バーチャル学会2020を開催して
はじめに
バーチャル学会2020主催のふぁるこです。本記事はバーチャル学会2020を振り返り、バーチャル学会2021運営に活かすほかバーチャル学会とは何だったのか、バーチャル学会運営は何を目指していたのかを記録していきます。合わせてバーチャル学会2020の裏側の技術や工夫も記していきますので、今後VR環境でイベント等を開催したい方の参考になればと考えております。長い記事になってしまいましたが、最後までお読みいただければ幸いです。
Welcome to Virtual Society
世界が距離という概念を捉え直すなか,人々は電子情報通信技術により支えられた遠隔コミュニケーションを新たな社会基盤として取り入れ始めています.その中には三次元空間性を備えた実質的空間(VR空間)が存在し,人々が出会い,会話し,理解し合う新たな関係が育まれています.今後高度に発展したVR空間では現実と同質の感覚を得られることでしょう.しかし,その空間が私達にとってもう一つの現実となるためには人が人として存在するためのリアル(物理現実とのインタラクション)がなければなりません.バーチャル学会はアカデミックの観点から異なる世界をつなぎ,実質的人類の社会活動を支援し,VR空間をVR世界とするため尽力いたします.
バーチャル学会2020公式HPより引用
バーチャル学会2020
VR空間にて行う学会。ここでのVR空間とは、3次元空間性を備え電子情報通信技術により遠隔地のユーザーと時空間同期が取れた環境を指します。一般的な学会と異なり、特定の学術分野について議論することを目的としておらず、VR空間にて開催することを主眼に置いています。
Introduction
HMDとVRSNSの普及は新たな世界を開拓したか?
2020年はOculusQuest2が発売され、一部界隈ではVR元年がようやく年越しを迎えるなどVR技術は広く普及したように思われます。さらにHMDの普及によりVRプラットフォームも多種多様なものが国内外問わずリリースされ、その特色に合わせた発展を見せています。しかしながら、未だVR機器(ここではHMDを指します)はガジェット好きのおもちゃとしての扱いであることは事実かと思います。COVID-19の流行により在宅ワークや外出自粛となったことで急速に人々はオンラインコミュニケーションを求められ、これはVR技術の躍進ではないかと期待したものです。確かに一定の追い風はあったかもしれませんが、爆発的に普及していたとは思えません。もしCOVID-19が発生しなかった世界線があったとしたら、その世界と同等の普及率だったのではないでしょうか(あくまで私の主観になります)。その理由の一つとして、結局HMDを購入したとしても、なにをすればいいのかわからない、使いみちがない、というのが正直なところかと思われます。筆者の周りでもリモート環境の導入を期にHMDを広く導入しましたがあまり日常的に利用されているようには見えません(現状のZoomの躍進を見れば明らかかと思います)。
つまり理想として掲げる新たな世界(=電脳世界)の実現と、目の前の現実に広がる課題は異なるということです。理想は理想として人々の旗印として機能し、ショーケースやモデルとしてみんなでこういう世界を目指そう、というビジョンの共有がなされていれば良いのです。それをトップダウン的に階層化して理想を実現するためのステップを明らかにするため、ボトムアップ的に目の前に存在する課題を解決するために使う2つの思考を同時にする必要があります。
バーチャル学会は人々が電脳空間で暮らし、社会生活を送り、コミュニケーションを取り、新しい世界を構築することを目指しています。もちろんこれは理想であり、実現のためには長い道のりが待っています。しかしそこで諦めずに目の前の技術とリソースを使って今できることに挑戦していくことが道を切り開くと信じています。バーチャル学会はそのような理念を持って活動しています。
バーチャル学会2020オープニングスライドより引用
Method -バーチャル学会2020の裏側-
電脳世界とは何か、どう実現するのか
上記のような想いのもと、バーチャル学会は電脳世界を作るために活動しています。ここで言う電脳世界とはオンラインチャットやビデオ通話による遠隔コミュニケーション、テレワークのことではありません。人間が社会生活を送る環境を現実と呼ぶとすれば、オンライン環境はすでに現実となっています。かつてパソコン通信の黎明期には離れた人たちでテキストチャットにより交流することが限界でしたが、現在では電子データで仕事の成果を提出しクライアントとやり取りをし、対価をもらい、SNSなどにより交流を行い、電子決済により経済活動を行っています。このように人間が生活するために必要な要素は徐々にオンライン環境にも整備されており、一見世界が構築されているように見えます。ここで見える、と表現したのはしかしながら私自身まだそこに足りないものを感じているからです。3次元空間性や映像技術のことではありません。そこに”暮らす”という概念が必要なんだと思います。そしてその暮らす、という概念も人の数だけ存在して良い、星の数ほどある生き方を包含し、内包し、溶け合い、混ざり合い、それでいてある方向性を持つことが社会性であり、人間たる生き方を肯定することではないでしょうか。多様性が叫ばれる社会において方向性を持つ、とは何事かと感じられるかもしれませんが、これは例えば人を殺してはいけないだとか、盗みをしてはいけない、といったいわゆる倫理、集団が集団として成立するためのルール、規範です。世界に放り出された人間はまず一定の方向性を示し何をすべきなのかを見せて上げる必要があると思います。それが電脳世界においても重要であり、現実を現実たらしめる、社会性なのだと思います。よって電脳世界に必要なのは社会活動を行うためのあらゆる要素とそれをどのように使うかという方向性の2つであります。
このような観点から考えるとバーチャル学会が果たすべき役割は、世界を構成する要素を再現することとその世界で何をすべきか(何ができるか)を実証を以て示していくことです。つまり学会を開催するに必要な要素を備え、電脳空間で学会という活動を実現することです。ここでバーチャル学会はそもそも学会とは何か、何を以て学会と呼べるのかを定義することとしました。結論から申し上げるとバーチャル学会において学会とは
・知識のアーカイブ
・研究者同士の交流
・新たな知見との出会い
この3つの要素を満たすことだと考えました。知識のアーカイブについては電子データでの情報のやり取りが当然となった今では比較的容易に実現できます。一方で交流と出会いという人と人とのコミュニケーションをいかに実装するか、バーチャル学会の本質はこれにつきると言っても良いでしょう。
以下バーチャル学会の設計について項目ごとに解説していきます。ぜひ以上の点を踏まえてお読みください。
ロゴ
バーチャル学会2020のロゴは昨年同様テトラリアンさんに作っていただきました。ロゴを作る過程で運営内で様々なアイデアを出したり、理念の再確認をしながら検討していきました。バーチャル学会のロゴは2019時点でHMDをモチーフとしたものがすでに作成されており、再度作成する必要があるのかという議論もありました。これには賛否両論ありましたが、バーチャル学会が倣う対象としての学会の文化を参考に、年度ごとに学会のカラーを変えてみるということを試験的に取り入れました。通常学会はその分野の研究者たちによって運営されており、主に開催地の研究者たちが運営を担当します。故に国際的な学会では毎年運営メンバーが入れ替わり、それによって学会の方針や運営方法、プログラムが変わります。学術という分野において変化は非常に重要だと私は考えております。社会は常に変化し、文化や規範もそれによって変わってきます。その変化に対応するため、開催ごとにカラーを変えていくという方針は私は非常に見習うべきものであると感じています。しかしながら毎年運営方法を新しくしていくことは非常にコストもかかるので運営への負担も考慮しながら対応していく必要があります。
話が脱線しましたが、そういった理由で今年度のロゴは2019のロゴのコンセプトである赤と青のツートンカラーは引き継ぎつつ新しいデザインを考案しました。このツートンカラーはVR空間を介して専門分野と非専門分野、研究者と一般人、バーチャルとリアル、という具合に異なる人々が触れ合ってほしいという想いが込められています。また昨年度はわかりやすさを重視したHMDをデザインのコンセプトにおいていたところから、昨今では十分にVR技術、HMDは認知されていると考えHMDを外しました。今年度は歯車の意匠を取り入れた円卓を想起させる空間性を表すマークにしました。そしてこのシンボルマークを囲む6角形はキューブを立体的に見た視点となっており、電脳空間を表現しています(普段VR技術に触れている人から見るとCubeはまさにVR空間を象徴するものであるとおわかりいただけるかと思います)。さらにキューブの角に足された矢印はキューブを突き破り、電脳世界から物理世界へと飛び出すことを表現し、電脳世界の外に価値を広げていくという願いと意気込みを込めています。
会場設計
会場作成は主にサンスケさん、ふじさん、はつぇさんに行っていただきました。それぞれギミック・全体進捗管理、3Dモデル制作・Unity上での設定とアップロード、会場演出などを担当いただきました。
