守秘義務の説明と今後の予定
倫理事例問題の解説をしていて、社労士法22条2項など利益相反関係に関する説明はさんざんしてきたのですが、守秘義務(秘密保持義務)という言葉の意味や内容についての説明をほとんどしてこなかったので、今回、それをやります。
それと、そろそろ試験本番が近づいてきて、狭義の奥田塾の塾生の課題の添削やオンライン授業をやらなければならので、noteの記事を書く時間も限られてきたので、試験本番までは、このぐらい書きます(というか、このぐらいしか書けません)というのを宣言しておきます。
1.社労士が負う守秘義務の説明
一般の民間人同士の情報交換では守秘義務(秘密保持義務)は生じません。会社員時代には、よく会社同士で秘密保持契約を交わしましたが、これは、契約を交わさないと相手に守秘義務を負わせることができない(反対にこちらが負わされることもない)からです。
その際の守秘義務の内容は大きく分けて2つあります。①契約の当事者以外の第三者に当該秘密情報を開示しない(第三者開示の禁止)ことと②当該情報開示の目的(例えば、とある製品の研究開発とか、とある技術の共同利用とか)以外の目的で使用しない(目的外使用の禁止)ことです。
契約書を作っていて、他にも、問題になる点は多々あります。1丁目1番地は、そもそも守秘義務の対象になる秘密情報の特定です。例えば、製造ノウハウ、販売ノウハウ、顧客名簿、新製品に使われる特許申請中の秘密情報などです。第2問(倫理事例問題)でよく登場するのは、労働紛争の内容(5W1Hとか)、内部通報窓口で聞かされた被害者の告白、顧問先の様々な秘密にしておきたい情報などです。当該事例の中で、秘密情報が相手方に(意図的か偶然かを問わず)開示されたか、開示された可能性があるかなどを吟味して、秘密情報のやり取りがない(つまり、すべて公知の情報であった)か、秘密情報のやり取りはあったが、その情報を秘密にするという約束をしていなければ、守秘義務違反という最悪の事態は想定されません。
ここで気になるのは、とある情報を秘密として扱うとの個別の約束がなければ、社会保険労務士の業務上の顧客とのコミュニケーションに守秘義務は生じないのかです。
例えば、医師、薬剤師は、刑法134条1項で守秘義務を負っています。
(参考)*********************************************
日本医師会のWebsiteに医師の守秘義務についての解説記事が載っていますので、職業専門家が法律で貸されている守秘義務の内容と適用上の問題点について勉強してみてください。https://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/b08.html
刑法134条(秘密漏示)第1項
「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、・・・の職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」
**********************************************
例えば、中小企業診断士はどうなっているのかと気になって調べましたが、「中小企業診断士の登録及び試験に関する規則第5条7号」(省令であって法律より格下)で、間接的に秘密保持義務が規定されています。この「間接的に」というのが、味噌です。そもそも中小企業診断士には、医師、弁護士、社労士などのようなそれぞれの専門家を律するための法律がなく、中小企業支援法の中で中小企業診断士の役割が書かれているだけなので、なんとも隔靴掻痒の感があります。最近流行のキャリアコンサルタントも同様です。
閑話休題。さて、では、社会保険労務士はどうでしょうか?
社会保険労務士法第21条(秘密を守る義務)*********************************
開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員でなくなつた後においても、また同様とする。
野口香社会保険労務士事務所のWebsiteに「守秘義務と社会保険労務士」という記事が載っているので、社会保険労務士が抱える守秘義務の問題について知るために、一読を勧めます。
https://kn-sharoushi.com/20230925duty_of_confidentiality/
まあ、契約書に仕上げるには、守秘義務の期間を10年とするか、永久とするか、それとも当該秘密情報が公知になるかまでとするかとか、当該秘密情報を使用する目的をどのように書く(規定する)かとか、開示を受ける前から知っていた情報や第三者から開示された情報は、守秘義務の対象となる秘密情報から除くとかなど、こまごまと交渉して決めておかないと後日の紛争の種になります。
実際に倫理事例問題を解く際には、次に、③どのような場面で、④誰が誰に対して、⑤どの範囲の守秘義務を負うのかが問題になります。
特定社会保険労務士試験の倫理事例問題では、守秘義務違反のおそれがあるのか、ないのかの判断を、受任できるか出来ないかの判断の理由に書く場面がありますが、その際忘れてはならならないのは、なぜ守秘義務違反のおそれがあるのかないのかを判断したのかの理由(根拠)を簡潔に書く必要があるとうことです。
例えば、開示された情報には秘密情報は含まれていなかったので守秘義務を負わないとか、守秘義務を負わないと相手に告げて秘密ではない情報のみの開示を求めたから守秘義務を負わないとか、顧問社労士として業務上A社の秘密情報を知り得る立場にあったから、守秘義務違反を起こす可能性があるとか書いていきます。
守秘義務とか秘密保持義務とかいう言葉が飛び交う割には、その内容について理解せずに、言葉だけが上滑りしているような気がしたので、あえてここで解説しておきました(老婆心ながら)。
2.今後の予定(試験本番まで)
10月25日:第1回第1問過去問を使った練習問題とその回答
11月1日:第4回第1問過去問の解説と同過去問を使った練習問題とその回答
11月8日:第7回第1問過去問の解説と同過去問を使った練習問題とその回答
11月15日:第15回第1問第2問の解答と解説
以 上
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?