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SIDE CORE 展 コンクリート・プラネット

side coreの個展がワタリウムで開催している。ワタリウムがきっかけでアートにハマった自分としては、待望の展覧会で、やはり最高の展示だったので備忘録として書いておこうかなと思った。気まぐれに。

ワタリウムのエレベーターを出ると、黄色いランプに照らされた部屋が展覧会のスタートで、見るもの全てがモノクロームに見える。その特殊なランプの正体は、昔のトンネルなどに使われていたナトリウムランプらしく、美術館に入ったはずが、トンネルに出たような不思議な気分で、side coreがつくる都市の中に迷い込んでいく。

『モノトーン・サンセット』

2階は作品群がところせましと、渋谷の街のごとく、ガチャガチャと動き回って楽しげ。単管パイプを曲げてつくった音響彫刻がカーンと唸りをあげ、車のヘッドライトの集合体がチカチカと室内を照らす。中央に置かれた、反射板のピクトを集めてつくられた壁画は、ゆっくり回転して、ライトの作品とワタリウムの窓から入る光に照らされてメラメラと煌めく。都市に見立てられた、喧騒の中で耳を澄ますと、パイプの中をなにかが転がる音が耳をつんざく。そうすると、配管を移動するネズミや暗渠を流れる水、そういうイメージが頭の中に浮かび上がり、街中の見えない場所を動く小さなモノたちが想像され、自身も都市という巨大な運動体の中にポツンと1人で取り残されたような気分になる。

『コンピューターとブルドーザーの為の時間』
『夜の息』

『夜の息』や『東京の通り』にみられる、作品の面白いところは、工業製品や部品を集めてつくった作品なのだけど、冷たい感じはなくて、むしろ、手仕事でつくられた愛らしさがある。ビーバーがえっさほいさと枝を集めてつくった巣のような可愛いさ。ものを作る時、手を動かしながら、なにかをつくると、いろいろ考えながら、作らないといけない。(ビーバーもいろいろ考えているはず) 都市も同じで、人が手や頭を動かしながら、つくったと感じるモノや建物は、なんか愛おしい。最近の都市の問題は、そういうことより、効率が良い(考えなくていい)ほうに物事が流されてしまうことにあるんだと思う。そういう問題をside coreの作品は鋭く捉えている。もう一つ、これらの作品には、モノを集めて見せることの楽しさも感じられる。このライトはカッコいいな。このピクトは可愛いなみたいな感じで、1つ1つのパーツにも愛着がこもっていて、これ拾ったんだけど、面白いから見てよ。みたいな。

『東京の通り』

そういう発見と共有のプロセスは、side core作品の真骨頂であると思う。僕は2020年の『生きている東京』というワタリウムの展覧会で、『ナイトウォーク』というイベントに参加して、彼らと知り合った。イベントの中身はside coreがグラフティや変な場所など、都市で見つけた面白いものを紹介しながら、ゲストと街を歩くという内容で、それに参加して、都市の見方が180度変わるくらいの衝撃を受けた。(変な道を歩いたり、ビルの隙間とか覗いちゃう)とにもかくにも、side coreの作品には、面白いものを発見したり、つくったから、みんなに見てもらおうという、アートの構造それ自体を、作品の中にも内在させるユニークな試みがある。それは、展覧会場と作品どちらにも展示が入ってるような、2重の入れ子構造になっていて、彼らの展示に深く入り込んでしまう奥行きを与えていると思う。

同じフロアの、陶器でつくられたトーテムポールもこの展覧会の白眉の作品だと思う。レヴィ=ストロースの『野生の思考』に出てくる『ブリコラージュ』を体現したような作品で、今日の資本主義を前提とした合理的思考をひっくり返すような勢いを持っている気がする。うまく言えないけど、現代社会でアーティストを『未開人』に見立てつつ、手仕事の根源ともいえる陶芸でつくったごみを、都市を象徴する積層構造にして、野生思考を示すトーテムポールにするなんてヤバすぎる!という感じ。いやそもそも、そんな意味とかなく、適当に積んだだけだよ。ということでも、そういう奥行きを想像させてしまうのがアートの魔法的な力だと思う。

『柔らかい建物、硬い土』

3階も映像作品がてんこ盛りで、サービス精神なのか全部見せなきゃ精神なのか、とにかく盛りだくさんである。僕が一番好きな映像作品はコロナ禍中の誰もいない渋谷で、街のごみやモノが勝手に動き出す『empty spring』という作品。都市で遊ぶ自由さと、ユーモアを感じる物語が合わさった作品で、コーンや傘が勝手に動く様はとても可愛い。

『empty spring』

最上階には、地下廃駅や調整池など、東京の地下空間をスケーターがスケボーで滑走する映像作品『under city(ver.2024)』がインスタレーションとして展開されている。最初の発表からバージョンアップが重ねられて、今回が1番作品としての完成度が上がっていたと思う。発表時の東京の地下空間を見せるという方向性から、思い切って世界観をつくるマテリアルとして再編集することで、現実の空間なのにバーチャルに感じられて、都市伝説のような架空の世界がそこに立ち現れているような面白さが見えた。

『under city(ver.2024)』

そんな感じで、都市への眼差しと愛にあふれたside coreらしい展覧会だった。いつもの街を歩いていたら、そのまま、知らない街に迷い込んでしまったような、そんな高揚を感じる展示だった。




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