会場コンセプト
会場を設計する上で、重視したことは昨年度の反省を踏まえて
音声の減衰を適切に設定し、空間的な議論、ポスターセッションがしやすい環境をつくること
デザイン性をもった会場を作ること
の2点を念頭に置きました。また今年度より発表件数を増やすことが決まっていたため、広い会場設計やポスターのサイズなどを検討し直す必要がありました。また、なるべく運営側の制作負担を下げるためシンプルかつ凝った演出やギミックを組み込まないものを作ろうと当初は計画していました。しかし結果的には会場デザインやギミックの導入、議論に適した環境設定の対応などなど非常に重いタスクになってしまいました。VRイベントを開催する上で、この会場制作の負担をどう分担するか、回避するかは非常に大きなテーマです。考えうる対策についてもいくつかシェアしていきたいと思います。
会場設計
会場デザインは当初運営委員長である私(ふぁるこ)が世界観や大枠のコンセプトアートを書いていましたが、なかなか決まりませんでした。思えばこの時点でイラストレーターの方かワールドデザインに慣れた方に相談もしくは依頼をすべきだったと反省しています。まず全体のイメージを言葉でまとめ、それをデザイン担当に投げることがスムーズな設計の第一歩です。もし今後会場制作を依頼したいと考えてる方がおりましたら参考にしてください(なおこのあたりの反省は2019年度の開催後記でも書いていたのですが、なかなか良い方法が見つかりません)。
最終的に運営全体で議論をしていくなかで、ポスターセッション担当のLcamuさんからロゴのデザインを使った会場デザイン案が出され、そのアイデアがとても素晴らしかったため即採用いたしました。
その後そのデザインをもとに会場に設置するポスター数や参加者の導線などを加味した結果ポスター会場が1,2階、基調講演、口頭発表用のホールが3階というデザインができました。ここでポスターセッション会場と基調講演、口頭発表会場を1つの建築物にしたのには理由があります。
まず前提としてバーチャル学会2020はオープニング、ポスターセッション、基調講演、口頭発表、クロージングというプログラムから構成されており、中でも発表者・参加者が関係するイベントはポスターセッションと口頭発表セッションでした。ここをいかに使いやすく、参加ユーザーの要望を満たせるかを考えました。そこで重要になってくるのが現在展開されているソーシャルVRプラットフォームの制限を把握しておくことです。現実の学会会場では空間が許す限り何人でも入ることができ、何人でも同時に会話が可能で、個人ごとに得られる体験に差はありません。
しかしVR空間でこれを実現しようとすると相当のサーバー、回線、PC負荷が予想されます。故に各種プラットフォームでは1つのワールドに同時アクセス可能な人数やボイスチャットの可否、アバター表現などに制限をもたせています。このような特色に加え既存ユーザー数も考慮に入れ種々のサービスを比較した結果、ポスターセッションではVRChatを、基調講演・口頭発表、クロージングではclusterを、オープニングではバーチャルキャストを選択いたしました。各種プラットフォームの特色を簡単に説明すると、VRChatはユーザーが(ほぼ)自由にアバターを使用でき、音声もそのワールドにいる全員が出すことができます。また会場となるワールドもユーザー側からアップロードが可能です。ただし前述の通り処理が重いため1つのワールドに参加できる人数は30~40人が限界で、30人を超えるとかなりのスペックを誇るデスクトップマシンでも画面のカクつきや音声の途切れが発生しだします。しかし全員が自由に話せる、という点は空間型のディスカッション会場を設計する上で非常に重要な要素です。続いてclusterは発表者と聴講者という1対多という構成に向いたプラットフォームであり、例えばライブであるとか講演会に向いています。聴講者同士はコメントやスタンプでリアクションができますが、会話ができるのはゲスト以上に設定されたスタッフのみです。その分1つの会場に数百人が同時にログインし、話を聴くことができます(ただし学会開催時点では表示されるアバターの数は50まででした)。最後にバーチャルキャストは非常に配信に特化したプラットフォームであり、カメラ視点を自由に切り替えたりユーザーが作成したツールを取り込んで使用できるThe Seed onlineプラットフォームと連携していたりと拡張性がある反面、一つの会場に最大8人しか入れないという制約があります。
このように各種プラットフォームの得意なこと、苦手なことを把握して開催したいイベントの性質ごとに使い分けることがVRイベントを成功させる秘訣(大前提)です。このような背景を踏まえた上で、バーチャル学会ではVRChatとcluster会場で同じ会場を用いることにしました。つまり、本来VRChat会場では不必要な3階のホールがあり、cluster会場では不必要な1,2階のポスター会場があるわけです。それぞれ不必要な部分を削除すればワールドデータ容量を減らし、負荷軽減や会場デザインに凝ることができます。しかしあえて同じ会場を各プラットフォームに用意したのはバーチャル学会2020という電脳世界上に作られた一つの空間にアクセスしている感覚を提供するためです。実際にはデータが存在するサーバーやプラットフォームが異なるため同じ空間に会場は存在していません。しかしもっと言えばVR環境に入っている私達が感じているものは個人のPC内で作られた電子データにすぎません。VR環境で対面しているその人も実際は遠隔地にいる人のモーションデータをあなたのマシンが受け取りあなたのマシン上で3Dモデルとモーションと音声を再現しているにすぎません。本質的に同じ空間にいない私達が一つの世界に存在するためには「そこに存在している」と見立てることが必要です。つまり「バーチャルな」バーチャル学会2020会場を人々の認識上に生み出すことです。故にプラットフォームを超えて一つの会場にアクセス(している気分に)することでユーザーの認識上ではバーチャル学会という場所が電脳空間に存在します。
会場エフェクト
会場エフェクトははつぇさんに作っていただきました。バーチャル学会2020会場コンセプトとして電脳空間に存在する電子情報で構成された空間、アカデミズムを体現するようなシンプルかつ荘厳な雰囲気を醸し出す背景オブジェクト、という要望をしていました。その結果、地面から空に浮かぶ三角形のパーティクルと、無数の円柱が立ち並ぶ空間を作っていただきました。三角形のパーティクルは電子空間で生成される情報をポリゴンとして漂っている風景をイメージし、円柱は情報空間に顕在する知識の並びの一つとしてバーチャル学会が存在することを表現していただきました。
会場モデル
会場の3Dモデルはふじさんに作っていただきました。会場デザインは前述の通りテトラリアンさんのロゴをモチーフに六角形と円で構成された床が柱でつながっているような構造です。壁は背景のパーティクルが見えるように取り外し、開放感のある空間としました。また学会要素を演出するために受付やタイムテーブル、広報ポスターを掲載しました。さらに会場1階の中心には自由なディスカッションができるようにコーヒースタンドとテーブルを用意しました(このテーブルは懇親会のときなどに使われている様子を確認しています)。
VR環境らしさと学会らしさの両方を取り入れるためふじさんにはたくさんリテイクや注文を聞いていただきました。ありがとうございました。
会場音楽
会場に流れる音楽ははこつきさんに作成していただきました。会場に流すBGMの重要性は、バーチャル学会2019の時点で把握していました。物理空間では環境音や人々のざわめきなど多少の音が発生しますが、VR環境では完全な無音です。そのため議論や発表の邪魔にならない程度のボリューム、リズムの音楽をながしておくことは細かい点ですがクォリティを上げるためには非常に重要です。また実はVRChat会場とcluster会場で別の曲が流れており、それぞれ議論に向いた音楽と発表を聞くための音楽になっていました。バーチャル学会では電脳空間の活用促進を目指すべく使用した会場の配布も視野に入れているため可能な範囲で権利フリーな設計を心がけています。
ポスターセッション会場(VRChat会場)
参加方法
前述の通り、VRChatは同時に多数の人間が議論できる反面最大30~40人しか入れません。この問題を解決するため、バーチャル学会2020では同時間帯に複数の部屋(インスタンス)を建てることで解決しました。これはVRChatを用いたイベントでは定番の解決方法であり、管理ができれば理論上何人でも同時に参加することができます。ただしこの方法ではほかのインスタンスに参加している人と交流することはできません。あくまで同じインスタンスにいる人同士でのみ交流ができます。各会場に参加する導線としてコアタイムになったらHPに各インスタンスへのURLリンクを掲載するようにしました。このURLはVRChatの機能として使用でき、VRChatのホームからインスタンスを生成、参加URLをシェアすることができます。なおVRChatではインスタンスへの参加権限をインスタンス生成時に設定することができ、public(誰でも参加可能)、friend+(会場にいる人とフレンドの人が入れる)、friend only(インスタンスを建てた人のフレンドのみが入れる)、invite+(インスタンスにいる人が許可した場合のみ入れる)、invite only(インスタンスを建てた人が許可した人のみが入れる)の5つがあります。バーチャル学会ではinvite onlyで会場を建てました。これによりURL経由でのみ参加でき、学会のことを知らないユーザーが迷い込んでしまうことを防ぐことができます。
