館野浩美

ファンタジー好き翻訳者。共訳書『ダフォディルの花 ケネス・モリス幻想小説集』(国書刊行会) 9/16 刊行。 Web サイト「影青書房」http://far-blue.com/

館野浩美

ファンタジー好き翻訳者。共訳書『ダフォディルの花 ケネス・モリス幻想小説集』(国書刊行会) 9/16 刊行。 Web サイト「影青書房」http://far-blue.com/

マガジン

  • 妖精郷の音楽

    イギリス・アイルランド幻想訳詩集

  • 『メルヘン』マンフレート・キューバ―

    ときにユーモラス、ときに神秘的。シンプルだけれど深いメルヘン。 マンフレート・キューバ― (Manfred Kyber - 1880-1933 現在のラトヴィアのリガ生まれ) はドイツの作家、詩人、劇作家。 動物愛護に尽力し、擬人化された動物たちを風刺的に描いたメルヘン「Tiergeshchichten」などの作品も。

  • 燈火節異文

    片山廣子の随筆集『燈火節』の中でネタとして使われたフィオナ・マクラウドの随筆を紹介。 *更新予定* ミケル祭の聖者/Iona、 蝙蝠の歴史/The Summer Heralds、 四つの市/The Sea-Spell、 北極星/Beyond the Blue Septentrions、 燈火節/St. Bridget of the Shores、 或る国のこよみ/An Almanac | Photo: The Machair - or rough grazing - on Iona by Elliott Simpson (https://www.geograph.org.uk/profile/11965) licensed under CC BY-SA 2.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0/)

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エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏 正確にまた不正確に記憶にあることども』

白いユニコーンに そして 黄褐色のライオンに 挨拶を 目次第一巻:エーレ 子供の世界 知恵の木 サーカス 花ひらく黄昏 喪失 許されざる罪 新たな地平 劇場 いさおし 新たな田舎 暗い水 錦繍 ウェールズはグラモルガンのアリグザンダー・アーカート氏に、またカリフォルニア州コーヴィーナにある神智学協会の C.J. ライアン氏に、ケネス・モリスの著作からの引用をお許しいただいたことを感謝いたします。  夢の中でわたしは北のさびしい湾岸を歩いており、ひとけのないプラチ

    • この世の異邦人〜オリヴァー・オニオンズ「彩られた顔」覚え書き

      今回は、2022年に国書刊行会から刊行されたオリヴァー・オニオンズ『手招く美女 怪奇小説集』(南條竹則/高沢治/館野浩美 訳 中島晶也 解説) で私が翻訳を担当した「彩られた顔」(原題: The Painted Face) について、気づいた点をいくつか書いておきたいと思います。結末など物語の重要事項に触れていますので、未読の方はご注意ください。 主人公のゼナはいったい何者だったのか、彼女の前世に何があったのか。作者は断片的におぼろげにしか書いていないので、一読しただけでは

      • 天翔ける輝くもの〜ファンタジー作家ケネス・モリスが書きつづけた龍

        あけましておめでとうございます。 2024年は辰年。私の愛する作家ケネス・モリスの作品にはたびたび龍が出てきて、この作家にとって重要なモチーフであったことがわかります。今回は、ケネス・モリスが書いた龍の特徴や、龍が登場するケネス・モリスの作品をいくつか紹介してみたいと思います。 ケネス・モリスは1879年ウェールズに生まれ、1910〜30年代にかけて活動した作家・詩人です。東西の神話や文学に関する知識と、神智学の神秘思想を背景として、美しい文体で綴られた独自の幻想的作品は、

        • エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|錦繍

          『花ひらく黄昏』目次  わたしたちが住んでいた家はユグノーのフランスの伯爵が建てたものだった。天井の高い広い部屋べやと、塀に囲まれた庭と、何人かの幽霊を擁していた。妹のエリザベスは暗がりにほの白く背の高い人影が動くのを見た。母は夜中の物音で眠れず、わたしの部屋にはときどき、話しかけられるのを待っているがけっして答えを返すことはない、ものしずかな幽霊が訪れた。  夜中にふいをうたれたように目を覚まし、だれかが部屋に立っているのを感じる。ベッドの足元のほうにほっそりした影が――

