【ブラジル遠征】vsSC CORINTHIANS
現地滞在9日目
Amistoso
vsSC CORINTHIANS
(コリンチャンス)
はじめに、コリンチャンスとは。
正式名称はSCコリンチャンス・パウリスタ (ポルトガル語: Sport Club Corinthians Paulista)
サンパウロをホームタウンとして1910年に創立された、総合型スポーツクラブです。
クラブ保有の敷地内では色々な競技が行われており、グッズショップがあったり、なんとかつて国内リーグを戦っていたホームスタジアムまで存在しています。その規模たるや目の当たりにするだけで面を食らってしまうレベル。ディズニーランドか!ってくらいの広さと豪華さです。
今回はその総合型スポーツクラブの本拠地ではなく、比較的最近完成したばかりのトップチーム・女子チーム・アカデミーのみが使えるトレーニングセンターの方に赴き交流をして頂きました。
トレーニングセンターだからと言って馬鹿にしてはいけません。
メディカルからジム、マッサージルーム、食堂etc..本当に何でも揃っています。
まさに最新鋭。日本で言うと….Jヴィレッジみたいな感じですかね。
アカデミー【専用】の天然芝グランドだけで3面もありました。日本なら普通にギャラリーを入れて高校生や社会人が公式戦を楽しめるレベルのスタンドまでついてます。子供達は皆GPSギアを装着してゲームに臨んでいました。
ただこの設備、、、
正直度肝を抜かれる事には間違いないのですが、ブラジルのビッグクラブではこうした設備を保有している事は大きなサプライズではありません。何なら割とポピュラーで、ビッグクラブならどのチームも持っています。クラブによっては寮や学校も用意されていたりもします。まさに英才教育。サッカー王国恐るべし。。
当然ですが入口にはセキュリティがおり、関係者以外は中にすら入れません。保護者も締め出し厳戒態勢+完全隔離で行うのが通例。プレーヤーもスタッフも100%『仕事』に集中できる環境を整えています。
これまでもサンパウロ、パウメイラス、デスポルチーボなどなど多くのクラブでこうした設備を目にしてきました。今回の遠征で訪問させて頂いた、W杯でコートジボワール代表が拠点して活用したブラジリスもそう。もう一言です。素晴らしいとしか言いようがありません。
こうした設備で育成年代の子供達を育てるコリンチャンスですが、ではトップチームがどういった戦歴なのかというと、、
コパ・リベルタドーレス優勝1回
カンピオナート・ブラジレイロ優勝7回
コパ・ド・ブラジル優勝3回
カンピオナート・パウリスタ優勝26回(サンパウロ州では最多)
FIFAクラブ世界選手権(現:FIFAクラブワールドカップ)優勝2回等
数々のタイトルを獲得してきた、文字通り世界レベルのサッカークラブです。
初めてブラジルに来た時は、怪物ホナウドがこのコリンチャンスに在籍しており、Rカルロスや鹿島アントラーズでも活躍したダニーロなんかと一緒にプレーしていました。その際にクラブ側が配慮してくださり、アカデミー生と練習試合をする為に施設へ訪れていた我々を、リベルタドーレス杯(南米選手権)の決勝戦直前の非公開練習に招き入れ特別に見学をさせてくれました。
ホナウドにいたっては『日本から来てくれた友人の為に』とサインユニフォームまでわざわざ届けて下さいました。
ダニーロは子供達の元に駆けつけ触れ合ってくれたっけ。
そのダニーロが今U20の監督をしているっていうんだから時の流れは早いものです。
さて、、
そんな超ビッグクラブとの交流機会を逃すまい!と、今回野口は監督としてチームを率いて渡伯していたわけではないので、他の作業をこなした上で、コーディネーターさんにも断りを得た上で、(ダメって言われたらちゃんと退くと約束をして)
コリンチャンスの指導を盗みたい!
と思い、シレッと日本勢ではなくコリンチャンスサイドのベンチ脇に忍び込み、ミーティングや試合中の指示を『盗み聞き』しに行きました。
そしたら、、はい。すぐに呼ばれました。
試合開始から5分後の事。
ベンチ内にいるコーチングスタッフと統括部長が、明らかに野口の方を見て声を発しているわけです。
『こっちに来い』と。
そりゃそうだよねと思いつつ、怒るなら優しく怒ってくれ!お前のベンチはあっちだぞ位にしてくれ!と願いながら彼らのもとへ向かうと、彼らの口から飛んできたのは、
『教えてくれ』でした。
野口は言います。
『へ?』
そのゲームは開始5分で既に複数のゴールがコリンチャンス側に決まる展開でした。そのゲーム展開で相手側の指導者、しかもサッカー後進国の指導者に、世界有数のクラブ指導者が??
