【第三話】道を照らす人
今回はなんと奥様の出番は全くありません。
ではでは一体どんな話なのか?
「この世界には暗闇で迷っている人がいたらその人の進むべき道を照らしてくれる人がいる」
昔の偉い誰かの言葉?
いやいや名もない誰かの信じる言葉。
今迷ってる人にも読んでほしい。
そして奥様にも繋がる大事なピース。
ちなみに今回は大ボリュームとなってしまいました、ぜひどうぞ。
僕には5歳離れている姉がいる。「お姉ちゃん」と読んだ記憶はなく、物心ついた時から「愛ちゃん」と呼んでいる。
兄弟がいる人であればわかると思うがこの5歳差はとても大きい。5歳離れた弟は相当「子供」に見えたに違いない。
決して仲が悪かった訳ではないが、姉弟で仲良く遊んでいたという記憶は実は少ない。
愛ちゃんは小中高になるにつれて家にいる時間が少なくなっていった。どんどん自分で道を切り開いて新しい世界へ進んで行く愛ちゃんとの距離は目に見える以上に遠かった。
僕が20歳に近づくと関係は少し変わる。
「超」が付くほどのインドアであった僕を愛ちゃんは外の世界へと連れ出した。
夏は父の実家がある「伊豆」へ「沖縄」にも行った。
ついには僕の初の海外となる「バリ島」にまで連れ出した。
これらはただの「旅行」ではなく、愛ちゃんが「僕の知らない世界」を案内してくれているようだった。
興味の無かった「車の免許」なども愛ちゃんからの強い勧めがあってとることを決めた。
そしてもう1つ僕の人生を大きく左右するものを紹介される。
それが「占い」だった。
愛ちゃんが占い好きだった記憶はない、占い好きの家族だった訳でもない。
僕は少し興味はあったがお金を払うとなると話は別だった。
それぐらいの興味。
それは今から約14年ほど遡る。
愛ちゃんから突然
「予約の取れない有名な占い師さんに占ってもらえるけど、興味ある?」という誘いを受けた。
鑑定料も払ってくれるということもあり、占ってもらうことにしたが実際はあまり期待をしていなかった。
指定された日時にとあるマンションへ向かう。
そして一室から出てきたのは「占い師」と呼ぶにはあまりにも普通の身なりの女性だった。
ただ言葉遣いやその振る舞いの1つ1つが作法のようで「気品高い人」というのが第一印象だった。
この物語では「S先生」と呼ぶことにする。
S先生は「手相」で占い、占いに関する本も出版をしていた。
まだ「期待していない」という気持ちは変わっておらず少し身構えていた部分もあったと思う。
S先生はまず最初に僕がどのような性格、どのような経験をしてきたかという鑑定をしていった。
大まかに言うと「まじめで心配性」たしかこんな感じだったと思う。
自分でもそう思っているほどなので特に驚きもしない結果で実は最初の方の占いの内容をあまりハッキリと覚えていない。
しかし、僕が興味を持ち始めたのは「なぜ心配性になったのか?」という話からだった。
それは僕がまだ生まれる少し前、正確には母のお腹の中にいた時に母は心配をする事が多かったという。
それがお腹の中にいる僕に伝わっていた。
そしてその時僕は強く手を握っていた。
これはその時にできた手相なんだとS先生は僕の掌を見て話をした。
僕はそのエピソードがなんとなく刺さりS先生の話に興味を持ち始めた。
その占いで1番覚えているのが「仕事」に関する内容だった。
当時はすでに妻と付き合っていて、この先の仕事をどうしていくべきかと考えている時期だった。
S先生は言った。
「あなたに手を差し伸べてくれる人がいる、もうすでに一緒に仕事をした事がある人だから安心していい」
この答えに心当たりがあった。
昔アルバイトをしていた当時の上司が会社を立ち上げて社長になっていた。
年に1回ぐらいその元上司の誘いでイベントの手伝いをしていた。
僕はその会社で働きたいと思っていたのだった。
一度元上司に直接相談したことがあった。
「嬉しいけど申し訳ない。今はそのタイミングではないから、その時が来たら必ず連絡をします」
と断られていた。
これが占いから遡ること10ヶ月ほど前の出来事だった。
そして、この占いから半年も経たずにその元上司から突然のメールが届くのだった。
「お待たせてしまいました、また一緒に働いてくれますか?」
もちろん僕はその会社へ入社を決めた。
その後、S先生に再び占ってもらいたいと思うことがあったが有名な占い師という事もあってかなかなか予約が取ることができなかった。
結果としてこれまでS先生には5回ほど占ってもらってもらっているがその中でも1番驚いた占いのエピソードを少し長くなるが読んでほしい。
そのエピソードを語るには少し僕自身のことを話さなくていけない。