会場設定、ユーザビリティ
VRChat会場ではポスターを快適に見るために様々な工夫を行いました。まずポスターの文字をきちんと読めるように提出いただくポスターの解像度、推奨する文字のポイント数を調査しました。前提としてHMDを通して見た場合、平面のディスプレイを使用した場合に比べ解像度が落ちます。なのでHMDユーザーを想定した場合は十分に近づいても文字がぼやけないような解像度が必要です。バーチャル学会2020では一般的に学会で使用されているA0サイズのポスターを1.2倍にしたものを最終的に使用しました。データ提出はA0サイズのポスターデータを300ppiで提出いただき、配置する際に拡大しました。またUnityで会場を作成していますがUnityは画像の取り込み時に自動的に圧縮をかけるので画質を設定しておくことが必要です(https://docs.unity3d.com/Manual/class-TextureImporter.html )。詳しいポスターの投稿形式はバーチャル学会2020の投稿フォーム詳細を御覧ください(https://sites.google.com/view/virtualconference2020/%E7%99%BA%E8%A1%A8%E7%94%B3%E8%BE%BC )。
次にポスターの設置高さについて、これはポスターの中心点を地面から1.4mに設定してあります。アバターの身長を検討した上で見やすい高さにするように心がけました。はじめはVRChatコミュニティでは低身長(100~120cm程度)アバターの方も多いため低めの設定を意識していましたが、低身長者向けの出し入れ可能なコライダー(台座)をポスターの前に設定することで対処し、150~170cm程度の身長のアバターでも見やすい高さに調整しました(低身長アバター向けコライダーはユーザーローカルで表示しているため使いたい人のみが使うことができます)。この背景には低身長アバターを利用するユーザーはVRChatに慣れているユーザーが比較的多いだろうという予測のもと、そういったユーザーであればOVR Advanced Settingsなどのポジション変更のツールを使用して対応可能であろう、という背景もありました。
OVR Advanced Settings
https://store.steampowered.com/app/1009850/OVR_Advanced_Settings/?l=japanese
open vr input emulator
https://github.com/matzman666/OpenVR-InputEmulator/releases
次に音声の減衰についてです。こちらはポスター発表者と聴講者が問題なく議論ができ、さらに周囲で会話をしていても気にならない程度の減衰にするため調整を繰り返しました。音声減衰の具体的なパラメータは会場版のふじさんにコメントいただきます。また会場に配置したポスター同士の距離を隣り合った場所で発表していても問題ないような距離を意識しました。またプログラムの章でも述べますが同じコアタイムの発表を対角線上に配置することで発表音声が重ならないように配慮しました。
講演会場(cluster会場)
cluster会場では講演者と聴講者という形式を明確にするため、現実のホールを意識したデザイン、設計にしました。clusterは動画、pdfスライドのアップロードが可能なため、壇上にはスライドを映すためのスクリーン、発表者が立つ教壇、司会と座長が立つ席、控室、聴講者席などがあります。まだ聴講者席の奥には配信を行うスタッフ用のPA席を用意しました。
参加方法
cluster会場はcluster公式ページよりイベントを作成し、指定した時間のみ会場をあけることができます。一般参加者は指定した時間になるまで参加することはできませんが、スタッフ以上の権限を持つユーザーは事前に会場に参加できるため発表者をスタッフにすることでリハーサル等を行うことが重要です。clusterの権限については公式のページを御覧ください( https://clusterhelp.zendesk.com/hc/ja/articles/360029982351-%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%95%E3%81%A8%E7%AE%A1%E7%90%86%E8%80%85%E6%A8%A9%E9%99%90-%E4%B8%80%E8%88%AC%E5%8F%82%E5%8A%A0%E8%80%85%E3%81%A8%E3%82%B2%E3%82%B9%E3%83%88%E6%A8%A9%E9%99%90 )。
会場設定、ユーザビリティ
また会場では円滑に発表を行うため、司会、座長用席に発表時間を計測するタイマーとベルが設置しました。バーチャル学会2020では口頭発表の時間は10分、質疑、入れ替えで5分であったので発表開始から9分、14分の2回ベルがなるようにしました。ベルのギミックはサンスケさんに作成いただきました。なおここで使用しているベルはBGMも担当されたはこつきさんによる作です。通常のベル音では発表者、聴講者ともに緊張してしまうと考え通知音のような音を採用しました。ほかにも会場の聴講者から発表者、座長がよく見えるように教壇と座長席の前にカメラを設置し会場に大きく表示しました。またこのシステムは配信時のシステムにも用いられており、youtube live 配信用の画面を作成するときにワイプのように発表者が映るような画面を自動で構成しました。これにより発表担当者は複雑なカメラ操作や配信ツール(バーチャル学会2020ではOBSを使用しました)上で映像のクリッピングなどをする必要なくユーザー視点をそのまま映すことで配信ができました(OBS上ではバーチャル学会のロゴを載せたり現在の発表者情報を載せるなどはしました)。
プログラム設計
全体のプログラム設計はバーチャル学会2019より拡張させ、より学会らしいものにしようという意識を持って構成しました。昨年度同様にオープニング、クロージングを入れることは確定として、ポスターセッション、基調講演、口頭発表をメインコンテンツとして配置しました。このほかにデモやワークショップ、ランチョンセミナーなどを行う案もありましたが、運営の負担が大きいということから見送りました。特にVR環境におけるデモは非常に設計が大変で、提出されるデータをどのような形で配置するか、導線はどうするか、デモが動かないユーザーへの対応をどうするか、などの課題がありました(後述しますが本年度はDiscordを用いた発表者と聴講者の交流を行っており、そちらでビデオチャット等を用いたデモを行っていただきました)。それぞれ詳細を見ていきます。
オープニング
まずオープニングについてはふぁるこによるバーチャル学会の理念と目指す姿、現在のVRシーン、実現したい理想などについてお話しました。内容に関しては事前に運営内で軽くチェックを行いましたが、基本的に私の思うままお話いたしました。内容については本記事の序盤にて説明したバーチャル学会とはなにか、何を目指すべきか、という部分とほとんど同じ内容となっております。ご興味ありましたらこちらより御覧ください(https://www.youtube.com/watch?v=4NU59FOwUOI&ab_channel=SocietyVirtual )。オープニングはバーチャルキャストにて行いました。前述の通り配信に非常に適したプラットフォームであるという理由はもちろんですが、バーチャル学会運営としてなるべく多くのVRプラットフォームを活用したいという思いがありました。そのため、cluster会場ではなくバーチャルキャストにてVCI(Virtual Cast Interactive)を活用した配信を行いました。配信は普段からバーチャルキャストを使用されているテトラリアンさんにお願いしました。バーチャルキャストではカメラの視点切り替えや背景の変更、デスクトップ画面の共有など様々な機能が使えるため自由度が高く応用次第で面白いコンテンツを作れます。ただしYoutube Liveとの連携を行うためには法人としてバーチャルキャストと連携する必要があるので注意が必要です(ニコニコ生放送であればコメントをVR空間内に表示したりするなどインタラクティブな配信が可能です)。
ポスターセッション
ポスターセッションは主にlcamuさんに管理していただきました。バーチャル学会2019でもポスターセッションはありましたが、今年度はさらに規模を大きくして行うことにしました。まず発表内容の公募を行うこと、発表はそれぞれのポスターに対しディスカッションができるように多人数で同時に話しても問題なく会話ができるような音響、空間設計、バーチャル学会の会場としてふさわしい会場にすることを念頭に置きました。
