記念講演を伺って

先日,ある先生の記念講演に参加致しました.その先生はロボット工学の大変著名な研究者です.ご講演の中で,とくに感銘を受けた箇所がありました.先生がまだ学部学生でいらっしゃった頃,その当時の(おそらく戦争体験のある)御年輩の教員に対し,次のような質問が出たとのことです.(一部記憶があいまいなところがあり,正確ではありません)

「先生,私たちの学科はかつて軍事の研究していましたが,私たちもまたいつかそのような研究をすることとなるのでしょうか?」

そうすると,御年輩の先生は次のように答えたそうです.

「いえ,私たちはそれをやる側ではなく,やらなくて良いように見張る側になるのです」

私には防衛産業に関わる親しい友人も多く,決して軍事研究は必ずすべきでない,とは思いません.しかしながら,歴史を見るとすくなくとも第二次大戦時の日本は敵に対しても味方に対しても,人命を軽視することにためらいがなかったように思われます.また,当時の軍隊は結局最終局面において民間人を守らないことが多かった.私たちの社会はまたそのようなことをしかねない社会ではないのか?,ほんとうに軍事研究が日本に住む普通の人のためになるのか?,そういったことを考慮したうえで,遂行するものは遂行すればよいと思います.

私が感銘を受けたのは,ご講演なさった先生が,非常に専門的な内容をお話されていたにも関わらず,最後におっしゃったのは上記のエピソードだったということです.

ロボット工学は,ヒトや生物への興味から生まれています.ロボット工学とはまず,人としての学問なのである,と,後進に向けてエールを送られた気が致しました.


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