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hrt
もう彼女は私ではなかった
いつのまにかアニメの中のあの子達よりも年上になっていて、
気がついたときにはもうあの子達の親でもいいくらいの年齢になっていた。
擦り切れた金曜ロードショーのビデオを何度も何度も、祖母の家で観ていた。一番のお気に入りは、魔女の宅急便。
小学生のうちは、知らない街で奮闘するキキの姿をみて
私にもいつか独り立ちする日が来るのかもしれないと感じていた。
新しい街で、新しい人たちの中で、前だけをまっすぐ見つめて頑張る。
中学生になって観てみると、トンボとの甘酸っぱいやり取りや可愛らしい街並みを飛び回る姿がただただ羨ましかった。
いつか自分もこんな素敵な生活がしてみたいと、田んぼばかりの田舎で妄想していた。
高校生になると、ひとりで困難にぶつかる彼女が強く勇敢な人物に思えた。
親の庇護のもとで、ぬるくて特に大きな問題も起きない高校生活を過ごしている自分が少し恥ずかしくなった。
大学に進学し、親元を離れてみると
一人暮らしが楽しくて、新しい街に住み始めてワクワクする気持ちを自分でも体感していた。
少し寂しそうに、そして少し嬉しそうに送り出してくれたキキのお父さんの表情が自分の父と重なって、私も彼女のように頑張らなくちゃと思えた。
社会人になった今はもう、自分と彼女を重ねることは少ない。
彼女が好奇心旺盛で明るくて一生懸命な女の子で、でも本当は寂しくて不安な気持ちでいることを私は知っている。
そしてなにより、彼女があの街で元気にやっていけることを知っている。
いまは、何年も育ててきた親のような
見守ってきた街の人たちのような、そんな気持ちで観ている。
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