ポスターセッションでは合計32件の発表が行われました。各ポスターセッションは3~4件ごとにグループを作り、全部で10個のセッションを作りました。発表コアタイムは1セッションあたり30分とし、2セッションをパラレルに進行しました。これにより1会場あたりの発表件数を制限し、なるべく多くの聴講者が会場に来られるようにしました。これは前述の空間的な音響での議論を快適に行うために配慮されました。またこれとは別にセッションのコアタイム以外の時間にも発表者が自由に発表できるサブインスタンス会場を作ることでお目当てのセッションに入れなかった場合にも発表を聞くことができるようにしました。つまり、合計で3つの会場(2つのセッションと1つのサブインスタンス)が常に開かれていました。
口頭発表
口頭発表の管理はにしあかねさんに行っていただきました。口頭発表はバーチャル学会2020から新たに追加したプログラムになります。中身としては後述する基調講演とあまり変わらないためノウハウ自体は引き継いでセッティングできました。口頭発表では一対多の発表形式に特化したclusterにて行いました。また基調講演と異なり各発表に対してコメントを行う座長の依頼をしました。2020では口頭発表をAとBの2つにわけ、それぞれ東京工業大学のゆみうす助教、豊橋技術科学大学の北崎教授にお願いいたしました。おふたりとも快くお引き受けいただき、本当に助かりました。ありがとうございました。また口頭発表では座長とは別に司会を用意し、主にタイムキープを行いました。セッションAでははこつきさん、セッションBではふぁるこが担当しました。口頭発表も発表テーマを募集し、トータルで11件の発表がありました。発表では会場からとYoutubeLiveからコメントが寄せられ、座長が読み上げる形でインタラクティブな発表を行いました。リハーサルはcluster内でclusterの基本的な使い方や音声のボリュームチェック、スライドの流し方などを確認しました。また当日の流れなども確認しました。
基調講演
基調講演は口頭発表と同様にclusterで行い、司会兼タイムキーパーをふぁるこが務めました。また会場やYoutubeLiveのコメントでの質問を拾う役目も務めました。2020では株式会社エクシヴィ代表取締役GOROmanさんと東京大学の暦本純一教授にご登壇いただきました。お二人に関しましても快く引き受けていただきまして、誠にありがとうございました。GOROmanさんは日本におけるVRの普及を語る上で外せない方であり、今後のVR技術の普及やVR技術を活用することでどのような生活様式、生き方を選択できるようになるのかお話しいただきました。暦本先生は人間拡張をテーマに研究、開発をされており、テレイグジスタンスやジャックインといったHCI(Human Computer Interaction)分野の権威であり、昨今急激に広まりつつあるテレワークやデジタルトランスフォーメーションに対して私達ユーザーが人間という枠をどのように拡張できるか、またVR技術がどのように人の意識、人という概念を拡張できるのかについてお話しいただきました。基調講演では積極的に質問や意見も飛び交い、VR環境でも活発な発表ができることが示せたかと思います。基調講演においても入念なリハーサルを行い、口頭発表同様に確認しました。しかし当日GOROmanさんがトラブルにより音声が入らない事態になったため急遽ふぁるこがたまたま以前に使っていた発表スライドを使い場をつなぎました。こういった事態はオンラインミーティングでは日常茶飯事ですし、とくにVR環境では利用機器の相性、各人が慣れているプラットフォームなどが千差万別であるため通常のオンラインミーティングよりもトラブル発生率は格段に上がります(どれだけリハーサルを行っていても起こるものとして考えておいたほうが良いです)。ですのでもしトラブルが起きた場合にも対処できるリカバリー力と、対処を取れる権限を持った方にすぐにコンタクトをとれることが重要です。
クロージング
クロージングは基調講演が終わった後に同じ会場にて引き続き行われました。事前に回答いただいたアンケート結果の報告と考察を行い、前年の2019年度からの変化についても紹介いたしました。アンケート結果については後述する結果の章にて紹介いたします。またクロージングでは予てよりやりたかった学会を振り返るショート動画を流しました。これは写真あげるだけで動画にしてくれるブラウザアプリ、magistoを利用しました。無料で使用できますがサービスのロゴが載ってしまいます。しかし写真と音楽を選択するだけで画面のトランジションをいい感じに繋げて動画にしてくれるので時間がない運営のなかで非常に助かりました。この画像は直前の基調講演の写真含め、全体の中で撮影した写真を利用しました。写真は後述する参加者用Discordサーバーにて写真を共有するチャンネルを作成し、運営が広報目的で利用する可能性があることをご承知いただいた上でアップロードしていただきました。アップロードいただいた写真のおかげで素晴らしい動画を短時間で作ることができました。写真を投稿いただいた皆様、ありがとうございました。その後2次会会場としてVRChatのポスターセッション会場のフリーインスタンスを利用する旨を連絡し、締めといたしました。
参加者管理
Discord
参加者や発表者との連絡にはDiscordを用いました。いくつか理由があり、順番に解説していきます。
まず各発表者ごとにメール等により連絡を取ることは運営の人的コストがかかる点、共通する連絡や質問への回答を個別に返信すると二度手間になるという点から関係者全員が一覧できる場を用意することが必要でした。Discordにはロール機能が存在しており、運営や発表者、参加者といった具合にロールを割り当てることで特定のロールにのみ通知を飛ばす、特定のロールのユーザーのみ閲覧可能なチャンネルを用意する、といったことが可能です。これにより混乱しがちな情報共有を一元化し、こまったらDiscordを見ればなんとかなる、という状況にしました。さらに質問があれば運営が即座に回答するサポートチャンネルを全体向けと発表者向けに用意することでいわゆるHPの「よくある質問」ページのように活用できるチャンネルを用意することでトラブル対処と情報共有を行いました。またこのロールごとに権限を設定できるため連絡のみを行い書き込みを制限したチャンネルや、発表者のみ書き込みができるチャンネルなどを作成するなど細かくロールごとの機能を設定することができるためロール付与ができればあとはチャンネル設定を変更するだけで情報共有範囲を調整することができます。
次に重要な点としてDiscordでは画面共有可能なビデオチャットを各ボイスチャンネルにて行うことができるため、トラブルにより会場に参加できない発表者が出た場合にビデオチャットを経由して会場にいる運営スタッフを介して音声と映像を取得することができます。この音声ブリッジについては参加者対応を担当してくれたさいんすくんが個別にまとめてくれています(https://qiita.com/signs0302/items/aedb3202400662654c59 )。概要を説明すると、VR会場に参加している運営の耳(スピーカー)を仮想オーディオ(今回はYAMAHA Syncroomを使用しました)を介してDiscordの運営のマイクに流し、発表者の声(マイク)を運営の声(マイク)として会場に流します。さらにDiscordの画面共有機能を使い運営のVRプラットフォームの画面をシェアすることで発表者はまるでその場にいる感覚で会場の声を聞き、発表をすることができます。しかし欠点もあり、このやり方では中継(音声ブリッジ)をしている運営の人は会場の音声を聞くことができなくなってしまいます。これを解決するためにはマイク音声を聞く設定をつけるか、別途仮想オーディオをセットアップすることでスピーカーの音をDiscordのマイクと運営のスピーカー2つに流すなどの設定が必要になります。この点は今後やり方を追求していきます。ビデオチャットが使える利点はほかにもあり、バーチャル学会2020ではバーチャル学会2019で行っていたデモ展示をなくしたのでその代替案としてDiscordのビデオチャットを使いデモ展示を行っていただきました。これにより個別に発表や展示を行いたい発表者は直接参加者とやりとりを行いながらデモを行うことができました。しかしこのデモ展示は結果を先に言ってしますとあまり成功ではありませんでした。そもそもデモ自体はアディショナルなものであり、本来は2020では実施しない予定でした。そのため宣伝が足りておらず、あまり参加者が見に来れなかったという点と、デモはやはり会場でやることで聴衆が「なにかやってる」「あれはなんだろう」と興味を持って見に来てもらうことが強みだと思うので、デモの実施方法については今後さらなる検討が必要です。そのまま会場に設置しようとすると運営側のコストが上がってしまうため工夫が必要です。これは今後の課題としたいと思います。
上記2点のロール管理、チャンネルごとのビデオチャットの点が強力であったため今回はDiscordを採用しました。他にもVRシーンに慣れている人たちの中ではDiscordが普及していたこと、VR学会2020においてもDiscordが採用されておりアカデミア界隈にも受け入れられる土壌ができていたことを鑑みて使用しました(特に普及率、サービス的にも近いSlackとどちらを使用するかを比較した結果上記の特色を見てDiscordを採用しました)。反省として本年度は学会参加にあたり参加登録等が必須ではなかったためDiscordへの参加率も完全ではありませんでした。次回以降はどの程度まで参加者を把握すべきか議論をしてまいります。
