことから始めました。
ある程度想像はしていましたが、ウイスキー学はなかなか奥が深く、専門用語も複数あるため勉強のし応えがあります。
バーマンとウイスキーについて語れるようになってからはもうウイスキーへの愛が止まりません。
読者の皆様にもぜひ、勉強をすることで得られる楽しみがあることを身をもって感じて欲しいです。
まずは現金3,000円を握りしめ、バーマンやマスターに「今日は持ち合わせが少ないから3,000円で楽しめるようなメニューをお願いします。」と勇気を出して言ってみましょう。
バーに一人で入るのは確かにハードルが高いかもしれません。
しかし、バーマンやマスターは来店したお客様に心地良い空間を提供するために様々な工夫を施してくれます。
勇気を持ってバーに飛び込んでみましょう。
追伸
ビールの製造方法と比較することも面白いです。
モルトウイスキーとビールは重複する製造工程があるため、分岐点を見つけ、この道をたどるとビール、こっちだとウイスキーになるという明確なターニングポイントがわかります。
正直僕のビールに関する知識はウイスキーよりはるかに劣るため、深く語る記事を書くつもりは今のところありませんが、ウイスキーと紐付く製造方法、好むビールの選び方程度の記事は作成する予定です。
ご興味のある方はぜひ楽しみにしていて欲しいです。