極東書店ニュースの歴史、そして未来
洋書案内「極東書店ニュース」は、1954年6月に第一号が発刊。以来研究者の皆様に海外の学術新刊情報をお届けしております。
はじめに:「極東書店ニュース」とは?
-精選された学術洋書の新刊書籍カタログですー
海外との情報・物の交流が現在ほど容易でなかった昭和30年代に、
最新の研究動向と出版情報を求める研究者の声にこたえるため、海外学術出版社から独自に収集した新刊書籍情報を精選してお届けする「カタログ」として、「極東書店ニュース」の発行が開始となりました。
店舗を持たない我々のような専門書店にとっては、まさにショウウインドーであり、お客様に我々のビジネスを知っていただく大切なセールスツールでもありました。
創生期:1950~1960年代
発刊当初は
歴史
経済
政治と法
文学と芸術
哲学
その他
という分類で学術洋書を紹介しておりました。取り扱い言語は現在と変わらず英・独・仏語文献が中心。
ロシア語・ソ連関係図書の取扱いがあった時期もありましたが、それらはニュースとは別に「ソビエト図書通信」として、1960年から5年間発刊された別冊によって紹介しておりました。
また当時の「極東書店ニュース」表紙には副題としてAnnouncement of Foreign Booksと表示されていますが、これは「ニュース」が当社独自の呼称であるのに対し、丸屋商社(現:丸善雄松堂)が明治時代の創業当時から作成していた宣伝文書や、その後普及した各社の洋書案内がアナウンスメントと呼ばれることが一般的であったためです(現在でも洋書案内のことを広くアナウンスメント、アナメンと呼ぶことがあるのはそのような経緯によるもの)。
充実期:1970~1990年代
1960年代半ばになると分類が増え、
総記
哲学
歴史
政治
法律
経済
経営
社会学
教育
言語・文学
アジア・アフリカ
といったラインアップとなります。当時の出版点数は現在よりもずっと少なかったため、月刊「ニュース」のページ数は大体40ページ前後でした。
1971年1月号から、表紙に初めて日本語分類が登場し、現在までひきつがれる「ニュース」の原型が出来ています。
総記
哲学・社会思想
歴史
労働運動・社会主義運動史
政治、法律
経済
労働問題・社会政策
経済史
経営学
社会学
教育
言語・文学
アジア・日本・アフリカ・ラテンアメリカ
また毎月話題のテーマを特集として取り上げるようにもなり、とりわけ「公害と都市問題」特集は毎月のように取り上げられ、1974年には【環境と都市問題】としてレギュラーな分類に加わりました。
国際的な経済・社会・政治・文化の動き、またそれに伴う学会の研究動向の変化に対応するため、「ニュース」の分類項目は追加・変更され、少しずつ変化していきます。
”言語・文学”分野についても、主力分野である哲学・美学・思想とも関連があり、また創業当初から力を入れていたため、主にドイツ語文献を扱っていました。”言語・文学”については哲学・美学・思想分野も合わせたニュースの別冊「ドイツ文学」として1974年に分冊化し、1984年まで発刊していました。(その後「ニュース」に再統合)
インターネットや電子メールがない時代、海外出版社からのエアメールによる新刊案内や日本国内代理店からの新刊情報などを駆使して新刊洋書の情報を取得。入って来る情報に限りはあったものの、英米の大学出版局・主要学術出版社、ドイツの出版社、そして、フランスの学術出版情報やオランダの学術出版(英語文献)案内は積極的に入手・紹介していました。
当時、1970年代から冷戦崩壊までの人文社会系学問のトレンドでは、
「米国の相対的経済的位置の低下」
「日本及びアジアNIESへの関心の高まり」
「現存する社会主義(Der existierende Sozialismus)の批判的研究」
「EC(ヨーロッパ共同体、EUの前身)研究の増加」
「社会史・アナール派研究の盛衰」
「従属理論・世界システム論」
「正義論」
などがありました。
変革期:1990~2010年代
1990年代に入ると様々な研究分野においてRace・Ethnicity, Gender, Culture, Globalizationが重要なテーマとなり、それに沿うように「ニュース」でも
文化・社会人類学
移民史・移民問題
少数民族
人種問題
ジェンダー研究・女性史・家族史
を大分類化し、情報提供を進めるようになりました。
これらの学術動向の変化やトレンドは、当社の営業員が研究者から直接お話を伺い、それを「ニュース」へ反映することも多くありました。
第一線で活躍する研究者から得られる知見なしには「極東書店ニュース」の発展はありえなかったのです。
1990年代後半からは出版情報の入手手段が徐々にデジタルに移行していきます。加えて出版点数は増加、冊子体という媒体の制約上あらゆる情報を載せることは難しくなってきました。
そこで、精選された書誌情報の提供に注力することで、研究者の皆様からは評価を頂いておりました。
しかし、インターネットの普及による制約のない圧倒的な情報量が一般化するにつれ、「ニュース」の誌面による情報提供だけでは次第に研究者の多様なニーズを満たしきれなくなりました。学術研究の傾向も、研究分野によっては、書籍を中心とした研究から徐々に論文主体の(電子)ジャーナルに比重が移り、学術研究費もそれに合わせ重点をシフトするなど変化が起きていきました。分野も細分化が進むとともに、人社系においてもデータを中心とした実証研究が学際的に展開されるようになり、データ処理のためのサーバー構築やソフトウェア、人件費等に予算の多くが配分されるようになるなど、研究資料としての書籍の役割は分野によって大きく変化していきました。
こうした急速なテクノロジーの進展を背景とした情報環境や研究手法の変化、メディアの多様化等に伴い、2017年に「極東書店ニュース」は冊子体からPDFによる電子版に媒体を移行しました。PDF版は電子的に広く届けられる利点はある一方、基本的に冊子を踏襲したものであるため、紙幅の制限についてはそのままとなり、移行としては緩やかなものでした。
ニュース新時代へ:2021年~
冊子体カタログを閲覧しているかのような負担のないシンプルな新刊洋書案内をオンライン上で実現。厳選された書誌情報が月2回のペースで更新されることで、提供する情報量は増やしつつ、研究者が必要な情報を容易にピックアップすることが可能になりました。また、ご専門のみならず、周辺分野の最新潮流を知るためにも最適なものとなっています。
おわりに:「極東書店ニュース」-これからも皆様の研究活動のお役にたちます!
インターネット上の情報量は爆発的な勢いで増大を続けていますが、「極東書店ニュースONLINE」は
-精選された人文・社会科学系の学術専門洋書情報を提供し、学術貢献を果たす―
という極東書店ニュースのこれまでの役割を受け継ぎ、発展させたものとなっております。
時代につれて形を変えた「極東書店ニュースONLINE」が現在を生きる皆様の研究活動の一助となりましたら、この上ない喜びです。
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株式会社極東書店