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【つくる人たち】 recettes

熊本市中心部で毎月第3日曜に開かれているマーケット、FARMSTAND ON SUNDAYSの参加者を紹介します。
今回は南阿蘇村で地元の作物を使い、家庭料理の教室を営む「recettes」です。

 熊本県の北東部、阿蘇カルデラの南部に位置する南阿蘇村に⼭折典⼦さんのアトリエ『recettes』はあります。
フランス語でレシピを意味する『recettes』を屋号にしたのは、この南阿蘇のアトリエに越した時でした。

「最初はもう少し⻑い〈あなたの記憶に残るような、あなたの⼈⽣のきっかけになるようなレシピ〉という意味合いのフランス語を知⼈に教えてもらって屋号にしていたけれど、いつの頃からかやっぱり⻑いなあって。そうして『recettes』だけが残ったの」とはみかむように笑います。実は途中「私はレシピありきの料理を提案しているわけじゃないんだけれど…」と⾃分でつけた屋号にも関わらず、違和感を感じることもあったそう。でもその違和感は、この地に暮らし料理と向き合うなかで徐々に変わっていったといいます。

「この場所に根をおろして⽣活するなかで、お⽔の美味しさや地域の⼈たちが育んできた⼤きな豊かさに触れて〝ああ私はこの中で、この中だからこそ湧き出る〈レシピ〉を作っていきたかったんだ〟って⾃然に思えました。この場所に暮らして13年⽬にして、今やっと繋がってきたという感じなんです」と⽬を細めます。

 レシピの精度を追求してきた時期もあったといいます。
「⽬が開くような美味しさを求めていたけれど、ふと〝死ぬ前にそんなの⾷べたいかな?〟と思ったんです。やっぱり⾃分だったら、おにぎりとか味噌汁とかお⺟さんが作ってくれたような⽇常の中で流れていくような料理を作っていきたいなあ、って。それから作るもの・提案するものも変わっていきました」
 南阿蘇は⽔の⾥。その⽔のように⾃分⾃⾝も軽やかに流れていきます。

「⽣産者さんと出会いは、本当に私を、そして私のこれからやるべきことを変えたような気がします。ただただ〈⾷材の美味しさを信頼できる〉ということがこんなに⼼強いなんて」
「美味しい⾷材は、味付けありき、だから料理の腕は必要ない。⽇々の⾷卓はレストランじゃないから、⽇常でお⺟さんが家族のために作るような料理を続けていきたい。〝私なんて、ただの主婦なので〟と自信なく仰る方もいるけれど、みんなお⺟さんのご飯で育っているし、その⼈たちが元気になったら周りのみんなが幸せじゃないですか。そんな〈受け継ぐ家族の食の豊かさ〉に響き合っていけることを伝えるのが今の⾃分の役割なのかな、と思うようになってきました。そして、そうだったら本当に嬉しい」

「それに⽇常のご飯の中で、命に対するリスペクトとか⽬の前にいる家族や⽣産者さん、対峙する全ての⼈に、お互いに感謝しながら⽣きていきたいね、と伝えたいし、何より⾃分も誰かに伝えながら、⾃分⾃⾝にも⽇々語りかけています」

 畑から⾷卓へ。まるで流れる⽔のように、彼⼥のレシピは私たちに浸透していきます。それはきっと、湧き⽔をごくごくと喉をならして飲むように、私たちの⾝体が、きっとそれを必要としているからなのでしょう。

Text : Chiaki Hirayama

recettes
@yamaorinoriko

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