マジで太平洋最深部に沈めてやろうかと思った奴の話
こんな奴が同じ大学にいるなんて。
俺が出席番号4番で、そいつは同じクラスの3番。入学以来、ずっと苦手意識を、というか消極的に嫌いだと思っていた。そいつのことを常に憎んでいるわけではないけれど、講義や実習で同じグループになったり、大学ですれ違ったりするのは本当に嫌だった。決して顔には出さないけれど。しかし出席番号が隣であるということが、俺がそいつから離れることを許さなかった。
席が出席番号順になっている、実験や英会話などの講義では必ず隣同士でペアやグループになり、個別担任(講師1人が学生5人の相談役を受け持つ制度)も同じ。入学してまだ1年も経っていないが、世の中にここまで嫌いになる人間がいるのかということを嫌というほど叩き込まれた。
なぜそいつが嫌いなのか。
・承認欲求が強く、積極的に講義などでの共同課題に取り組むが、自分に対する反対意見などを許さない強硬さがある。というかすべて自分でできると思っている節がある。おそらく無自覚だから、なおタチが悪い。
・おそらく生粋の真面目野郎だが、それゆえに真面目でない人間の心が理解できず、ノルマや義務に対する不備を、許せない怠惰であるとして必要以上に断罪しようとし、ときには人格ごと否定してくる。自分が少数派の真面目野郎であることを理解していない。人間全員が自分と同じレベルの勤勉さを持っている前提で物事を進めようとしている。
・リーダーの役割をはき違えている。俺の持論だが、メンバーに過失があった時にその過失を取り戻させるのがリーダーの役割だ。それができれば問題解決であり、それ以上でも以下でもない。失敗を修正したときのやり方を続けさせれば完璧にその問題は終わりのはずである。しかしこいつは失敗したときの原因をしつこく追及してくる。「どうしてか言ってごらん。怒らないから。」を現実で聞くことになろうとは思わなかった。言ったらどうなるのかはお察しである。失敗を修正させるのではなく、失敗者に説教することが目的となっているのだ。そしてそれが自分の仕事だと思い込んでいる。
・「本人の承認欲求の強さ」「自分が中心に立とうとする姿勢」「真面目さ」の強烈さに反して、能力自体がとてつもなく高いというわけではない。平均以下ということはないだろうが、集団全体の能力よりも優先できるエースを張れるほどの能力はない。しかし、場の主導権を握る能力にだけは長けている。
サッカーで例える。エースストライカー特有の傲慢さ・主張の強さはあるが、それを許容するに見合うだけの圧倒的な能力があるわけでもなく、「チーム全体の能力を引き出す」という、キャプテンに求められる資質とは正反対の、「可能な限り自分だけで全てを組み立てて目立ちたい」という思考回路であるにも関わらず、リーダーという立場を望んでやまない。それがこいつだ。
おそらくこいつを嫌いな理由はこれだけではないが、感情を自己分析できる範囲で切り分けるとこういった形になると思う。とにかく、天文学的な確率、運命的に相性が合わない。本当に嫌い。
さて。腐れ縁を超えて呪いとでも言うべきこいつの存在だが。案の定というか、大学の講義のプレゼンのグループでも一緒になってしまった。しかもこれに関しては各々の希望するテーマごとに振り分けられた上で、2つのグループに配属されるという形式にも関わらずである。希望テーマがこいつと同じだったというだけで頭を抱えたが、1/2の確率でもきっちりと一緒にされた。もうやだ。
こいつとは一度英会話のグループワークで口論になったことがある。上記の態度に対して、俺も限界が来てしまい、友好的な猫の皮を脱いでしまった。俺の俳優適正はそこまでだ。しかしその時はそこまででも......いや結構やばかった。
しかし今日の戦はそんなものじゃなかった。
もともとプレゼンのグループで俺がそいつをリーダーに指名した経緯がある。リーダーを決めなくてはならない段になって、それ以前からグループの主導権握り男だったそいつを、一応面識のある俺が推せばめんどくさくないだろうと思ったからだ。どうせそれがなかったら期日ぎりぎりに「なら俺が......」としゃしゃり出てくるだろうと思ったし。それよりはスムーズだろうと。
けれどその判断は中長期的には大きな間違いだったと気付かされることになる。
プレゼンのグループ人数は1ダース程度なのだが、オンラインミーティングではほぼそいつしか話していなかった。俺はこういった場での議論自体は嫌いではなかったけれど、リーダーがずっと話している状況で、それ以外の時間はほぼ俺が話すというのは余計に他のメンバーが手を出せないかと思い、リーダーに話を振られても(初期はリーダー以外で最も話すのは俺だった)あまり長くなりすぎないようにしていた。
そんな中、いよいよプレゼンの製作をするという段になり、より少人数の集団で分担作業をすることになった。3人で次回までにノルマを達成しなくてはならないという状況の1週間だったが、もともと発言ほぼ無しの2人と組んだため、LINEグループを組んでもほぼやり取りのないまま数日が過ぎた。
自分が主導して内容の骨子を作り、LINEでそれに異論があるかを訊くという方法も考えたが、それでは俺の嫌いなあいつと同じだという強い忌避感があった。今思えば愚か以外の何物でもない俺の思考だ。しかしそんな自分の都合とともに、期日が近づけば2人の仲間も少し発言してくれるだろうという腹もあった。
けれど彼らも「そちら」側の人間だったらしい。期日ギリギリでも発言が出ることはなかった。
そして僕は傲慢極まりないが、ノルマが一切進んでいないこのグループに、あいつがリーダーとしてどういった対応をするのかを試そうと思った。結局成果ゼロで進捗報告会に臨んだ。
結果。俺があいつを心底嫌いだと思う要因を2つも浮き彫りにしてくれた。
先ほど上に記した箇条書きの2つ目・3つ目は今日のあいつの対応があまりにも、一切建設的な対応をしないブラック上司のそれだったことによってわかった新事項である。
まだあった。追加。
・今回の件では3人全員に責任がある(チームによる成果物の成否)と言えるが、よくわからん理由で個人ごとに責任を追及された。
サッカーで例えるならば。チームの失点時(明らかな個人の大ポカがあったわけではない)にGKだけに罵詈雑言を浴びせるような真似をしたのだ。これは、あいつが結局個人の成果を信条とする思考回路(それも無意識)であるということが言い逃れのできないほどに明らかになったということでもある。
こいつとイニシャルが一致している自分がもう嫌だ。結婚したら奥さんの名字をもらおっと。
学務課か個別担任にいっぺん相談してみる。「クラス変えてくれ」と。
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