プロイセンの寛容と難民統合成功の公式史観
ミュレ 『ブランデンブルク=プロイセンにおけるフランス人入植地の歴史』 1885年 ベルリン刊
Muret, Eduard, Geschichte der Französischen Kolonie in Brankdenburg=Preußen, unter besonderer Berücksichtigung der Berliner Gemeinde. Aus Veranlassung der Zweihundertjährigen Jubelfeier am 29. Oktober 1885, Berlin, W. Büxenstein, 1885<R23-2>
4to (32.5x25.5cm), ix, 360pp, 12 plates, original half cloth binding with board, title lettered in gilt to spine, center of spine torn, some high lighting, 321/322 torn, but contents not affected
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本書は、ナントの勅令廃止のためフランスを追われたカルヴァン派信仰難民ユグノーのブランデンブルク=プロイセンへの受け入れを表明したフリードリヒ・ヴィルヘルム大選帝侯によるポツダム勅令発布200周年を記念して刊行された記念誌です。
信仰難民ユグノーの歴史書は、当事者自身によってブランデンブルク・プロイセンに定住以来定期的に刊行され続けてききましたが、本書はその歴史書の中でも初めてユグノーの出身国の言葉であるフランス語ではなく、受け入れ国の言語であるドイツ語で書かれました。
全四部(第一部:ベルリンの教区でのフランス人入植の歴史、第二部:ベルリンの教会施設、第三部:ブランデンブルク・プロイセン各地の入植地、第四部:資料編)から構成され、イラストも多用することで、ユグノーの迫害と亡命、そして定住に至る歴史をたどる上で非常にわかりやすい内容となっています。
プロイセン及びドイツの歴史書として見て興味深いのは、大選帝侯からドイツ皇帝ヴィルヘルム1世(王太子であったフリードリヒ3世も含む)までの歴代ホーエンツォレルン君主の治世がまとめられている第一部であり、その中で最もページ数を割かれているのが初代プロイセン王フリードリヒ1世(選帝侯としてはフリードリヒ3世)という点です。
フリードリヒ1世は、孫のフリードリヒ大王が自ら執筆した家門の歴史書「ブランデンブルクの歴史回顧録」では空虚で虚栄心と偉大さをはき違えていると非難され、その評価に準じて書かれた後の歴史書でも王号(”König in Preussen“プロイセンでの王)を獲得した以外に大した業績は上げてないと評価されている君主です。
しかし、信仰難民の受け入れと入植の歴史に関して言えば、歴代君主の中でも多大な貢献をしたとして、ユグノー達の間では最も感謝すべきで、最もページを割いて顕彰すべき君主として評価されていることがわかります。当時隆盛であった「プロイセン学派」の描く歴史像とは違った視点で描かれていることが明瞭にわかります。
参考文献:
塚本栄美子「19世紀後半ベルリンにおけるユグノーたちの「オフィシャルな」歴史叙述 ミュレ『ブランデンブルク・プロイセンにおけるフランス人入植地の歴史』 (1885年)」、『佛教大学 歴史学部論集』 第12号 2022年 107-126頁
クリストファー・クラーク/ 小原淳『鋼の王国プロイセン 興隆と衰亡1600-1947 上』みすず書房 2024年
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