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【ショートショート】『嘘月』Ep. 4-僕はあなたの-
「この世には自分に似ている人が3人いる」と言う話を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
そして「そのうち2人に出会うと死んでしまう」という話は「ドッペルゲンガー現象」としてあまりにも有名だと思います。
この"ドッペルゲンガー"の由来は「ドイツの民間伝承」と言われており「二重身」や「二重存在」を意味します。
"ドッペルゲンガー"は「肉体」から「霊魂」が分離して実体化した「者」であり、出会った人が「死」や「災難」にあってしまう「不吉の象徴」として信じられてきました。
18世紀末~19世紀頃には「ゴシック小説」が流行します。
その中でも幽霊や幻想的な話を取り扱ったジャンル「ゴシックホラー」は人気を博し"ドッペルゲンガー"が題材になるのは必然でした。
"ドッペルゲンガー"は後世の文学作品や映画などに影響を与えてきたと言われています。
そして多くの人に"ドッペルゲンガー"が知れ渡るきっかけにもなったと思います。
しかし、この現代において"ドッペルゲンガー"はそこまで不思議な話でもなくなっているのではないでしょうか。
昔には詳しく知られていなかった「遺伝子」の研究により、遺伝子情報の多くが同じであればその分似ている存在がいてもおかしくないということは「一卵性双生児(双子)」を説明する上でも一般的であり、もはや不思議なことではありません。
そういった「遺伝子」の研究がなされていない時代だったからこそ人々の恐怖を煽る話として人気を博していたのではないでしょうか。
そして、海外では血縁関係がなくても見た目がそっくりな人達を集めた研究が実施されたことがありました。
血の繋がりの無い赤の他人だけどもそっくりな何組ものペアが集められたのです。
いくつかの実験により集められたうち半数のペアは多くの遺伝子情報が同じだということがわかったのです。
つまりただ似ている、だけでなく遺伝子レベルでに似てるということが血縁関係がない赤の他人でも起こり得るという研究結果でした。
なのであなたにそっくりな人がこの世界のどこかにいても全くおかしくないのです、あくまで外見が「そっくり」という点に関してですが。
さて、今回のお話はとある日本男性の不思議な体験談をご紹介します。
僕は当時イベント会社に勤めていました。
結婚をしていて妻は妊娠がわかったばかりで家族の為にと仕事に励む日々でした。
ある時、僕の会社が香港でイベントを行うことになりました。僕は日本チームのメンバーとして現地でのイベントの対応をする為に香港へ出張することになりました。
現地で香港支店のチームメンバーと合流しました。
香港に滞在する1週間、イベント準備や会場の設営、イベントの運営を香港チームと合同で行います。
僕を含めて日本チームのメンバーは初めての香港ということで香港チームのメンバーは現地の案内も対応してくれました。
なによりも彼ら香港チームのメンバーは僕達に対してとても親切にしてくれました。
1週間の滞在期間中に香港チームと日本チームはとても仲良くなりました。
そして2つのチームはとりわけ1つの話題で盛り上がっていました。
日本チームの僕と香港チームのメンバーの1人がとても「そっくり」だということでした。
彼の名は「ウィリアム」。
実は滞在期間に僕とウィリアムを間違えて声をかけるという出来事がチーム同士のあるあるとして話題になっていたのです。
当人同士は似ているという自覚はなかったですが周りがそんな状況なので僕とウィリアムは自然と仲良くなっていきました。
ウィリアムもまた結婚をして生まれたばかりの子供がいるという点も意気投合した理由の1つでした。
香港でのイベントを無事に終え滞在期間の1週間はあっという間に過ぎます。
僕とウィリアムはまたいつか会う事を約束して僕達日本チームは香港を後にしました。
日本に帰って数日後、僕のfacebookにある通知が届きます、それはウィリアムからの「友達申請」でした。
僕はウィリアムの友達申請を承認するとウィリアムのfacebookの過去の投稿を見て面白いことに気付きました。
ウィリアムは僕よりも3歳年上でした。
ウィリアムの誕生日は「10月21日」、僕は「10月24日」と3日違いでした。
