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長谷川武次郎・弘文社による本邦最初期のドイツメルヒェンの翻訳・仕掛け絵本

平紙本 呉文聡訳 『八ツ山羊』 初版 明治20年 東京刊:弘文社 (西洋昔噺1)
Kure, Ayatoshi, Yatsuyagi. Western Fairy Tale, Series 1. Tokyo, T. Hasegawa, 1887 <R23-271>
<First edition. 8vo(18x12.3cm), [10] pp, illustrated original Japanese plain paper>

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八ツ山羊は本邦で最初期のドイツメルヒェン絵本の翻訳本と言われる書籍で、ちりめん本・平紙本で知られる長谷川武次郎の弘文社で発行されました。

本書の特筆すべき点は、狼が子山羊たちをだまして扉を開けさせようとするシーンと、母山羊が狼の腹を切り裂いて子山羊たちを救出するシーンの二か所に簡易ながら仕掛け扉が施されていることであり、日本でも最初期の仕掛け絵本であるとも評価されています。

仕掛け扉1
仕掛け扉1

本書の図版はドイツの絵本挿絵画家ハインリヒ・ロイテマンがイラストを添えたドイツメルヘン集より、物語の本文はルートヴィヒ・ベヒシュタインのメルヘン集を採用したといわれています。

本書の和文訳出を担当したのは、慶應義塾大学に学び、内務省衛生局、逓信省、内閣統計局に勤務し、生涯にわたり日本の統計事業に従事した呉文聡でした。呉と長谷川の具体的な接点については不明ですが、弘文社から発行されていた教科書などの出版業を通じた繋がりがあったものと推測されています。

仕掛け扉2
仕掛け扉2

そもそも原題タイトルの“Die sieben Gießen“(七匹の子山羊)が、この日本語訳版では一匹増えて八匹になっている点に関しては、日本語の響きや語呂合わせのためなどの説がありますが、決定的なことは解っておらず「八ツ山羊」最大の謎となっています。
「八ツ山羊」は「西洋昔噺第一號」として刊行され、日本昔噺シリーズ同様にシリーズ化の企画もあったようですが、第二號の発行は行われていません。シリーズ化にこそ至りませんでしたが、本書は長谷川が欧文日本昔噺による日本文化の海外発信と共に欧米文化の翻訳の日本への普及という双方向の国際的な出版事業展開を考えていたことが窺わせる作品です。

参考文献:尾崎るみ「弘文社のちりめん本『欧文日本昔噺』シリーズの形成と『西洋昔噺』シリーズの開始」、『白百合女子大学児童文化研究センター研究論文集』24号 2021年 1-34頁

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