当日の運営連絡
当日の運営間の連絡もVRイベントを設計する上で重要な項目です。というのも、バーチャル学会2019では当日に運営間でうまく連絡がとれず、対応が遅れてしまうということが多々ありました。原因としてHMDをかぶっているとPC上の通知に気づかない事が多いためメンションをつけてメッセージを飛ばしても気づかれないことが多いです。そこでバーチャル学会2020では運営は常に運営用Discordのボイスチャットに参加し、通常はミュートにしておき、緊急で連絡をするときはミュートを解除し「業務連絡です。」と声をかけることで担当の人が回答する、別の人が応援にいくなどの対応を取ることができました。この仕組は非常に有効であるため、VRChatなどでイベントを運営する方はぜひ取り入れてみてください。ただし欠点としてミュートしわすれてしまうと声がすべて運営に流れてしまうため、こまめにミュートをする、ミュートを忘れている人がいたら即座に指摘する、などを徹底してください。
HP作成
バーチャル学会2020のHPは2019に引き続きGoogleサイトを用いて作成しました。管理コストを下げるため使いやすいサービスを求めてたどり着きました。HPの管理は主にハルさんとふぁるこが行いました。Googleサイトは非常に使い勝手が良く、共同編集もしやすいため特に問題もなくHPを作成できました。ただし凝ったデザインや動的なサイトを作成することはできないため、クォリティを求める場合は独自サイトを作成するのが良いかと思います。特にバーチャル学会2020ではHPをポスター会場参加のハブとしていたため参加方法がわかりにくい、という声を頂いておりました。ユーザーの導線設計をさらに洗練させ、特に意識せず参加できる形式に変えていきたいと思います。
配信
バーチャル学会2020の配信は昨年に引き続きおきゅたんbotさんにお手伝いいただきました。おきゅたんbotさんにはポスターセッションの配信をお願いし、ほかのオープニング、口頭発表、基調講演、クロージングはバーチャル学会公式チャンネルから配信しました。口頭発表は2つのセッションがパラレルに行われていたのでバーチャル学会公式チャンネル/サブチャンネルの2つから配信を行いました。配信については特に記載することはありませんが、配信のクォリティを高めるためにサムネイル画像を作る、OBS等で配信画面を作る(例えばイベントのロゴを掲載する、LIVEの文字を入れる、テロップで発表者情報を掲載する、など)のひと手間をいれるだけで配信のクォリティは大きく上がります。最近の学会発表を拝見するとZoomの画面をそのまま配信しているものを多く見かけ、少し工夫するだけで非常に見やすくなるのに...と思うことが多々あります。一方で学会の目的としては配信画面に凝る必要がないというのもわかります。しかし私としては今後、配信やオンライン学会、イベント、というものはますます一般化し、むしろなんで配信してないの?と言われるのではないかと感じます(配信しないことで希少性を出したい、などの理由がある場合は別かと思います)。そういった場合に見やすい配信を心がけるのはHPのデザインを凝るのと同じような感覚で必要かと思います。そうは言っても配信の技術やデザインなどわからない、という場合はぜひ配信慣れしているYoutuberさんやVtuberさんを起用すると良いかと思います(おきゅたんはいいぞ)。
広報
バーチャル学会の広報は主にはこつきさんに担当いただきました。バーチャル学会の広報先としてはTwitterにて随時連絡や宣伝をし、webメディアにプレスリリースを送るなどしました。今年度は8月にバーチャル学会2020説明会、10月に発表申込締切、12月に学会本番、というスケジュールで動いており、各イベントのタイミングで広報を打ちました。取りあえげていただいたメディアの皆さん、ありがとうございました(MoguraVRさん、PANORAさん、VRonWebMediaさんほか)。またVRSNSにて漫画活動をされているリーチャ隊長さんに漫画の執筆を依頼しました。ほかにも有志でVRシーンを取り上げているVRReadyさんに記事としてとりあげていただいたりしました。また日本バーチャルリアリティ学会のメーリングリストに学会情報として発表募集と参加の宣伝を行いました。
直接的な広報活動ではありませんが、学会誌への執筆なども積極的に行いました。これは厳密にはバーチャル学会2019の内容にて執筆しておりましたが、学会活動としての広報に役立ったかと思います。情報処理(情報処理学会の学会誌)、バーチャルリアリティ学会誌、応用物理(応用物理学会の学会誌)に掲載していただきました。またTwitterでは毎週のミーティングの様子と簡単な進捗報告を行うことでバーチャル学会がちゃんと活動している様子とVRChatでのミーティングの様子を見せることでバーチャル学会がVR環境を軸とした活動であることをアピールしていきました。はこつきさんに毎週すばらしい写真を撮っていただきました。特に毎回の会議写真をまとめたポスターがワールドに飾ってあるのですが、個人的に非常にエモくて好きです。ぜひ見ていただければと思います。
権利関係
最近何かとVRイベントが多い印象をうけますが、現実のイベント同様に権利関係、関係者の明確化などへの配慮が必要です。特に許可されていないIPの映り込みやあたかも関係者であるかのように広報することは印象が悪いだけでなく間違った情報を流し、場合によっては実害をもたらすこともあるので注意しましょう。バーチャル学会では学会開催にあたり権利関係への配慮も深く議論しました。特にVRイベントで問題になりやすい配信画面への許可されていないIPの映り込みへの議論を行いました。結論としては写り込んでしまった場合は仕方ないので、予防策としてTwitterやDiscordでの不正アバターや無許可IPを使用しないようにアナウンスし、万が一会場にそのようなアバターやまた公共性のないアバター(極端に露出の多い見た目や他人を害する恐れのあるアバターなど)へは常駐する運営が注意をし、着替えていただくこととしました。結果としてはそのようなアバターの方は見受けられなかったため皆様のご協力に感謝いたします。
次に発表いただく論文の権利についてですが、基本的に作成した論文の著作権は執筆者に帰属するが、バーチャル学会運営は広報、議事録の作成などを目的とした運営活動のために自由に使用できるという点に承諾いただきました。これは申し込みでのGoogleフォームにて明示的にチェックボタンを押していただくことで承諾いただきました。詳しい権利規約についてはバーチャル学会2020募集要項に記載しておりますので、そちらをご参照いただければと思います( https://sites.google.com/view/virtualconference2020/%E7%99%BA%E8%A1%A8%E7%94%B3%E8%BE%BC?authuser=0 )。
Result
発表数
今年度の発表件数はポスター発表32件、口頭発表10件、の合計42件でした。昨年度はポスター発表のみで12件でしたので、単純に比較すると3.5倍の発表数になります。ただし昨年度は運営から直接発表を依頼したので単純な比較はできません。今年度の発表内容はVR、HCIといったキーワードが最も多く、次いでCG、アバター、機械学習などが多かったです。また物理・工学といった実世界を対象とした研究や、少数ではありましたが経済学や文化人類学などの人文分野からの発表もありました。やはりVR環境での学会ということから情報科学分野からの発表が多かったと分析できます。今後VR技術の裾野を広げていくためには一見VRと関わりがなさそうな領域とのコラボレーションや知見の共有が必要であるのは明白かと思います。そのためにも今回発表いただいた全ての発表者の皆様に改めて感謝申し上げるとともに、今後ともお互いの知見を共有しながらより良い関係を築ければと思います。
参加者数
プログラムごとに参加者総数を振り返っていきたいと思います。まずオープニングはバーチャルキャストにて発表を行い、バーチャル学会公式Youtubeチャンネルにて配信し、最大同時視聴者数は159人でした。ポスター発表はVRChat会場にて行い、おきゅたんbotさんのYoutubeチャンネルから配信しました。最大同時視聴者数は132人でした。また会場へのアクセス人数はポスター発表終了時点で465人でした。口頭発表Aはバーチャル学会公式Youtubeチャンネルにて配信し、最大同時視聴者数は99人でした。またcluster会場へのアクセス人数は303人でした。口頭発表Bはバーチャル学会公式Youtubeサブチャンネルにて配信し、最大同時視聴者数は90人でした。またcluster会場へのアクセス人数は211人でした。基調講演、クロージングはバーチャル学会公式Youtubeチャンネルにて配信し、最大同時視聴者数は156人でした。またcluster会場へのアクセス人数は312人でした。
反響
発表者視点の感想