香港で直接ウィリアムと会っていた時は気付きませんでしたが、facebookに投稿されているウィリアムの写真を見ると皆が言っていた似ているという事がよく分かりました。
自分が見てもそっくりな画像がいくつもあったのです。
僕は妻にその画像を見せると
「これ、いつ撮影したの?」と妻も見間違えるほどでした。
僕はウィリアムに少し不思議なものを感じましたが、当時は日々仕事も忙しい時期でそれ以上のやり取りをするにまでにはなりませんでした。
ただ、決まって誕生日には必ずお祝いのメッセージが来るようになりました。
僕もまたウィリアムの誕生日にはお祝いのメッセージを送りました。
お互いの誕生日を祝うメッセージのやり取りは毎回このような言葉で締めくくられました。
「家族の為にがんばりましょうね。」
このやり取りは4年間続きました。
僕は勤めていた会社を転職しますが、
それでも誕生日のお祝いだけは続きました。
しかしある時、誕生日では無いのにウィリアムから突然メッセージが届きました。
「⚪︎⚪︎さん、お元気ですか?お仕事忙しくて無理はしてないですか?健康ですか?無理だけはしないでくださいね、家族の為に。」
突然のメッセージに何かあったのかと少し不安になりメッセージを返信しますがウィリアムからは、
「僕の事は心配しないでくださいね」とだけ返信が来ました。
実はウィリアムの誕生日が近かった事もあり、僕はウィリアムの誕生日のお祝いメールでとあるサプライズを伝えようしていたのでした。
そんな事を考えていたのでその時はそれ以上は深く聞くことはしませんでした。
そのメッセージからどれくらい経過したでしょうか。
仕事の休憩中にふとfacebookを開きました。
スクロールをしながら画面を流し見をしているといくつもの「黒い画像」の投稿が目につきました。
それらはウィリアムに対しての投稿でした。
最初は気にしていませんでしたがその意味がわかるともう一度その投稿内容を1つ1つ確認したのです。
「勘違いであってほしい」そう思いながら。
「I missing you.」
「Hey friend 〜R.I.P」
その言葉達で確信に変わりました。
ウィリアムはこの世を去りました。
後でわかった事ですが癌を患っていたようでわかった時にはもう手の施しようがなかった状態とのことでした。
僕はとてもとても悲しくてトイレに駆け込み泣いた事を今でもハッキリと覚えています。
僕ができなかったウィリアムへのサプライズ。
それはもうすぐ2人目の子供が生まれるという報告でした。
実はこの4年の間にウィリアムにも2人目の子が生まれて「男の子」と「女の子」の二児のパパになっていました。
そして僕も「男の子」と生まれてくる子の二児のパパになります。
そして産婦人科では生まれてくる子は「女の子」だと言われていました。
「これからは見た目がそっくりだけじゃなく、性別も同じ2人の子供のパパ同士ですね」と「ますます一緒に家族の為に頑張りましょう」と誕生日に伝えるはずでした。
それから何日間か過ぎても全く元気が出ませんでした。
たったの1週間一緒に仕事をして意気投合しただけの仲なのに、自分でも不思議に思っていた時に
ふと、ウィリアムが最後に送って来たメッセージのことを思い出しました。
あの時すでにウィリアムは自分が長くない事を知っていたと思います。
なぜ僕にメッセージを送ってきたのでしょうか?
当時僕は確かに2人目の子供も生まれてくる事もあり今まで以上に仕事中心の生活になっていました、多少の無理もしていました。
僕はしばらく行っていなかった健康診断へと行く事を決めました。
何かに後押しされた気持ちでした。
健康診断の結果、再検査が必要となり大きな病院での精密検査をする事なりました。
僕にも「癌」が見つかったのです。
ただかなり早い段階で見つかったので治療が可能でした。
僕はなんとなくですが、ウィリアムも恐らく気付いていて、もしかしたら「そっくり」という以上の特別な何か繋がりを感じていたと思うのです。
2人がもし同じ人生を歩んでいるのだとしたら?
少しだけ僕より先の人生を歩むウィリアムが僕を助けてくれたのだと僕はそう思っています。
そんなあなたがいなくなってしまったからこんなに辛いんだね。毎年、誕生日にお祝いをしてくれたのは家族とあなただけだったよ。
とても嬉しかった。
たとえどんなに違く離れていても、
こらからも家族の為に頑張りましょう。
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