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        エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏 正確にまた不正確に記憶にあることども』

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        • 妖精郷の音楽
          6本
        • 『メルヘン』マンフレート・キューバ―
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        • 燈火節異文
          3本

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          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|暗い水

          『花ひらく黄昏』目次  とてもいい感じで松の木にふちどられたあの三角の湖でだれもスケートをしないのはなぜなのかしら? 新参者であるわたしたちはそう言いあったが、思いがけないかたちで答えを知った。幾晩も凍てつくように冷えこんだのち、みなが湖で滑っているという話が聞こえてきた。妹たちとわたしは湖にいそいだ。かくれた湧水があって氷に一見わからない穴があいていたりするかもしれないと、率先してためす気にはなれないでいた。しかし、この日はだれもが滑っていた。わたしたちもみなといっしょに

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|暗い水

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|新たな田舎

          『花ひらく黄昏』目次  地平線まで遠く幅広く延びる草地。ひらけた空をさえぎる街の塔はない。彼方の丘がうす青く霞んでいる。牛たちは家路を歩み、小さな町のただ一本の通りをぶらつくことさえある。町はその昔、フランスからの避難民によって建設され、今もなお食料品店や生地店にはフランス語の屋号が記されている。小さな町は眠たげだ――身じろぎするのは市の日だけで、そのときばかりは豚や羊、山羊や馬でかまびすしい。田舎は眠たげで、満ち足りた顔つきをしている。そこに住むひとびとも同じだ。  いっ

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|新たな田舎

          「野の花」エラ・ヤング

          ほの白いあかつきを 明るませる星のよう いばらの上 色褪せる花のよう 太陽のとおり道に 落ちた雪のひとひらのよう 酬いが死である場所で 舞う白い蛾のよう 命とはそのようなもの、いとしき者よ 生が終わるときには "Flower of Grass" by Ella Young 館野浩美訳 *** エラ・ヤングはアイルランドとアメリカ、ふたつの国に生きた詩人・作家・神秘主義家。 妖精国の音楽を聴いた天性の語り部ともいうべきヤングの自伝的エッセイ『花ひらく黄昏』、アイルラ

          「野の花」エラ・ヤング

          「ちいさなモミの木」マンフレート・キューバー

           むかし、おおきなモミの森のおくにちいさなモミの木があり、クリスマスツリーになりたいとねがっていました。けれどそれは、かんたんにかなうねがいではありませんでした。なぜなら、モミの木たちにはよくしられているとおり、せいニコラウス(*)はとてもきびしくて、かんぺきにクリスマスツリーにふさわしいと本にかかれているモミの木にしか、クリスマスツリーとして村や町にいくことをゆるさなかったからです。その本というのは、せいニコラウスにふさわしく、おそろしくおおきくてぶあつい本で、それをもって

          「ちいさなモミの木」マンフレート・キューバー

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|いさおし

          『花ひらく黄昏』目次  新しい学校、そしてわたし自身の仲間を集めるチャンス! 最初は厳格で不人気な校長に反抗する不満分子からなる一味だった。わたしたちはゲリラ戦をつづけ、かなりの戦果を挙げた。懲罰はたいして効果がなかった。罰が下った者には仲間の同情が寄せられた。衝突と戦闘、敗北または勝利のたびに、わたしたちは意気を新しくした。  そこへブライザンスが登場した。彼女は優等生だった。それまでのわたしたちは優等生をばかにしていた。ブライザンスは違った。彼女は以前にはなかったもの

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|いさおし

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|劇場

          『花ひらく黄昏』目次  ロングフェローは母のお気に入りの詩人だった。母は型押しされた革と三方の金が豪華な大型の本を朗読してくれた。わたしたちは小さなスツールにすわり、耳を傾けた。妹のジェニー、妹のモード、そしてわたし。わたしたちは『オーラフ王のサガ』を気に入った。いつのまにか、なりゆきも理由も定かでないが、わたしたちは〈尊大なる女王シグリッド〉のくだりを演じるようになった。  わたしたちはこっそりと演じた。かなりのあいだ、だれにも気づかれなかった。母がこのことを知ると、色