主に得られた感想としてアカデミックな場に慣れている人からはVR環境での学会開催にポジティブな意見をもらいました。現在オンライン化された学会が主流になっている中でVR環境という空間的な奥行きのある環境を使うことのメリットを認識していただきました。またアカデミックな場に慣れていない一般参加者にはVR環境のイベントの一つとして参加してもらい、アカデミックの面白さを伝えられたかと思います。
一般参加者視点の感想
参加者は学会に慣れた人が多かったので、そういった経験のある方からは実際の学会に近い感覚で発表ができたという意見をいただきました。また自分の所属する学会や分野でもVR環境を使った学会やイベントを展開できないか考えてみる、という感想をいただき大変うれしかったです。一方でアカデミックな場に慣れていない発表者はポスター発表、口頭発表に限らず発表の準備が大変だったという感想を耳にしましたが、運営視点で見てみた時にどの発表も素晴らしい発表だったのであまり気にしていませんでした。しかし、より多くの方に学会に触れてもらうため慣れていない発表者でも発表しやすいような環境づくり、そもそも学会とは何を提供つする場であるのかを考えた環境つくりをしていかなければならないと改めて気付かされました。
またDiscordを使ったサポートを充実させていたため、わからないことがあったらすぐに聞けるという点も評価されていたように思います。しかし万全だったかと言われるとそうではなく、初めてのVR環境に戸惑い、ソフトの設定やHMDの使用方法、Discordの使用方法などに手間取る方もいらっしゃいました。今回はこういったサポートは各サービスのマニュアルを参考いただくようにしましたが、運営側でサポートしていく必要があると感じました。
運営視点の全体の感想
運営としてはまず大きなトラブル(例えばVRChatのサーバーが急に落ちて繋がらなくなる、参加者に病気や怪我が発生するなど)がなくつつがなく学会を完遂できたのが何より良かったかと思います。また昨年度から新しい取り組みや挑戦をしましたが、それらも一定の成果を上げ全体のスケールアップを図れたとも思います。具体的には会場となるワールドのデザイン、発表募集による発表数の増加、積極的なメディア展開などが挙げられます。また当日の運営スタイルも洗練され、運営内で情報が錯綜することなく適切にスタッフが動けたことは何より良かったです。
アンケート
ここでは事前、事後のアンケート結果を公開します。アンケートの目的はバーチャル学会がどのように見られているのかを確認するとこ、またその結果から今後どのような方針を立てていくかを議論するために非常に重要です。特に気になった回答を抜粋して記述します。すべてのデータは別途公開します。ただし、個人を特定できるような情報は伏せせさていただきますので、ご了承ください。
申し込みフォームアンケート結果
申込みは全部で43件あり、うち1件は発表辞退となっています。まずどこでバーチャル学会を知ったか、という質問に対しては圧倒的にSNS・ブログと家族・友人・知人の紹介が群を抜いています。次に学会HPとありますが、これは直接検索して知ったものとSNS等を通して学会HPにたどり着いた可能性を感じます。また面白いものとしてはVR学会(日本バーチャルリアリティ学会)と間違えて検索して知ったという物もありました。よく間違えられてしまいますが、バーチャルリアリティ学会とバーチャル学会は別の組織になります。まさか名前が似ていたおかげで知っていただくことになるとは思っていなかったのでこれは思わぬ誤算でした。
次に年齢は圧倒的に20代が多いです。続いて30代、40代、10代と続きます。これはVRシーンの活用年代を鑑みてもまったく予想通りと言えます。
職業については学生が最も多く、おそらく大学生と高校生が含まれていると思われます。次に学術研究者が伸びており、非常に嬉しいかぎりです。次いで教育関係者、サービス業、建設業となりました。このあたりはVR技術が産業応用されている業種として挙げられるものかと思いました。もともと親和性の高い領域とも考えられます。
最後に居住地ですが、これはバーチャル学会が距離に依存しないことを活かしているのか確認するための項目となっています。結果は東京、神奈川、埼玉といった関東圏が最も多く、次いで静岡、愛知などが続きます。興味深いところではメキシコ、アメリカからの発表者もおり、海外からのアクセスもあったのは嬉しい結果です。しかし、居住地に関しては記入したくない、VRChatを選択肢に入れてほしい、などのコメントもいただきました。アンケートの趣旨を改めて検討した上で判断したいと思います(個人的にはVRChatという回答は好きなのですが、結果を分析し、より良いものを作るには電脳、物理、両軸の議論が必要かと考えています)。
総評すると発表者の傾向として若く、研究やVR技術そのものに関心のあるユーザーが積極的に参加してくれたのだと思います。対して年齢層が上の方々は研究者が多く、現役研究者にも興味を持っていただけたのは非常に嬉しく感じます。
Discord参加アンケート結果
こちらは一般参加を希望のうち、Discordに参加いただいた皆様のアンケート結果です。全部で136名の方々にご参加いただきました。この方々は発表者とは区別されたアンケート結果であることにご注意ください。
まずどこでバーチャル学会をお知りになったかは、圧倒的にSNS・ブログが伸びています。これはTwitterでの宣伝や、webメディアでの宣伝に力を入れた効果ではないかと考えています。Twitter宣伝ではリーチャ隊長さんに漫画を書いていただいたり、VRC Ready! さんに特集記事を組んでいただきました。またwebメディアとしてMoguraVRさん、VRon web media さん、PANORAさんなど様々なVRメディアさんを中心としてご紹介いただきました。また一部バーチャルリアリティ学会のメーリングリストから参加してくださった方もいたようで、現役で研究されている方々にも届いたことは非常に嬉しく思います。
年齢層は発表者とほぼ変わりませんが、40代以降の方々にもご参加いただけたようで、幅広い層へのアピールができたのかと思います。
職業は学生が最も多く、次いで研究者、製造業となっています。発表者と異なり製造業が増えているのは面白いです。詳しく見ると製造業の方々はVR技術そのものに弱い関心を持っている方、VR技術を応用した職業に転職を希望している方などがいました。また、直接VR関連技術を職場で扱っていないが、VR界隈に関係する周辺技術の研究・開発に関わっていると思われる方々もいらっしゃいました。発表者として積極的に知見を公開することに慣れていない、おそらくLTや勉強会といった文化がIT分野に浸透している一方、物理的な製品を対象としている製造業では気軽な発表の文化が薄いのではないかと推測しました(間違った考えでしたらご容赦ください)。
次いで居住地についてですが東京都や埼玉、千葉、神奈川といった関東圏は人口が集中しているため多いですが、愛知県が突出していました。これは昨年度も発生した事象ですが、やはりxR Tech 名古屋というxRコミュニティが愛知にあることが大きく影響していそうです。また九州地方の参加者も多い点は博多にもxRコミュニティがあることが影響していそうです。大阪からの参加者が少ないことが若干気になりましたが、関西圏でのxRコミュニティの有無について詳しい方がおりましたら情報お待ちしております。
最後に自由回答として参加を決めた理由を聞きました。全体の傾向としてはVR技術に興味があるから、という理由が大多数を占めました。次いで友人が発表するから、聞きたい発表があるから、基調講演ゲストの発表を聞きたいから、といった理由に分類できました。
参加アンケート結果2019年のconnpass結果と比較
年齢に関して10代の割合が2019年度から減っており、これは年代がそのまま上がった可能性を考えています(つまり2019時点で19才だったユーザーが20歳になった。つまり新規参入はできていない?)。
職業に関しては2020年になり医療・福祉、教育・学習支援の割合が増えました。これはVR技術の応用が様々な分野に普及しており、そういった層の方々がアカデミックな活動にも興味を持っていることを表しているのではないかと推察いたします。
居住地に関してはxR Tech 名古屋の影響は変わらずですが、四国、九州が増えました。これは四国はVR適性研究所が影響しているというウワサもあります。
学会後アンケート結果と昨年度のデータとの比較
開催後アンケートでは全部で43件の回答をいただきました。なお昨年度は48件で、単純に減っているだけでなく規模が拡大したにもかかわらず減っているということから開催後のアンケートの告知が足りていなかったことが伺えます。こちらは来年度の反省といたします。学会が終わっても参加者の皆様の興味が薄れないような仕組みにしたり、学会期間中にアンケートを記入する時間を作るなどの対策を検討しております。
早速データを見ていきます。2019年度のデータと比較しながら考察していきます。
まず参加形式について、バーチャル学会ではオープニングを除きYouTube liveとVR会場参加の2つの参加方法を用意しています。各プログラムの参加率とこの2つのどちらの方法で参加したかを見ていきます。