これも仕事に関する事だが、希望が叶い入社した元上司の会社だが5年ほど勤めた頃に長男の出産などをきっかけに転職することを選択する。
ただその選択が元で僕は苦しむことになる。
転職先の会社は典型的なブラック企業だった。
在籍した1年という期間で驚くほどの数の人間が辞めていった、その多くはパワハラが原因だっただろう。
その時は社内の連絡手段はLINEだった。
皆が見るグループの中で暴言や、罵倒のテキストが飛んでくるのは日常茶飯事。
正式な手続きで退職をするのではなく突然来なくなる、俗に言う「飛ぶ」人間も多かった。
僕も流石に限界を感じて次の転職をするが、更なる陰湿な人間関係の呪縛が待っていた。
社内も取引先も己の利益しか頭にない人間の嫌な部分を短期間で嫌というほど味わう。
僕は限界の一歩先にいた。
会社へ向かう通勤の電車の中で憂鬱にスマホである言葉を検索する。
「会社 怖い」
そこには多くの同じ悩みを持つ人達がいた。
そしてとある記事の中にその言葉を見つける。
「このページを検索して今見ているあなた。
すぐに会社を辞めなさい、逃げてもいい。」
その言葉を見ると僕はすぐにスマホである人の連絡先を見つけてLINEでメッセージを送った。
「ご無沙汰してます。今僕にできる仕事とかありませんか?」
メッセージを送った相手は僕がまだ高校生だった時にアルバイトをしていた時のお店の店長だった。
この物語では「ナオキさん」と呼ぶことにする。
遥か昔にアルバイトは辞めていたが辞めた後も短期で手伝いをさせてもらうことがあったが、ただ今回の連絡は最後に会ってから7年以上も空いていた。
すぐにナオキさんからすぐに返信が来る。
「エーちゃん、久しぶり!今日夜時間あるなら会える?」
その日の夜に会うことにした。
久しぶりの再会で積もる話はあったがナオキさんはなぜ突然にこんな連絡をしてきたのか?など深く聞いてくることはなかった。
聞いてきたのはこれからの仕事のことだった。
「何系の仕事がやりたいとか、お金が欲しいとか、希望は?」
僕は即答する
「ただ、お金が稼ぎたいです」
「わかった」
そう言うとナオキさんはおもむろに電話をして誰かを店に呼んだ。
少し時間が経つと若い男性が1人来店し僕達の元へと来た。
「急に呼び出して悪いね、紹介したい子がいてね」
すると男性が答えた。
「ウチはやる気があれば、あとナオキさんが紹介する人であれば大丈夫ですよ」
僕を置き去りにしてどんどん話が進むが、この「強引」な展開は想定済みだった。
ナオキさんの店でアルバイトをしていた当時はまだ「ブログ」と言う言葉が世間に出たばかりでSNSもまったく一般的ではなかった時代にナオキさんのお願いでホームページを作らされたりした。
もちろん、それまで僕はホームページなど作った事なんてなく「ソフト」と「解説本」を渡されただけだった。
解説本を頼りにホームページを作りあげ、ナオキさんのくだらない日記や昔の武勇伝を面白おかしく書いたりした。
知り合いの多いナオキさんなのでなかなか好評だったらしい。
ナオキさんは自慢げに「ホームページを作ってくれたのはこの子」だと勝手に紹介をして僕は更にナオキさんの友人のホームページを作ることになった。
結果として僕としてはちょっとしたスキルを手に入れられる事ができて嫌な気分ではなかった。
店で働いていた皆がこんな感じでナオキさんに日々振り回されていたと思う。
あの頃と全く変わっていなかった。
少し飲みながら話をした後にナオキさんが僕とその男性に向かって言った。
「俺が自信を持って紹介できる1番稼げる店はここ!そして、エーちゃんは俺が自信を持って紹介できる最高のスタッフだから。どう、これでよくない?」
まさに「これにて一件落着」といった様だった。
ナオキさんらしい締め方だった。
そして帰り際にナオキさんは僕に言った。
「嬉しいんだよね、もう俺達出会って何年経った?エーちゃんは困って俺を頼って連絡してくれきてくれたんだよね?こんなに時間が経っても頼りにされてるんだって、嬉しいんだよ」
ナオキさんは満面の笑みだった。
そして僕は逃げるように会社を辞めた。
ナオキさんに紹介してもらったのは「焼肉屋」だった。
稼げるというのはとても勢いがあって羽振りの良い会社だというのが理由だった。
まずはアルバイトとしてスタートすることになる。
これは「金を稼ぐならアルバイトの方が良い」というナオキさんからのアドバイスがあったからだ。
子供はまだ小さく妻は子育てに追われて仕事はできない状態で旦那がアルバイトだなんてどれだけの人間が笑うだろうか。
惨めな気持ちよりもやる気が勝っていた。
僕はその店でがむしゃらに働いた。
