小説#1

 僕は昔から運が悪い。おみくじはいつも末吉か小吉だし、バキバキくんのアイスはいつもハズレだ。運はみんなの味方をする正義のヒーローではない。運がみんなを味方していたら、宝くじもマーク式の試験も成り立たなくなってしまう。

今日は三年生から配属されるゼミの発表日で、僕は亮輔の部屋で一緒に確認することになっていた。

カーソルが「抽選結果」のところで停止してカチッと音を立てる。

「よっしゃ、俺は当たった。健は通った?」
「マジ?亮輔当たったの?すげーじゃん。僕は落ちて第三希望のとこ」

何となく、第一希望のゼミに配属されないことはわかっていたから、特別大きなショックはなかった。やっぱりなというのがすぐに浮かんだ言葉だった。それに亮輔が第一希望に通ることもうっすらと感じていた。それでもひょっとしたらという心のどこかにあった一抹の期待が打ち砕かれて表情に出たのだろう。ほんの一刹那、亮輔との間に不穏な空気が漂った気がした。

「第三希望か…。じゃあ、今夜は飲むか!」
「え、なんで」
「俺の第一希望内定と健の第三希望内定を祝して飲むんだよ!あ、ゴンちゃんも誘う?」

マウスを動かすと、薄暗くなっていた画面は明るさを取り戻す。
こういう時の亮輔はプロフェッショナルだ。場が気まずくなりかけると亮輔はすぐにそれを察知して明るく和ませてくれる。

「僕の第三希望って…それお祝いなの?」
「そんなことは気にすんな。ゴンちゃんが第二希望なら、俺らでワンツースリー揃うな」
「全然めでたくないけどね」くだらない冗談に笑みが溢れる。
「とりあえず、俺ゴンちゃんに聞いてみっから」

ゴンちゃんこと、後藤純平は僕たちと同じで南武蔵大学の経営学部二年生だ。一年の時に消費マーケティングの授業で仲良くなって以降、僕たちは定期的にこうやって集まっている。ゴンちゃんは実家暮らしで、僕と亮輔は一人暮らしだが、キャンパスから徒歩3分という理由で亮輔の家に集まることが多い。

「あーゴンちゃん、今夜健と飲み行かねー?」「今はね、二人でオレんち」

並びの良い歯を剥き出しにしてにんまりと笑った亮輔がこちらに向かって親指を立てる。ゴンちゃんも来てくれるのだろう。

「ういーす、んじゃまた後でな」

ポロロンと通話終了の音が鳴った。

「ゴンちゃんバイトでちょっと遅れてくるって」
「そっかー。でもまだかなり時間あるよな」
「スマブラしようぜ」亮輔はNintendo Switchの電源を入れ、画面が真っ暗になっていたパソコンをぱたりと閉じてしまった。
「こっからは容赦しないぜ、どっちがいい?」右手と左手で黒色のジョイコンを差し出す亮輔。
「どっちも変わらないでしょ。望むところだ」僕はパソコンを片付けて右手のジョイコンをとる。
「そっちはハズレだな。スティックの感度が少し悪い」
「そんなの関係ないよ、コテンパンにするだけだから」
「フッ。望むところだ」

亮輔との実力は同じくらいだけど、今日は勝てる気がした。いつもより運がいいなって思えたから。

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