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映画評「愛なのに」

今泉力哉の脚本、そして舞台は古本屋ということで、『街の上で』(2021年公開)で、今泉作品にドはまりし、かつ古本屋を営む(ネットですが)者としては、見逃せない映画『愛なのに』(2022年公開)。U-NEXTの配信で観ました(劇場公開は見逃してしまったけどね)。

おすすめかと聞かれれば、古本屋が舞台というだけで、胸がときめく古本屋ラヴァーズの面々にはおすすめいたします、はい。しかし、先に言っておきますが、この映画を観て、自分も古本屋を開業しようと心に誓うようなことだけはしないこと。人生棒に振りますよ。

さて、どこが気に入ったかというと、

  1. 『街の上で』でも、とても魅力的だった、あのなんともおかしい今泉脚本独特の台詞回しが存分に味わえる

  2. 主人公の古本屋店主に突然「結婚してください」とプロポーズする女子高生役の河合優実の演技力

  3. 舞台となった飴色系古書店の味わい

1. 『街の上』でも、とても魅力的だった、あのなんともおかしい今泉脚本独特の台詞回し

今泉脚本の台詞回しは、対話の妙で笑わせますね。今回の映画でも随所に対話の面白みがある場面があって、それぞれが見どころです。特に今回面白かったのは、婚約中にもかかわらず浮気を繰り返すサラリーマンの若田亮介(中島歩)と浮気相手でウエディングプランナーの熊本美樹(向里祐香)との絡み。

若田から、現在の危険な関係を解消しようと告げられ、素直に応じる熊本。熊本が素直に応じた理由は、若田のSEXがあまりにも下手だったから! ここの若田と熊本の対話の面白さは特筆です。映画としてだけでなく、文学としてもハイレベルな面白さです。「SEX、下手ですよね」と男性を詰める女性と詰められる男性を描いて、これ以上のものはもう出ないでしょう。演じた中島歩と向里祐香の演技も最高です。この二人の組み合わせのおかげで、さらに笑える名シーンになっています。

2. 古本屋店主に突然「結婚してください」とプロポーズする女子高生役の河合優実の演技力

「多田さん、好きです。わたしと結婚してください」と突然プロポーズする女子高生の矢野岬役の河合優実の演技力がなければ、この映画の魅力は、かなり低減したのではないでしょうか。30歳の古書店店主にプロポーズする16歳の女子高生役なのですが、16歳にしては、少し大人びた感じで、周囲の同調圧力には、まず従属しない感じの凛とした女子高生を表現しています。不思議ちゃんでもなく、過去のトラウマ抱えている系でもない振り幅の小さい難しい役柄ですが、その演技は見事です。

わたしは、彼女を今回の映画で初めて知りましたが、すでに数々の新人賞を受賞しているんですね。とても上手い役者です。

3. 舞台となった飴色系古書店の味わい

最近は、古書店もずいぶんオシャレになりまして、アートな感じの白色系古書店の勢いを感じていますが、今回の舞台となった古書店は、いにしえの古色蒼然とした飴色系古書店が選ばれています。狭い通路の両脇に、飴色の背の高い本棚がそびえ立っています。ロケ地となった古書店は東京・三鷹の古書上々堂です。もし、自分が店舗を構えるとしたら、白色系古書店だったのですが、この映画を観て、飴色系古書店の佇まいも良いなと再認識しました。



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