第12回第2問(倫理事例問題)の解説
今回は、いずれの小問も事例の事実関係が込み入っていますから、いずれも登場人物の役割(機能)の分析から始めます。問題文は、連合会のWebsiteから入手して読んでください。試験本番が近づいてきたので、過去問(特に倫理事例問題)を集中的に回している受験生が多いと思いますので、無料でサービスします。
解答例は、解説の後に、まとめて書きます。
小問(1)
A(特定社労士甲とは面識がなかったのに、勤務するB社の上司のパワハラ理由にB社に対してあっせん申請をするために、特定社労士甲に対してその手続き等について相談した。その相談の際、AはB社の社名と上司の名前を明かさなかったので、甲はB社が相手とは知らずに、自らの意見を述べ、とるべき法的手続きについて助言した。)
B社(Aの雇用主であり、あっせんの相手方。特定社労士甲の従前からの顧問先であり、特定社労士甲にAから起こされたあっせんの代理人になることを依頼した。)
特定社労士甲(A→B社のあっせんのAの代理人なるための相談をAから受けた。B社の顧問社労士なので、A→B社のあっせんのB社側代理人になることを依頼された。)
出題の趣旨の最後に、「解答にあたっては、社会保険労務士法22条2項1号の理解を中心として特定社会保険労務士としての受任上の倫理ついての考察を問うものである。」と書いてあるので、この線で検討します。この場合、社労士法22条2項1号で言う「相手方にAが該当して、Aの協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾したか」が問題になります。
ここで最初の論点は、「甲はAの協議を受けたのか?」ですが、Aから「あっせん手続き等について相談に乗って欲しいと依頼されて相談に応じた」のですから、これはクリアしました。次に、「賛助し、又はその依頼を承諾したか?」ですが、まず、Aは甲との協議の際にまだ甲に代理業務を依頼するかどうかを決めておらず、B社の社名や上司の名前を匿名にしていたので、Aは明確に依頼をしていないし、甲はそれを承諾していないと言えます。
すると問題は、「賛助し」に当たるかどうかという点になります。「Aは、・・・会社名などが黒塗りされた関係書類一式を持参してきた。そこで、甲はかかる関係書類一式に基づき、Aからの相談に応じて、自らの意見を述べたり、とるべき法的手続きについての助言などをした。」という事実から考えると、これは「賛助した」と判断して構わないと思います。
結論としては、この場合、Aは社労士法22条2項1号に定められた「相手方」に該当し、甲がB社の依頼を受任することは社労士法22条2項1号に抵触することになって、受任できないということになります。現実的に賛助しているなら、甲はAからこの個別労働紛争に関係する秘密を打ち明けられているだろうから「守秘義務違反のおそれ」は当然にあります(注意して欲しいのは、受任した時点で守秘義務違反を起こしてはいないという点です。)。受任できない理由としては、これら2点を挙げておけば、具体的な条文2つに違反しているので、より違法性の判断の難しい「社労士としての公正、誠実、信用、品位を害する」などという抽象的な理由は持ち出すまでもないと考えます。
小問(2)については、普通に考えれば、労働者Cからのメールには相手方の会社名D社を含む簡単な事実関係が書かれていただけで、「秘密に属するような事柄や詳細な事実関係までは記載されていなかった」のだから、守秘義務の対象となる情報はなく、(この甲の態度には問題があるですが)特定社労士甲が一週間返事をせずに放置していたら、労働者Cから依頼を取り消すような内容のメールが届いたので、Cと甲との間の接点は労働者Cからの情報提供しかなく(甲とCは何も協議していないのだから、受任も賛助も信頼関係の構築もしていない)、甲がD社の代理人を受任するための障害は生じていない(①社労士法22条2項で受任を禁止されていない。②守秘義務違反のおそれもない。)ので、甲はD社の依頼を受任出来る、で決着すると思います。しかし、そんなに簡単な問題なのだろうか?と疑い深い私は思うのです。特に、第12回第2問は小問(1)が易しいので。
出題の趣旨の最後に、「解答にあたっては、社会保険労務士法22条2項1号、同条同項2号の違いの理解・・・・・について考察を問うものである。」と書いてある点が気になります。これは1号では「協議を受け、賛助したか、受任した事件」を2号では「協議を受け、信頼関係に基づくと認められるもの」をそれぞれ意味しているという違いを認識していますよと解答に書きなさいと要求されている訳です。そうすると、解答の中で「甲は賛助も受任もしていないが、この事例の甲とCの接点では信頼関係を築いていないとは言い難いので、社労士法22条2項1号には触れないが同条同項2号には触れて受任の制限を受けるおそれがある。」ぐらいは書きなさいと言っているように受け取れるのです。一つ目の疑問がこれです。もう少し掘り下げます。
「Cから甲に対して、返信が遅いので依頼するのは考え直したいとのメールの連絡があった」と書かれていて、明確に「Cが代理人の依頼を取り消した」とは書いていないのですよね。Cが依頼を取り消してくれていれば、これで甲は全くCとは無関係で、D社の代理人を受任しても全く問題ないと言えるのですが、何かCと甲の間に委任契約の交渉が継続していて、明確にこれを遮断していない点が引っかかります。
でも、よく考えたら、D社から甲に代理人の依頼をしてきたということは、Cは既に自らあっせんを申請するか、他の代理人を選任してあっせんを申請しているのだから、Cは甲に対する委任の申込みを取り消した(撤回した)と言えるのですよね。
とすれば、検討したけど、甲はCの依頼を承諾していないし、Cは甲に対して事案の概要の説明をしていないので、社労士法22条2項1号には触れず、すれ違いの電子メールのやり取りしかしていないので信頼関係の構築には至っていないので同法同条同項2号にも触れないという考察が合理的であると考えられます。ただ、事実をんきちんと評価して書こうとしたら、250字の字数制限は、相当きついと思います。
最後に、出題の趣旨が、「1号と2号の違いの理解」と書いてあるのだから、それぞれの号の意味を理解しているのですよと(解釈とそれに当てはまる事実を)書いてあれば、この設例の事実をどう評価したか(つまり、受任できるか、できないかは)はあまり得点には関係がないのではないか、と思う次第です。
<小問(1)解答例>
(結論)特定社労士甲はB社からの依頼を受けることはできない。(理由)社労士法22条2項には、特定社労士が「業務を行い得ない事件」が複数規定されている。甲は、Aから会社名などが黒塗りされた関係書類一式を用いてあっせん手続きの相談を受け、かかる関係書類一式に基づき、Aからの相談に応じて、自らの意見を述べたり、とるべき法的手続きについての助言などをしたのだから、同法同条同項2号の「相手方から協議を受けて賛助し」に該当する上に、Aに対する社労士法21条(守秘義務)に違反するおそれもあるから。
<小問(2)解答例>
(結論)特定社労士甲はD社からの依頼を受けることはできる。(理由)Cから甲へのメールには簡単な事実関係が書かれていただけで、秘密に属するような事柄や詳細な事実関係までは記載されていなかったのだから、守秘義務の対象となる情報はなく、その後のやり取りから考えて、甲が「賛助した」という事実も「承諾した」という事実もない。よって、社労士法22条2項1号には該当しない。さらに、甲とCは事件の内容について何も協議していないので信頼関係の構築もしておらず、同法同条同項2号にも該当しない。他に障害となる事実はない。
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