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|劇場

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|新たな地平

          『花ひらく黄昏』目次  家族席は教会の中二階にあった。高い仕切りがあり、赤いフラシ天のクッションには丸いボタンが付いていて、日曜ごとに少しずつゆるめれば取り外すことができた。わたしがボタンを取ることもあれば、妹のジェニーが取ることもあった。モードは熱中するには幼すぎた。母はなぜクッションのボタンをそんなに何度も縫い付け直さなければならないのか不思議がっていた。祖母は父と母とともに家族席にすわった。祖母は鷹揚な人だった。ときどきわたしたち子供に格言が書かれたペパーミント味のの

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|新たな地平

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|許されざる罪

          『花ひらく黄昏』目次  わたしはまた神意に思いを巡らすようになった――暗い思いを。天国があり、地獄がある。天国は終わりのない安息日である。ウィルソン博士がそうだと言っている、教会の高い説教壇からそう言っている――毎週日曜には、わたしは陰鬱で退屈な長老会派教会の家族専用席に妹のジェニーとモードと腰かけ、くすんだ単調な壁や、反対側の家族席や、ウィルソン博士の黒いガウンの肩で気をまぎらしていた。 「天国は終わりのない安息日である!」  わたしは地獄に耐えられないだろうかと考えた。

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|許されざる罪

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|喪失

          『花ひらく黄昏』目次  わたしは家で感じ悪くふるまい、相手にされなくなった。わたしは学校で感じ悪くふるまい、誰からも高く評価されなくなった。新任の教師のクラスに入れられるまでは。優しい風貌の女の先生で、豊かな――それは豊かな金髪だった。先生はわたしを信じてくれた。クラスの皆の前でわたしを褒めてくれた。わたしが質問すると耳を傾けてくれた。わたしは先生を愛した。宿題をやるようせかされる必要はなくなった。わたしの頭には宿題と学校のことしかなかった。一日また一日と日が過ぎ、太陽が毎

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|喪失

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|花ひらく黄昏

          『花ひらく黄昏』目次  母か召使いの手で狭い自分の部屋のベッドに寝かされると、わたしは枕に顔を押しつけて、毎晩起こることを――毎晩起こるとわかっていることを待ちうけた。すばらしい羽冠を持つ蛇たちが、一匹ずつ、また何匹かまとまって、枕の柔らかな闇を抜けて立ちあがるだろう。蛇たちは頭の方から身をもたげ、尾を下にして直立する。緑色や多彩の蛇たち。わたしはこの蛇たちがあまり好きではなかった。「長虫ども」と呼んでいた。わたしはあらゆる蛇たちの王が立ちあがるのを待ち焦がれた――おおいな

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|花ひらく黄昏

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|サーカス

          『花ひらく黄昏』目次  町にサーカスがやってきた。川の対岸の野原にテントが張られるだろう。どこへ行っても喧噪が聞こえる。通りは象や虎、黄褐色のたてがみ豊かなライオン、駱駝、ブラスバンドを乗せた馬車で花が咲いたようだ。わたしは窓辺に立って一座が通り過ぎてゆくのを眺める。白塗りの顔の道化師たち、驢馬にまたがっている、白塗りの顔を尻尾のほうに向けてまたがっている。赤いベルベットのドレスを着たわたしと同じ年ごろの少女たち、ちいさなポニーの背中で踊っている。白い馬に乗った美しい貴婦人

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|サーカス

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|知恵の木

          『花ひらく黄昏』目次  わたしは綴り方と二かける二は四の暗唱を勉強している。ここで父がわたしの学習に関心を見せる。父は生来とても数学が好きで、わたしもそうだといいと願っている。わたしはそうではない。かけ算の表は父とわたし双方のいらだちのもとだ。母は宗教的なたちだ。母はもっぱら小教理問答に、それから聖書の教えに熱を入れる。  聖書の物語はわたしを考えごとに向かわせた。なぜ神は蛇を創ったのか? あるいは創ったあと、なぜエデンの園に入るにまかせたのか? 神は全能である、それなのに

          エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|知恵の木