最高のお誕生日プレゼント~後編~
って、言ってもらえた話。
その日の夜、本来私からしなきゃいけない連絡をお母様の方からくれた。と言っても直接連絡は取り合えないので、タミオ君を通じた画面キャプチャでのLINE報告。
本当にこの男は幸せなんだろうか。
幸せそうには見えるけど、私のこともめちゃくちゃ好きだろうけど、本気で結婚を考えているんだろうか。
聞けばいつだって、『うん』とは言う。
時期を確認した時も、必要な書類を 婚姻届けの現物が入った封筒を 次の休みこそは一緒に確認しようと交わした約束も毎回『うん』とは言う。
私はタミオ君自身の気持ちで、本当に結婚したいと思ってくれているのか確認したくて、それ以上の行動は起こさない。
だから、引き出しを開けないまま休みが終わっても
予定している5月が迫っても
今まで何も言わなかった。
その手の話をタミオ君から出してくることは絶対になくて、チャンスさえあれば話を振るのはいつも私。その度に 口約束だけを交わす。
きっとこのままじゃ、5月に入籍なんてしない(できない)だろうな って心のどこかでいつも思ってた。
それでも急かすのが嫌で、タミオ君が前向きに考えて行動してくれるのをいつも待ってた。
結婚を急いでいるわけではないし、5月の入籍がやむを得ず叶わなくたって全然構わない。でも今のまま5月になれば、それは【やむを得ず】叶わなかった入籍なんかじゃない。
ご両親にも私が一方的に話しただけ。タミオ君からも事前に少し伝えてはくれていたようだったから、寝耳に水ではなかったものの
タミオ君がそれを嬉しそうに幸せそうに両親に報告するわけじゃなくて、私が一人で喋り倒しただけ。
思えばちゃんとプロポーズだってされてないし、我が母への挨拶だって、結婚の意思があるかどうかだって、母から尋問されてその場で結果的にしてくれただけだ。
もっと更に遡って思えば
交際だって同棲だって、薬を変える決断だって、私が伝えた気持ちにタミオ君が賛同してくれて進んできただけで タミオ君の意思は私が掘り下げて聞かなきゃわからない。結果わかればいい って今までは思ってきたけれど、結婚はわけが違う。
どちらか片方が今じゃないと思ってるうちに、無理にするもんではない。
ずっと自分の頭の中だけでたくさん考えた。
どう伝えたらちゃんと伝わるのか
タミオ君を傷つけずに、結婚を焦っているわけではないこともわかってもらえるのか。
『何か考え事してる?』って、その夜何度もタミオ君に聞かれた。
『めちゃくちゃしてる』って答えたけど、それ以上は何も聞かれなかった。
夜、お風呂に入る前に約束していた白髪染めをした。
いつものように、タミオ君の髪にヘナを塗りたくって、そのあと自分の髪にも塗りたくって、時間を置いてる間二人で並んでコタツに座って
『婚姻届けと資料、手袋と一緒の引き出しにしまってあったから出しておいたよ。』
帰ってきた言葉はいつも通りの『うん』
私がどれだけ勇気を出してこの手の話題を吹っかけているか。
気乗りしないタミオ君の返事を聞くたびに、もう私から話したくないなと何度も思った。
また見向きもされず朝まで台の上に置かれたままの封筒を、いつも通り仕事に行くタミオ君を送り出してから もうこのまま破って捨てちゃおうか 考える。
拒否されてるわけでもない
逆にそれがとてももどかしくて
二人が望んで願ってする結婚じゃないなら、別にしなくたっていい。自分だけがゴールを目指して無理やりタミオ君の手を引っ張ってるだけみたいな日々が、私は嫌だった。
結婚がゴールなんかじゃないのに。
タミオ君を見送った後、もう一度コタツに入ってため息をついたら、涙が出た。
考えて考えて
『婚姻届けと資料、今日一人で確認しちゃうね。何が必要か確認して、ツリー(カレンダー共有アプリのメモ)に入れておくよ。』
送ったLINEには、いつもの【了解】の可愛いスタンプ。
続けて、最後にもらったお母様のLINEに返信できていなかったのを利用して、気持ちを伝えてみるなどした。
お母様には伝えた、という前提のあと
タミオ君からの返信には
と、届いた。
先に言うと、本当にその日の夜は
最近欠かさずしていた晩酌もせずに、初めてタミオ君から入籍についての話を出してもらえた。
5月に向けてどんな準備が必要か、もし出せなかった場合の候補日、いろいろと。
タミオ君はちゃんと嬉しそうだったし、不思議なぐらい気乗りしていない様子もなかった。
私は毎日我慢したり勇気を出したり何日もかけて頑張ってここに辿り着いたのに、タミオ君は1日にして気持ちを切り替えている。