何を聞きたいの??
寿司でも作りたいのか??
海賊王になりたいのとか聞かれるのかな??
でもこの感覚、とても懐かしく、そして色々と思い出しました。
これまで自分をサッカー界で導いてきてくれた、尊敬すべきパイオニアの方々は、自分が元日本代表だろうと、Jリーグ王者だろうと、代表監督だろうと、皆本当に興味津々に話に耳を傾けてくれ、寝る間も惜しんで常にサッカーの話ばかりしていました。本当にクレイジーな位サッカーが好き。そしてそれが当たり前。
決して『ブラジルだから』『ハングリーだから』といった話ではない、万国共通のキーワード。それが我々を結び付けてくれている事を感じたシーンでした。
【サッカーが好きだから】
ボール1つで何処で誰とでも友達が作れるスポーツ。その素晴らしさを体験したといっても大袈裟ではないと思います。だってここ地球の裏側ブラジルだもん。
そして
今も含めて自分を先導し、そして当たり前の基準値を引き上げ続けてくれた、全ての人達にあらためて感謝した一幕でした。
そこから先は、とにかく育成論について色々な話をしました。
結局120分くらいお話できたかな。
マルキーニョスさん、バタータさん、Muito obrigado.
①コリンチャンスがどんな哲学で選手を育てているか
②コリンチャンスが選手育成に最も重要だと考え常に取り組ませている3つの軸
③各ポジションの役割や考え方
④各エリアごとの考え方
⑤スカウティングの基準
⑥どうやって選手に個性を求めるのか
⑦マルキーニョスがアジアの選手達を欧州・南米で通用する選手を育てるとしたらどんな手法を用いるか。また日本人に足りないと感じる要素は何か
⑧選手としてキャリアを成功させる者とそうでない者の違いは何か
⑨最近のブラジルサッカー指導者事情(欧州志向の考え方も入ってくる中でコリンチャンスがどんな考え方でそれらを整理しているのか)
⑩ブラジルサッカーにおいて『世界一だと誇れる部分』を1つ挙げるとしたら何か(遠征にきた日本人が感じ取らなければいけない最たる要素は何か)
などなど、数を数えきれない位お話を聞かせて貰いました。
勿論その中には自分なりの考え方を織り交ぜたりしながら話をしていきました。
特にヘッドコーチのマルキーニョスさんは、試合を見ながら『ほらこのシーンで彼が』と実際にプレーを観ながら具体的に解説をしてくれたり、その後に実際にその選手を呼び付けてその時の話を本人からも聞かせてくれたりもしました。ボールを一緒に蹴りながら伝えてもくれました。
野口としてはコリンチャンスのココが他のブラジルのクラブよりも長けていると思うが、どう練習してるのか?という質問にも、『そんなの簡単だ』こうやってーと彼らの最適解をスムーズに教えてくれました。
また『あの指導者はきっとこういう事を今指示しただろ?』と日本勢の指導者の指示まで解説。“なぜマルキーニョスは日本語がわからないのに彼の指示の内容がわかるの?”と聞いたら『その後に子供達がそういう行動をしたからだ』との事。
驚くのはそれがそのまま大正解で、その上で『もっとこういう内容、こういうタイミング、こういうトーンで伝えないとダメだ。我々ならそれでこの問題を解決できる』という事まで教えてくれたりもしました。
今まで何度もコリンチャンスを見てきた身として、そしてマルキーニョスさん本人も言ってましたが、今回対戦したコリンチャンスは歴代のそれと比較しても、また現在ブラジル国内でも、事実『最強ではない』です。むしろ近年実力としては下降気味。現在はライバルクラブのパウメイラスがダントツの強さをもっています。
それでも、コリンチャンスはコリンチャンス。
そんな中で今回のチームには1人『日本人の血』を宿す子供が右サイドバックで躍動していました。名前もそのまま日本人。
そんな彼を実際に扱う人達だからこそ、今回連れていった日本人の子供達に対しても、【自分達なら変えられる】という自信を抱いている事が先の話から伝わってきました。
2年後には今度はアメリカの大学に行き、また指導を学び直すと楽しそうに語るマルキーニョスさん。とにかく好奇心旺盛で勉強熱心。逆にお前はなぜそういう考えなんだ?日本ではこの事象をどう教えるんだ?お前はどうやってオリンピック選手を見つけ出して育てたんだ?と質問攻めの時間まで作ってくれました。