まずオープニングについては7割ほどの方が見ていただいたとのことでありがたいことです。これはYouTube Liveのみだったことも見やすさにつながったかも知れません。次にポスターセッションについては、圧倒的にVR会場参加者が昨年度より増えていて嬉しい結果です。もちろんYoutube Liveで見ていただいた方も嬉しいのですが、運営としてVR環境で開催することのメリットを考えていますので多くの人にその機会を提供できたのはとてもよい結果になったと思います。考えられる要因としてはインスタンス数を増やしHP経由で参加できる枠を増やしたこと、明確に人数を決めなかったことが良かったのかと考えています。昨年度はインスタンスを運営が管理するためにconnpassを使い事前申込制にしたため会場参加可能な人数が限られていました。次に口頭発表、基調講演に関してはYoutube liveのほうが多いという結果になりました。昨年度はcluster会場で参加したというユーザーの方の方が多かったので、反転した結果と言えます。しかし、昨年度は基調講演の後にポスター発表をしたため、順序効果が発生していることは十分に考えられます。つまり、VR環境での体験は疲労が蓄積しやすく、先にVR環境に入ると次はモニター越しでも良いかな、という心理になりやすい可能性があります。今後VR環境を用いた長時間のイベントを設計する場合は休憩やプログラムの順番を検討する必要があるでしょう。
バーチャル学会をどこで知ったかという回答については、2019年度はSNSの影響が8割と大きかったのに対し、2020年度は5割となりました。その分知人からの紹介が増えていました。これは発表者数が増えたことで知人に紹介してもらいやすかったこと、2回目の開催となり知名度が大きかったことが影響していると考えています。また興味深い回答として前回もポスターセッションの配信を担当いただいたおきゅたんbotさん経由で情報を知ったという方もいらっしゃいました。
参加者の年代については2019年度が10代~20代と若い年代が多かったのに対し、2020年度では20代が最も多く、10代の参加者は減っていました。これは発表者の年代と比較しても変わらない結果となっています。
職業に関してはやはり学生が最も多いことは変わりませんが、製造業の方が減っていました。これはDiscord参加時点のアンケートでは多かったため、単に製造業と回答いただいた方が開催後のアンケートにはお答えいただけていなかっただけかと推測します。
居住地に間して関東圏が圧倒的に多いことは変わりませんが、2020年度は関東圏ユーザーがさらに多くなりました。仮説として参加者の年代が上がったことは高校生だった参加者が大学生活をするために上京した、もしくは関東圏に移住した人が増えたということではないか?と考えます。
続いて「良いと思った点をお教え下さい」の回答ですが、2020年度は全体的にスコアが平均化した、見方によっては下がったようにも見えます。これはプログラムが増えたことで各人の良いと思った点が分散したとも考えています。つまり前述したように長時間の参加は参加者に疲労を蓄積させるため良かった部分と悪かった部分として記憶に残ってしまったのではないかと考えています。一方で2019年度では低かったウェブサイト、ワールドデザイン、インスタンス管理のスコアが伸びています。昨年度はインスタンス管理でトラブルが起きていたため固定化したインスタンスURLを掲載したこと、Discordで参加者の方へのサポートを充実したこと、会場にスタッフを配置し運営間で連絡を常に取り合い迅速な対応ができたことが影響しているのではないかと考えられます。もう一つ注目したいものとしてポスターの見やすさのスコアが2019年度とほぼ変わっていませんでした。2019年度ではポスターサイズを横5m、高さ3.3mという巨大なものにしたのですが、2020年度ではA0サイズを1.2倍した比較的実際の学会に近い大きさにしました。理由としては前述の通り空間的に広げすぎないようにしたためですが、変化したにも関わらずスコアが変わらなかったのは喜ばしいことです。むしろ次の項目の悪かった点でポスターの見やすさのスコアが下がっていたため、見やすさが改善したと考えられます。
「悪いと思った点をお教え下さい」に関しては特になしを除きウェブサイト、参加システム、インスタンス管理がスコアが高くなっています。2019年度よりも良くなったという回答をいただきましたが依然改善の必要があると感じます。また個別にご回答いただいた中で興味深かった回答としては「Oculus Quest2で参加したかった」「Discordに入らないとわからない」「Discordで情報が錯綜していた」などがありました。Oculus Quest2への対応については現在でも運営内で議論が行われており、2021で対応するかどうかはまだ確定できませんが、実装へ向けて前向きに準備を進めております。次にDiscord関係については事前アナウンスの不足、Discord内の情報管理共に反省し、2021ではさらに時間をかけて準備をしたいと考えています。
次に興味がある学問分野については工学が2019年、2020年ともにトップですが、他に注目する点として2020では全体的に人文科学、数学といった分野が伸びているように感じました。また特徴的なものとして宇宙科学の割合が2019年度に伸びていましたが、2020年度では減っています。これは2019年度に仮想天文研究所( https://virtualspaceprogram.org/ )から天野ステラさんに発表いただいたことが影響していると思われます。今年度は全体の割合として宇宙科学関係が減ったため、このようになったと考えられます。発表分野によって参加者の傾向が変わることも今後視野に入れた広報やブランディングを行っていく必要がありそうです。
最後に次回のバーチャル学会に参加したいかどうか、というアンケートについて2019では聴講側として参加したいが7割、発表側として参加したいが2割だったのに対し、2020年度の結果では聴講側として参加したいが4割弱、発表側として参加したいが6割という、非常に嬉しい結果になりました。これは発表の公募を行ったこと、ポスター発表、口頭発表の規模拡大により参加のハードルが下がったためだと推測します。
Discussion
ここからはこれまでの開催結果を振り返り、運営として考察をしていきます。
良かった点
まず良かった点として大きなトラブルなくバーチャル学会2020が終了したことが何よりよかったと心から思っています。トラブルとは例えばVRChatやclusterなど、利用させていただいているプラットフォームが何らかの理由により突然使えなくなる、参加者の中に体調不良者が出る、運営メンバー全員が何らかの理由により対応できなくなるなど企画そのものが成り立たなくなるような事象のことを言います。このようなことがなかったことはひとえにこれらのサービスを運営していただいている各企業の皆様、日頃から健全な心身を身に着けていただいた関係者の皆様のおかげだと感じています。
個別に振り返っていくと、まず2020年度の大きな挑戦として発表内容を募集したことが挙げられます。募集の際には既存の学会の申し込み要項や投稿した論文への権利保持、発表内容への責任など深い部分まで運営内部で議論の上、発表の募集を実現することができました。また発表後には概要集、Proceedingsを作成し、内々で冊子にするなど科学への貢献をするものとして発表内容のアーカイブをするという重要な使命を果たせたことは何より嬉しく感じます(作成した冊子は後ほど国立図書館にて保管したいと考えています)。
次に学会規模の大幅な拡大を実現しました。これは発表者数、参加者数だけでなくプログラムの増枠、積極的なメディア広報なども含まれます。そして何より学会会場となるワールドの大幅なリニューアルを行いました。VRChatやclusterといった日々クリエイターが切磋琢磨し、作品をアップロードする環境に身を置くVRユーザーの皆様からすると驚きがあまり無いかも知れませんが、学会運営として考えると会場をいちから設計するということは通常の学会運営の枠を超えた大きな挑戦だったと私は考えています。特にVRChatで行われたポスターセッションではポスターサイズや発表者、参加者が一つのインスタンスに入れる人数制限、HMD越しにも問題なく読むことができるポスターフォーマット、会場にいるという実在感を出すための空間設計、議論の邪魔にならない程度の音響設定など解決すべき問題が文字通り山のようにありました。これら一つ一つに真摯に取り組み着実に(現状での)答えを出せたことはバーチャル学会運営として大いに誇るべき実績であり、かつこの知見を共有すべきことかと思います。
運営外としてはバーチャル学会はどうしてもVR関連技術に興味のある方が多く参加するためバーチャル学会の理念である電脳世界を普及させるために外に発信していくということが難しいという課題がありました。そんな中でこの度参加者、発表者には異分野の研究者の方や普段VR技術に触れない方に参加いただけました。これもひとえに発表者、参加者、メディアの皆様の広報のおかげかと思います。この勢いを絶やさず広くVR技術が活用され電脳世界が当たり前の概念になるよう活動していきます。
悪かった点
