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Interview#65 京都「たま木亭」玉木潤さんのパン時間

食の仕事に携わる人々のパンとの関わり、その楽しみについて伺う連載企画、第65回66人目は、京都・黄檗のパン屋さん「たま木亭」の玉木潤さんにお話を伺いました。

いろんなおいしいパンを食べてきたけど、やっぱりこのフランスパン

たま木亭オーナーシェフ 玉木潤さん


みんなのほうが知っている

昨日のパンをちょっと残しておいて、翌朝につまむのが朝ごはんです。サンドイッチにしたりする時間はないから、トースターでちょっと炙ったのを食べる。軽く熱を入れることで香りが戻ります。何もつけないですね。バゲット、カンパーニュ、食パン……惣菜系のパンのときもあるな。

パン屋やから家にいつもパンはあるんです。そんなパンをお姉ちゃん(高校生)や次男(小学生)は、なんかおもしろいことして食べてますよ。子供ってきまりごともなく自由でしょ。そこらへんにあるものを挟んだり、クロックムッシュみたいなのをつくったり。あれはYouTubeとかInstagramを参考にしてるんやろうな。ほんま凝ったことして、おいしいおいしい言うて食べてる。変わったことするんやなぁと見ています。奥さんは、まぁ普通にハンバーグでもなんでもおかずと一緒にパンを食べていますよ。オリーブオイルをつけるかな。うちはほんまもう普通で、小洒落た発想でパンを食べるなんていうのはないですね。あるものと一緒にパンを食べる。そんな感じです。
 
今は情報がたくさんあるやないですか。うちのお客さんにしても食べかたに関して、たくさんある情報の中からチョイスするやりかたがわかってはるんですよ。こっちよりもたくさん知ってはる。うちはバゲットにカンパーニュに食パンにと食事パンの種類がすごく多いから、それをいろんな風にして食べてはるんやな。Instagramとか見るとようわかりますよ。スライスしたパンにおかずをいっぱいのせたりだとか、添えたりだとか。

たま木亭の食事パン

「マニトバ」は油脂の入っていない食パン生地を型に入れずに直焼きしたものです。こういうパンは昔からあったと思うんですよ。でも切りっぱなしで焼いてみたらソフトフランスとも違う、今までにないものができてきた。こういうの今までなかったな、変わってておいしいな、となったわけです。あれはうちの子供らも好きやし、売れてますよ。フランスパンは食べ慣れないとハードルが高いけど、マニトバならやわらかくて食べやすいのかもしれない。

「スヴィンバゲット」は日清製粉と3年がかりでつくった小麦粉「スヴィンゴールド」を使って、72時間の長時間発酵で旨味を凝縮させたパンです。高級シャツをつくるときに使う、なめらかで光沢があって肌触りがいい超長綿のことをスヴィンゴールドというんですが、そのイメージをバゲットにしています。艶のある気泡とか、なめらかな質感というものはもともと技術としてあるので、そうではなくて味の点で、シンプルなんやけどちゃんと主張があるような、インパクトのある味にしたいと思ってつくりました。フランスパンをいろんなところで食べてきはった人に、最終的に選んでほしい。いろんなおいしいパンを食べてきたけどやっぱりこのフランスパンやね、と言ってほしいな。その製法を今、講習会で伝えています。

たま木亭のラスク「こげぱん」

細かくカットしたフランスパンに沖縄の黒糖、無塩の発酵バターを染み込ませて、低温のオーブンで時間をかけてカリッと焼き上げたのが「こげぱん」です。いろんなパンの端のところです。いわゆるラスクですけど、うちはラスクといっても日持ち商品とせず普通のパンと同じ感覚です。毎日売り切れ御免で、毎朝焼くんですよ。そのほうがバターの香りが立ちやすくて素材の香りも逃げにくい。賞味期限としてその日のうちに食べてくださいと伝えています。もちろん二日三日と食べられますよ。でもバターをたくさん使っているから酸化しますよね。早めに食べたほうがおいしいです。

気取らない、つくりやすいパン

パンは自分の息子や娘みたいなもので、どれが一番好きって言えないですよ。言えるわけないやん。口に合ってつくりやすいのが一番と思っています。うちはそういうパンばっかりなんですよ。パンに食材を盛ったり、いっぱいトッピングしたりしない。前の会社で叩き込まれて生産性を考えているからね。利益を出すにはどうしたらいいかとか、一人あたりなんぼつくるかと考えているから、うちのパンはめっちゃシンプルです。

でもフランスパンだけ置いていてもわぁーってならへんやんか。いろんなパンがあれば、わぁーって楽しくなる。家族でまた来てくれる。だからパンのテーマパークの気持ちでやってます。でも全部シンプルです。いいパンをつくって、気取らないのがいいんです。

玉木潤 
たま木亭オーナーシェフ

1968年京都府宇治市出身。京都センチュリーホテル、ムッシュFを経てドンク京都に入社。1996年パンの世界大会、クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー(バゲット及びパンスペシオ担当)で日本代表としてパリ大会に出場。上位入賞を果たす。2001年黄檗駅近くにたま木亭を開業。2015年店舗を移転リニューアル。2021年東京有楽町にスペシャリテのクニャーネ専門店「クニャーネの店」オープン。2024年吉祥寺、湘南にも展開。著書に『忘れられないパン「たま木亭」』(柴田書店)他

NKC Radar vol.98より転載

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