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遊牧民会計士インタビュー_第2回:「n会計士」さん

 遊牧民会計士インタビューの2回目は、「遊牧民会計士」の名付けである「n会計士」さんです。今年は独立9年目になられるそうで、「独立した10年後」が気になる方は非常に参考になるのではないでしょうか。また、「遊牧民会計士のその先」や「専門家組織の組織運営」等洞察力に富まれた興味深いお話を伺っておりますのでお楽しみください。それではどうぞ。


インタビュー:「n会計士」さん

遊牧民会計士が多い理由とその生態

  • 東京には非常に多くの上場会社の本社が存在する。そのため監査パートの仕事が必ず存在し、会計士が独立したとしても監査パートで食べていける。地方都市では(と一口に言っても様々ではあるが、)上場会社数も多くはなく、経験の浅い会計士は税務中心となる可能性がある。東京では税務以外の仕事を取るパターンも多い。そのため、遊牧民会計士が生まれる土壌がある。

  • 独立会計士は監査パートと上場企業の経理のコンサルの仕事が多く、その2つでとりあえず生計を立てることはできる。その場合、自分が動くことが大半であり、従業員を採用するには至っていないのではないかと感じる。

  • 経理コンサルであれば時給1万円を超えてくる。監査パートからそちらにうまくシフトできると売上で年間20Mを超えてくる。経理コンサルも季節労働なので、その時期以外は何をするかはその人次第である。M&Aや税務が比較的多いように感じる。

  • 税務を取るのであれば会計事務所を運営する方向(従業員を採用する方向)となる。税務に関して会計事務所運営までいかず、同期や上司からの紹介仕事を中心にこなすのであれば売上は千数百万程度が多いのではなかろうか。

  • 遊牧民会計士ないし個人中心で仕事をされている独立会計士の方で、仕事を紹介できる同業者は自身の周辺でも20数名は存在する。会計士試験合格後、10年選手以降で30代~40代が多い。50代は知らない。50代になるとしっかりと会計事務所を運営するといった方が多いのかもしれない。

  • 自身はこの生き方が好きであり生き方の問題と感じている。従業員を採用しない、やりたくない仕事は取らないといったスタンス。

  • 遊牧民会計士的な動きをずっと続ける人は多くなく、他のパターンへ分化する。税務へシフトするか、会社を作って拡大するか、遊牧民を続けるか。税務方向は少なく、会社作る人が多い印象。

n会計士自身の独立までのバックグラウンド

  • 2000年代の前半に公認会計士試験に合格し、監査法人ではコンサルティング部門に所属していた。周りでは独立志向の人が多かった。IPO、M&A、Sox、IT関連の業務提供を行った。20年ほど前になるが、その頃からそういった志向の人はいた。

  • 監査法人からコンサルティング会社に転職し、そこでクロスボーダー業務に関わることとなった。このときのお客さんがその会社を辞めてCFOや経理部長等になっている。

  • 2017年に独立し、自身は今年で独立から9年目となる。

現状の提供業務と売上について

  • 売上は50-70M程度:(他の遊牧民会計士等へ)外注費をそれなりに支払っていることもあり、その大半が所得というわけではない。業務割合は年によって変わるが、半分程度はM&Aではないか。現状の業務の割合としてはDD、VAL、PMIが半分以上占めていると感じる。

  • M&A関連業務は単価がいいが、DDやVALの単価は最近は下がってきている。今はM&A案件多いが、それがなくなってきた場合にはどうするのか?は考えておく必要がある。M&A業務についても2000年台は市況がよかった。利益ベースで1億稼いでいる会計士もおり、50M稼いでいる人はザラにいた。

  • DDに関しては、遊牧民で働いている会計士へ依頼することも多い。業務の一部を切り出してお願いする。BSのこの辺、事業計画のこの辺を、といった形で依頼する。依頼後の動きは自由であり、期限までに成果物上がってくれば良い。自身はDDで手を動かすことはあまりない。VALは自分で行うことが多い。