何なら見せた方が早いし、どうせなら違うカテゴリーも紹介してやるから来い!と非公開エリアに連れて行ってくれようとしたり。(作業の関係上断念しましたが行きたかった…)
道路渋滞で少し遅刻してしまった我々に対し、彼らは練習をして待っていました。ガッツリとタチコをして、選手間で鎬を削り、その日の締め括りとして我々と試合をしていました。その練習だけでも、クオリティの高さは相当でした。しかしそこには確かに、彼の語る『育成哲学』がふんだんに盛り込まれていました。
だからこそ思う事は、マルキーニョスさんはじめ、選手達のそれを【ハングリー】の一言にまとめる事ほど浅はかなことはない、ということ。
確かな考えと追求があり、そして試行錯誤を乗り越えて、いや楽しんで、今の姿があるのだという事。
単純な話だ。誤解を恐れず言うならば、広く見れば日本人にもそのバイタリティを備える指導者や選手はいる。確実にいる。何人も実際出会ってきた。ポテンシャルだけなら彼らの中に入れる子供もいる。
しかしいざ競争のピッチに立つと、もしくは何年か時が経ていく事で、差ができてしまう。それはハングリーかどうかの差『だけ』ではない。
何なら彼らにとっては、単に『サッカーが好き』『負けたくない』という基準が一般的なそれよりも高いだけで、それが彼らの【当たり前】なのだ。逆にそうでなければ、彼らと対等には話せない。バットを持たずにバッターボックスに入ってどうやってホームランを打つの?という話と同じ。
自分達のプレーや全力を出せなかったのではなくて、それを表現出来ないようにプレーされ、結果としてそれらを『出させて貰えなかった』というのが正解であり事実ではないか。気持ちを強く持つ事だけで点差がひっくり返ったりスコアが縮まる内容だっただろうか。
なぜ?どうして?どうやって?
考える事を放棄するスタンスはあってはならない。それが何よりの戦いだからだ。そこで戦わずして何がハングリーか。
そして何より見た事のない、感じた事のない事を体験する為に地球の裏側にやってきて、探究心・好奇心を抱けないなら、それはただのバカンスにすぎないのではないだろうか。
大事な事だからもう一度言おう。
何がブラジル遠征だ。何がハングリーを感じる旅だ。
ただのお金持ちの贅沢旅行じゃないか。
我々はよく諸外国の方々から、日本人は献身性・勤勉性・協調性が長けている、と評価を受ける事が多い。今回のブラジル遠征でも、そしてマルキーニョスさんからも、そういうお言葉を頂いた。その一部を放棄してしまったら、それこそ海外遠征をする意味なんて無くなってしまう。何だ?ブラジル遠征っていうのはブラジル『かぶれ』になる旅か?
学ぶ姿勢と言えば聞こえは良いが、ひねくれた見方をすれば、それが行き過ぎればただの『受け身』にならないだろうか。
諸外国だって学ぶ。
先進国だって進化する。
我々日本人の良さだって周囲に吸収される事はある。
どんな哲学を守り、どんな哲学を取り込むのか。その取捨選択をしながら常に『進化したい』人間だけが生き残るのがこの社会だ。
ハングリー
この言葉が出てくる時点で尊敬・尊重が足りない事に気がつかないといけない。
そして彼らの実力にそれが裏付けとして作用しているのは間違いないにしても、彼らの今は“確かな哲学とトレーニング”に支えられている事を知らなければならない。
だって彼らブラジル人が世界に誇っているものは、ハングリーさではなく【遊び心】なんだから。その遊び心が『何故』生まれてくるのかを考える事がこの遠征の全て。
ハリボテや付け焼き刃・モノマネが通用しないのは、日本もブラジルも同じ事。弱い者イジメなんて論外。
だからこそ、帰国した今、最高の経験を振り返り、悩み、そしてブラジル遠征を『スタート』させて欲しい。
我々指導者も、子供達の為に、戦わなければならない。
本番はこれから。持ち帰った財産をどう使い回し、増幅させるか。全てを真似できるわけではない。日本の環境だからできる事もあれば、ブラジル文化の中で生活を送る事でしか備わらないものもある。だからこそ考えなければ。学ばなければ。そして楽しまなくては。
本当に彼らに負けたくないなら、やるしかない。
全ては自分次第。
待ってろブラジル。次回は必ず勝つ。