汗をかいて一生懸命働くこと、沢山の人から必要とされ感謝されることで無くしていた自信を少しづつ取り戻すことができていた。
「働く」ことが「楽しい」と再び思わせてくれたお店だった。
そしてナオキさんが言った通り、1ヶ月の給料はこれまで社会人として働いていた時を超るようになる。
そんな矢先に久しぶりのS先生の占いができる機会が訪れる。
この時は僕が直接予約に申し込んだのではなく、愛ちゃんが予約がとってくれたのだ。
前回の占いから大分時間が経過していた。
以前とも場所も変わり、久しぶりに会ったS先生も見た目が少し占い師感が増していたように感じた。
S先生が手相を鑑定して言う。
「仕事、沢山変えたね?」
間髪入れずに続ける。
「今の所ではなく仕事探そう。
ちゃんと社員として働ける所」
ドキっとした。
正直今のお店でずっと働くかに関しては無意識に考えないようにしていた。
真剣に現実を見つめる時が来たのかもしれないと考えると、どうしても転職の嫌な記憶が蘇る。
そんな僕の様子を悟ってかS先生は言った
「今の所を選んだのは正解ね。でもずっといる場所ではないの、ここで力を溜めたら次に行かないと。
大丈夫、ちゃんと貴方が必要とされて活躍をして結果を出すことができるそんな会社に就職することができるから。
あなたがちゃんと働きたいと思える場所だから。
仕事が決まるのは35歳か36歳頃だと思う。
だから本気でやりたいことを探して準備をしよう」
この時すでに35歳であと半年もすれば36歳の誕生日を迎える時だった。
改めて仕事を探すことに関してはハッキリとS先生に意思を伝えられないままその日の占いの時間は終わりを迎えた。
S先生は玄関で僕を見送る時に言った。
「辛かったね。悔しかったでしょう?
でも貴方は大丈夫だから。」
部屋を出た僕はエレベーターが到着するまで泣きだすのを我慢できなかった。
一度も言葉にしたことはなかったけど、そう、僕は悔しかったんだ。
そこから僕は空いている時間を見つけては仕事を探すようにした。
求人サイトを見て転職サイトのスカウトにエントリーなどもしてみた。
スカウトが来るのは「車の運転手」や「お店の店長」などでピンと来るものではなかった。
時間だけが過ぎていく。
ある日、フィギュアメーカーの求人広告を目にする。
知っているメーカーだったこともあって、そこで働いている自分をイメージすることができた。
アルバイトに向かう電車の中で求人の登録を進めることにしたが途中で目的地に着いてしまう。
仕事が終わったら帰りの電車で残りの登録を進めることにした。
そしてその日の仕事が終わり帰りの電車の中で1通のメールが届いていることに気付く。
そのメールは求人の登録をしようとしていたフィギュアメーカーからだった。
「まだ登録できていないはずだけど?」
登録はもちろんできていなかった。
転職サイトの僕のエントリーを見たフィギュアメーカーがスカウトのメールを送って来たのだった。
メールはぜひ面接をする機会を設けたいという内容だった。
このタイミングには流石に僕も運命的な手応えも感じていた。
返信をしてすぐに面接をすることになった。
面接が終わり1週間が経たないうちに採用のメールが届いた。
僕はもちろん入社することを選んだ。
ずいぶんと前置きが長かったがS先生の占いの凄さはここでわかる。
僕が求人広告を見つけて面接を行った時が誕生日の直前つまり「35歳」だった。
そして面接が終わるとすぐに誕生日を迎え「36歳」になる。
そして、すぐに採用のメールが来たのだ。
S先生はあの時の占いでたしかにこう言っていた。
「うーん、仕事が決まるのは35歳か36歳頃だと思う。」
少し曖昧にも聞こえた答えは決して曖昧などではなく、的確に的のど真ん中を撃ち抜いていた答えだった。
そしてS先生の言う通り僕はこの会社でこれまでの経験を活かして多くの業務を任されるようになっていった。
これぐらいの時期になるとS先生の占ってもらう機会は減っていた。
予約がなかなか取れなかったのも理由の1つだが、S先生の占いをそれほど必要としなくなっていた。決して占ってもらう必要がないくらい順風満帆だったという訳ではない。
僕にはもう1人信頼している相談相手がいた。
そう、それが「愛ちゃん」だった。
S先生を紹介してくれた愛ちゃんはいつ頃からか「メッセージカード」や「リーディング」といったものを勉強して占いに近いことを始めていた。
最初のうちは練習みたいな感じで僕もお願いをした。
メッセージカードは「イラスト」や「色と」共に助言のようなメッセージが込められたものだ。
僕のお気に入りは「天使のイラスト」のカードでスマホ画面の待受などにしていた。