  • 今は上場会社の顧客が10数社存在する。M&Aなので数年依頼がないこともある。これまで付き合いのあった人たちが、転職などで別の会社に移りそこからつながったり、紹介をいただくこと等で現状の顧客となっている。

  • 独立当初からM&A関連業務が多かった。IPO、経理サポートも多い。クロスボーダーのM&A、クロスボーダー監査もある。クロスボーダー業務はコンサルティング会社で初めて経験した。監査法人時代は未経験である。

  • 税務以外は全部やっている。組合の任意監査なんかも。再生業務は昔はあったが、最近はやっていない。経理サポートを受けることやPMIもある。

  • 独立後、あまり軌道に乗らず元いたファームに出戻りする人もいると聞くが、自分の周辺ではあまり出戻りはいない。

経理コンサルについて

  • 上場企業の経理体制が回っていないのもありニーズとして存在する。時給2万を超える人はいないと思うが、1万から2万円の間が多いのではなかろうか。

  • 経理コンサルは監査法人からのPから紹介が多い印象である。経理部長がPへ相談して、Pからその知り合いの独立会計士(多くは元部下)に相談がいく。その会計士の腕がいいと会社が依存することになり、契約が継続することとなる。

  • 上場企業側は連結、税効果、減損あたりがわからない。会計士側も初回は大変であるが、一度その会社の決算で対応できれば、2回目以降の決算は慣れるので楽になる。東京以外でもそういった話はあるだろう。

クロスボーダー業務について

  • クロスボーダーM&Aに関しては、自身で行うこともあるし、現地会計士とつながりあり依頼するパターンもある。案件規模としては10億単位の売上であれば対応可能。英語、中国語できる人をアサインするようもしている。買い手が日本法人であることが多い。マネジメントインタビューが英語で対応できれば何とか業務提供は可能。現地1-2日過ごせれば何とかなると感じる。英語の開示資料は比較的なんとかなると思うので、やはりインタビューだろう。

  • (インタビュアーに向けて)クロスボーダー業務がある程度できるようになってから独立した方が良い。やれる人は少ない。特に買い手が海外のDD案件が業務提供できると競争力ある。仕事を取るのは難しいが、単価が全く異なる。

  • プロファームに関しても、Out Inの仕事が取れないとPの中でも上位にいけないと感じる。また、Pの上位になれば米国や英国等の人たちと対等に喋らなければならないので、それができなければ苦しいだろう。

組織化について

  • パートはいるが、正社員という形で従業員を雇用して仕事をしているわけではない。採用しないまま組織を大きくすることに興味がある。緩いつながりの会計士を増やしていく。この方法がやりやすく、ランニングコストが安い。ただし、案件が来た時に動ける人を確保しないといけない。

  • 税務が嫌なのは採用してもすぐに専門家が辞める点であり、組織の維持が難しい。個人への依存が高いため、数十人単位になるまで組織化しなければ個人依存を脱却するのは難しいだろう。そのレベルに組織を拡大するためには、専門家を引き付けなければならず、専門能力とは別の要素が必要になる。

所感

インタビューを終えて

  • ベテラン会計士といった感じで非常に安定感があり、お話ししていていくつも新しい気づきがありました。確かな自信と自負も感じられ、クライアントからも非常に信頼されているのではないかと想像しています。

  • 個人的にクロスボーダーM&Aの件は非常に驚いています。独立会計士の方で業務を受けられている方がいる点に関して、自身の周りには全くいないので。独立までの経験や人とのつながりは様々なので、その結果としての独立後の仕事内容は千差万別だなと改めて感じた次第です。

次回

  • 次回は「カメレオン@独立会計士」さんを予定しております。

  • また、インタビューを受けてくださる独立会計士をの方を募集中です。もし受けてもいいよ、という方がおられましたら私のXにてリプライやDMをいただけますと幸いです。

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