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役者と演出家と観客

比喩ジャックマン vol.14 ミカドの肖像

猪瀬直樹さんの『ミカドの肖像』は、日本と日本人が心の中に持つ「空虚な中心」について、ヨーロッパ、アメリカから見たミカドという空間的な視点と、明治維新以来100余年という時間的な視点で切り込み、その成り立ちとレーゾンデートルに迫る骨太な内容の一冊です。

テーマがテーマで、さらに30年以上も前の出版だったりするので、完全に「なかなかとっつきづれーなぁ、読むのしんどそうだなぁ」的な本ですが、そこは要所要所に織り交ぜられた猪瀬さん一流の巧みな比喩ジャックマンが補助してくれます。

たとえば、天皇と官僚と国民の三者の関係を、それぞれ舞台役者と演出家と観客に見立てて説明しています。

天皇は観客席から見ると絶対君主であり現人神を演じていた。しかし、楽屋の解釈は立憲君主で、君臨すれども実際の統治は官僚に委託されていた。演出家の作ったシナリオは、明治憲法と教育勅語。シナリオの出来栄えはなかなかのものだった。観客は舞台そのものに完全に魅入られたわけではなかった。が、観客席にはマナーを指導する警察官が配置されていたからうっかり欠伸もできない。(中略 )つまり、国民のホンネの部分までを天皇制で固めることは困難であったが、その分、警察国家が埋め合わせをしていた。

30年以上経った今でも、なかなかこのようにタブーに堂々と触れるような表現はそうそう見ない。「象徴としての天皇って何なの?」と必ず一度は思い、誰もうまく教えてくれないけれど、気づいたらなんとなく理解していて大半は普段そんなもの気にかけず生活している。

もはや雰囲気としか言えないようなそのことを丁寧に言語化して教えてくれてるのがこの本で、近代日本を学ぶ歴史書とも言える一冊です。


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