反対に悪かった点について考えてみますと、まずポスターセッション時に行ったYoutubeLive配信の割り込みが良くなかったというご意見を頂いています。これはVRChatへの参加可能人数が限られていること、発表のアーカイブを残す目的でYoutubeLiveへの配信を行っていましたが、運営から公式にお願いしていたおきゅたんbotさんの他にも有志で配信をしていただいた方々がいらっしゃいました。こちらの方々は事前に運営に配信の許可を取っており、運営側も許可を出しておりました。しかしながら限られたコアタイムの中で発表を聞きたい参加者と配信をしたい方が衝突してしまう可能性は十分に想定できるもので、運営として大変反省しております。対策として配信は別室で行うなどの対応を検討していたのですが、発表者への連絡、タイムスケジュールの管理などの準備が間に合いませんでした。2021年度はこのような点にも気をつけていきます。
続いてVRChat会場が重い、Questに対応していなかったという点がありました。しかしながら正直に申し上げますが、あくまでこれは私個人の考えとしてぜひ高性能なPCとPC専用HMDをご利用の上バーチャル学会への参加をご検討いただければと思います。理由としてバーチャル学会は学会の名を冠しておりますが日本学術会議に登録された学会ではありませんし、特定の学問分野を追求するものではありません。あくまで「VR環境にて行う学会」であることを最大の活動理念に置いています。すなわち私達が行うべきは新しい学会の形、ひいては新しい人類の活動拠点としてのVR空間、電脳世界を提案、実証していくことにあります。そのためにはどうしても高性能な機材環境を使わなくては実現できない表現や企画があります。もちろん運営としてもっと技術力があれば解決できる問題もあります。しかし、優先すべきは私達の理念であると考えています。したがって人的リソースや時間、技術力と天秤にかけた結果、2020年度は会場の重さ、Quest対応は優先度を下げることとなりました。もちろん2021年度はこれらの課題を解決すべく力を注いでいきますが、やはり優先すべきものがありますのでその際はご理解いただいけると幸いです。
最後に会場への導線がわかりにくい、参加ハードルが高いといった声がありました。先程申し上げました内容と似ているかと思われるかも知れませんが、この点に関しては明確に対処すべきと感じています。というのもどのような提案をするにしても、それは追体験、検証できる必要があるためそもそも体験ができないことはあってはならないと考えています(ただし体験に必要な要素がない、という場合を除きます)。今回課題だったのはウェブサイトの見やすさ、VRChat会場への参加方法だったと思います。URLをHPに掲載すること自体は問題ないと思いますが、その後の操作方法の解説が別のページに書かれているなどわかりにくくなっていました。また他にも例えばVRChat会場に各会場に移動できるハブとなるワールドを作成しそこを起点に各会場に移動するシステムにすればよかったかも知れません(そのためには発行したURLがどの程度保持されるか、などの検証を今後行わなくてはなりません)。ほかにもDiscordへの参加方法がわからない、そもそもDiscordへの参加は任意なのに情報が集約しすぎている、といった問題がありました。これも運営の準備不足であり、全体の優先順位を見直す必要を感じております。2021年度は参加方法、参加しやすさにも特に焦点を当てて準備を進めてまいります。
まとめ
バーチャル学会2020を振り返って
以上バーチャル学会2020を運営代表ふぁるこの視点で振り返りました。実はこの開催後記はもっと早い段階(2020年内)に出したかったのですが、私の筆が遅くここまで長引いてしまいました。そしておそらくここを書いているあとにも文章の校正や図表の挿入、全体の構成見直しなどで時間がかかると思われます。本当にいつになったら公開できるのか。
なるべく詳細に裏側を書こうとした結果強く私の主観が載った文章になっていると思います。もしここまで読んでいただけた方がいらっしゃいましたらそのことは良く覚えておいていただければと思います。
さてこのように盛り沢山なバーチャル学会2020でありましたが一言でまとめるなら「楽しかった」となると思います。ちょうど昨年の2019年3月にまた今年もバーチャル学会をやろう、とVRChatのおうらい亭にて運営メンバーと話し合い2019よりもスケールアップをしよう、と決めました。その後はまず外せない事象として新型コロナウィルスの感染拡大があり、バーチャル学会運営の運営スタイルとしてはなんら影響はありませんでしたが、急速にオンライン化、電子化が進む社会においてバーチャル学会はどのような価値を提供できるのか、社会の立ち位置としてどのようなものになるのかを考え続けていました。
よくこれは親しい人に話すのですが私がバーチャル学会2019を考えたのは2018年の秋ごろでした。その後2019年の秋になり本格的に始めてみよう!となったわけです。つまりコロナも何もない状態から電脳世界を本格的に人類が活用するためには何が必要なのか?を考え、その手段として学会を開催することが曲がりなりにもアカデミアの世界にいる私のできることだったのです。それが今ではむしろオンライン化していない学会はないと言っても良いと思います。そのこと自体は非常に喜ばしいのですが、一方で現実の学会をそのままオンライン化したような学会(に限らずイベントなども)を見聞きします。
私はVR技術を活用することはあくまでツールであり目的は別に存在すると考えています。ですのでこれを期に学会がもつ役割はなんだろう、と自問し、それを実現できる方法を考えてきました。もちろん目的の中に電脳世界を作ることもあるので前提としてVR環境を使うことは決まってましたが、どのような形式にすれば発表者、参加者が気持ちよく交流できるか、新しい知識に触れられるか、そして発表した情報を記録できるかを考えました。
結果として現実の学会に近い形式でバーチャル学会2020が開催されましたが、これは現実の学会に寄せることでそれを見聞きした人、実際に参加した人が「これは学会なんだ」と感じてもらい、そこにリアリティを持ってもらうために演出しています。背景にある技術や工夫はこれまでお話してきました通り、VR環境にていかに学会の本質的な役割を果たすかを考えて設計されています。故に現実の学会をVR化したらバーチャル学会になる、などとは口が裂けても言えませんし、運営として尽力されてきたメンバーを尊重する意味でも私はこのように主張していきます。
バーチャル学会2021に向けて
さて、とは言いつつも実際にVR環境を活用した事例は非常に増えてきました。例えばclusterさんはVRイベントプラットフォームとしてますます需要が高まっており日々VRライブや企業のイベントのほか官公庁の企画が行われるなどその幅を広げています。VRChatではVketに代表されるユーザー向けイベントだけでなく世界中の企業が集まる技術系イベントの祭典であるSXSWが行われるなどやはりVR環境の利用は注目を集めています。他にもDOORやNEOKETの開催など様々なニュースがありますが割愛させていただきます。
このような状況にて今後バーチャル学会がなすべきことは何かと考えると、一つはユーザー駆動イベントであるフットワークの軽さを生かして挑戦的な取り組みや異分野、異業種との連携なのかなと考えています。バーチャル学会2020でも新しいことにチャレンジしましたが、2021ではさらに新しい取り組みができればと考えています。すでに運営会議では魅力的なアイデアがいくつも出されています(もちろんリソースや技術的制約によって今後どうなるかはわかりません)。もう一つは運営メンバーのほぼ全てがネイティブVRプラットフォームユーザーという点を活かした既存コミュニティとの連携やVR空間を電脳世界として捉えた体験のデザインです。初めにお話した通りすでにVR空間には様々な人々が交流し、新しい物を作り、世界を開拓しています。こうした環境に外から別の文化を持ち込むのではどれだけ素晴らしいものでも空間を間借りしているように映ってしまいます。今後この既存コミュニティがどうなるかはわかりませんが、私としては今いる住人に受け入れられ、共に世界を作っていくようなものにしたいと考えています。
終わりに
これで本当に最後になりますが、只今運営はバーチャル学会2021に向けて準備を進めております。バーチャル学会2020に引き続き発表者を募集する予定ですので、ぜひ皆様のご応募お待ちしております。もちろん聴講希望の方も募集しておりますので、お近くのご友人をお誘いの上ご参加いただけますと助かります。
またバーチャル学会は運営メンバーも募集しております。興味のあるかたは是非お気がるにご相談ください。連絡先はお近くの運営メンバー、もしくはバーチャル学会公式Twitterアカウントやメールアドレスまでお願いいたします。
そして運営だけでなく協賛企業様(個人、団体問わず)もお待ちしております。頂いた資金は講演者様の講演料や広告費、ワールド設計費、HP作成などに充てる予定です。詳しいリターンや条件は只今検討中ですが、なるべく早くプランを策定しご協賛のご案内をさせていただきます。またこんなことができれば協賛したい、といったご意見もお待ちしております。ぜひお気軽にお声がけください。
では皆様、バーチャル学会2021でお会いできることを楽しみにしております。
バーチャル学会2020運営代表 ふぁるこ