リーディングでは知りたいことに対して「YES」か「NO」で答えを導いていくというとイメージしやすいだろうか。
これにより愛ちゃんからアドバイスをよくもらったりした。
回数をこなすたびに愛ちゃんが上達して行くのがわかった。
それだけ勉強していたのだと思う。
姉の「それは」しっかりと「占い」と呼べるレベルにまで短期間で上がっていったと思う。
そして姉はS先生と同じ占い結果をするにまでなっていた。
S先生の最後にしてもらった占いはフィギュアメーカーに入社した後の1回だった。
先生に占いが当たったことのお礼も言いたかった。
だがこの時、1つの不穏な占いをされた。
「あなたはとてつもない怒りで会社を辞めようとする時が来る、でも辞めるのはその時じゃないから頑張って堪えてほしい。」
奇しくもこのS先生の占いも当たってしまう。
その会社の社長は女性だった。
社長は妊娠をした事をきっかけに会社に出社せずリモートに切り替わり週数回のオンラインMTGだけのやり取りになった。
妊娠中であることに加え、会社との距離もできてしまい思い通りにならなかったことも大きなストレスだったと思う。
元々ワガママな節はあったが、やがてそのストレスは理不尽な指示へと形を変えた。
何をやっても納得せずにダメ出しが続き、嫌がらせのように言っていることがコロコロと変わる。
オンラインMTGは社長のストレスを発散する場となった。
僕は自分自身怒りの沸点が低くないと自分で思っているが、この時の怒りは相当なものだった。
これがS先生の言っていたことだと理解した。
ただ、これを堪えて続けることに意味があるのかと愛想を尽かしている自分がいた。
会社を辞めると言う選択肢が頭の中をどうしてもチラつく。
そして僕は愛ちゃんに相談をする。
たまにはランチでもということで会って話をする事にした。
ファミレスでメッセージカード使ったりしたと思う。
愛ちゃんが結果を話す。
「なんか、なかなか出ない色が出てきて、、、
『もうどうでもいい』って、出てる」
僕の心境は本当に「それ」でしかなく思わず笑ってしまった。
ただ転職に関しては愛ちゃんも「NO」だった。
愛ちゃんは結果だけを伝えるのではなく、その結果を自分自身でしっかりと解釈した上でアドバイスをくれる。
このアドバイスがいつも的確だった。
その時出たメッセージは
「物事は目に見える姿とは違うことがある」
というものだった。
それを愛ちゃんは今の僕の状況を照らし合わせて
「社長は衝突してばかりかもしれないが、実は見えないところでは物事がちゃんと動いていて、うまくいっている」
という解釈としてアドバイスをしてくれた。
ここで言う「うまくいっていること」が何なのかを考えてみた。
この時僕は会社の周年イベントを任されていた。
恐らく社内でも過去1番の規模になるようなイベントだった。
今がどんな荒れた状況であれ準備を進めて、そのイベントが無事に成功するのであれば愛ちゃんのアドバイスに沿うものだと思った。
仕事に関して愛ちゃん自身も相当苦労してきたことをこの時初めて聞いた。
僕と似たような境遇の話もあった。
他にも「社長との向き合い方」などアドバイスを色々としてくれた。
話をしてスッキリしたこともあった。
その後、僕はイベントの成功だけに照準を合わせて会社の仲間と準備をひたすら続けた。
すると社長も出産をきっかけに嘘みたいに落ち着きを取り戻した。
そしてやはり過去1番の規模となったイベントも無事に展開することができたのだった。
正直S先生の占いの結果だけでは堪えられずに辞めていたと思う。
あの時会社を辞めずに堪えられたのは間違いなく愛ちゃんからのアドバイスがあったからだ。
愛ちゃんは会うたびに新しい何かを習得しているようだった。
その中で「四柱推命」は1つの集大成だと思っている。
僕も鑑定をしてもらったのだがまるで「自分の説明書」を見たようだった。
どんどん自分で道を切り開いて新しい世界へ進んでいく愛ちゃんはあの頃と変わってはいない。
だけどその距離はあの頃と違って遠いと感じることは無い。
この世界には暗闇で迷っている人に光を照らし進むべき道を教えてくれる人がいる。
これは僕が出会った「道を照らす人達」の物語。
ナオキさんと直接話をしたのは仕事の紹介をしてくれたあの日が最後になった。
次に会ったのはナオキさんのお通夜だった。
去年病によりこの世を去ってしまった。
あの時僕は間違いなく暗闇にいた。
助けを呼んだら照らしてくれた。
そこから僕には見えたんだ。
あなたが照らしてくれた道がハッキリと見えたんだ。
助けてくれて本当にありがとうございました。
このご恩は決して忘れることはありません。