不思議すぎて何故なのか聞いたら『なんかスッキリした』と言っていた。
無理してるわけでも、流されてるわけでもないらしい。
***
自信なんて、最初からあるもんじゃないし
積み重ねて後からついてくるもんである。
無意味に自分に自信がある人を【自信家】と呼ぶように、最初から踏み入れてもいない新境地に対して自信なんてあるわけがない。
まず自分に自信が持てるように少しでも頑張ってから言え、と 言おうと思ってたのに
朝、目の前に置いてある婚姻届けから目を逸らして仕事に出て行った後ろ向きなタミオ君はどこにもいなかった。なんでだろう。いいんだけど別に。
きちんと面と向かって本当に話してくれた後
『やっぱり飲もうかな、祝杯だ。』と言った。
だいぶ前に買ってあったけど飲んでなかった、期間限定のトロピカル澪を一緒に少しずつ飲んだ。
元部長が始めたばかりの陶芸で作ってプレゼントしてくれた、夫婦茶碗とセットの湯飲み。勿体なくて使わずに飾ってた部長の湯飲みで、祝杯した。
もはや、何のお祝いなんだかよくわからない。
結婚って、どうしてするんだろうね。
もう籍入れなくてもいいからせめて住所変更してよ、今のままじゃ我々が同居人だということすら社会的に認めてもらう手段もないよ。だから私は信頼できる友人や同僚に 手あたり次第タミオ君のことを話しているよ、いざとなった時にタミオ君が私にとって大切な人だと証明してもらえるように。
そんなもの、本当にいざとなった時なんて何の役にも立たないかもしれないけれど。
、、なんてことも 話した。
【家族になる】という覚悟や責任が持てないでいるタミオ君に、情けなさがあったのは確か。
これからも添い遂げたいだけなのに
籍を入れるかどうかなんて
今の生活が続けられるならどっちでもいいとすら思ったけど
それでもタミオ君が決断してくれたことは嬉しいし
前向きにそうしたいと思ってくれてありがとう
と、伝えながら泣いた。
もう感情がよくわからない。
嬉しいのと有難いのと、安心したのと解放されたのと。
自分でもなぜこんなに涙が出るのかわからないぐらいずっと泣いた。
たかが紙切れ一枚のことだ。
それでも、家族かそうじゃないかで許されないことがたくさんあるって こんなご時世になって何度も身にしみて感じてきた。
『どちらかに何かがあった時に、他人じゃどうしようもないことって多いから。家族になるって大きいよ。』
と、お母様も言ってくれた。
***
タミオ君からのLINEの後
お母様からのメッセージキャプチャも遅れて届いて
私宛なのか、タミオ君宛なのか、両方を兼ねているような内容で
出会った当初から嬉しくて先走ってしまったことや、結婚前提の覚悟じゃないといけないってタミオ君に伝えてくれていた事、なかなか結婚の話が進まなくて諦めモードだったことや、子供については二人で決める事だから子孫が残せないなんて問題ないこと
母として見ざる言わざる聞かざる(絵文字)で見守り続けます
って、送ってくれた。
どん底時代と比べたら だいぶ自己肯定感は上がったし、それは自らの努力の賜物だとちゃんと思えているけれど
私だって決して自分に自信があるわけじゃない。
ただ、これからも元気に仲良く穏やかに暮らすためにできる努力はし続けるし、きっとなんだかんだあっても その度に素直に伝え合って 話し合って、二人にとって良い方法を選んでいける気はしてる。
そりゃ人間同士、他人同士、分かり合えることばっかりじゃないし、すれ違いや食い違いだって出てきて当然だと思うけれど
自信がない で、逃げてちゃ終わりだ。
タミオ君のご両親が
私がタミオ君と一緒にいることを喜んでくれている事実や
今まで私の全てを把握管理しておきたかった母が、タミオ君との関係や生活を認めて私をある程度放置してくれるようになったことは、自分にとってそれこそ人生の一大事だ。
私はタミオ君と出会って、少しずつ人間らしく生きられるようになってきた。感情を素直に表に出すことも、頑張りすぎないでいられることも、時には安心して頑張ることも、できるようになってきた。
5月の入籍が叶うかどうかはわからない。
わからないし、もうどっちでもいい。
ちゃんとお互いが【家族になること】に向けて気持ちを揃えることができて、安心した。
あとは 大量買いしたのに封印したコンドームの数々を改めて枕元に常備して、もう一度命の大切さと妊娠出産の奇跡について講演会を開いてやろうと思う。
妊娠の可能性は限りなく0%に近いけど
大事なことだからな。
40代男性の性教育、頑張ります。