【ss】僕らに名前をつけるなら
気が付けば君を目で追うようになって、
“たぶん好きなんだな…”と自覚してからは意識して君を見るようになった。
その頃からずっと、君を見る度に
同じように君を見ている奴と目が合う日々が始まった。
“きっと奴も好きなんだろうな…”
そう思いつつも話しかけるには至らないまま数ヶ月が過ぎた時、たまたま帰りが遅くなった俺の少し前を歩く奴。
「……あ」
思わず呟いた俺の声に振り返った奴もまた気まずそうに「……あ」と呟いた。
しょっちゅう目が合っていたのは勿論だがお互いクラスメイトな訳で、仲良しとは言えないものの知らん顔する程でもないという何とも微妙な感覚で。
仕方なく「よぉ」と小さく掛けた声に、奴もまた「おぉ」と返して。
お互い歩調を合わせるうちに、自然と並んで帰路を辿っていた。
「あのさ…」
最初は当たり障りのない話ばかり続けていたものの、何とも言えない探り合いのような時間は奴の真剣な声で終わりを迎える。
「なに?」
「いつも見てるよな…、アイツのこと」
「お前もだろ?」
「……まあ、…うん、そうだけど。
やっぱりさ、………好きなの?」
「………」
今更隠した所であれだけ俺達の目が合ってりゃ誤魔化しようもないって分かってるけど、
どうにも気恥ずかしいような言いたくないような複雑な思いに黙ってしまった。
そんな俺を察してか、奴は小さく息を吸い込んで
「俺は好きだよ、アイツのこと…!」と、強い口調で言いきった。
タイミングを逃すとは、まさにこの事だ。
こんなにキッパリ言われたらもう、どう答えていいかも分からない。
ひたすら言葉を探して黙り込んでいる俺に、奴は驚くくらい優しい笑顔で。
「ごめん、突然聞かれたって困るよな。もし俺が反対の立場だったら、きっと何も言えないよ」
なんか誤魔化すのが馬鹿らしくなったんだ。
「…いや、困ったとかじゃないんだ。
ごめん、好きだよ俺も。アイツのこと」
そう答えるなり奴は何故か嬉しそうに笑って。
「同じ子のこと好きってさ、最初は嫌だなって思った時もあったけど…。なんかだんだん嬉しく思えてきたんだ」
「はぁ?…なんで嬉しいんだよ?」
俺なんか今、目の前で堂々と宣言された事にさえ、若干の苛立ちを隠せないのに。
「きっとこういう所が好きなんだろうな…とか、こういう瞬間に可愛いって思うよな…とか、お前となら共感出来る部分が沢山ある気がして。
あの子の話、思う存分出来るんじゃないかって」
「お前さ…」
「ん?」
「共感とか、話が出来るとか…、そんなんで喜び合ってるうちに全然知らねー奴とあの子が付き合い始めたらどうすんだよ?」
「そりゃ困るよ!」
「じゃあもし俺があの子と付き合ったらどうよ?」
「それも…困る」
「ほらみろ。俺なんかと仲良く話してる場合かよ」
「でも今はまだお互い見てるぐらいで、あの子に話しかけれる程は仲良くなれてないんだし。
お互い情報とか共有しながら頑張ろうよ」
「なんだよ、それ」
こんな感じで奇妙な共同戦線が始まった。
相変わらず君を見てても奴と目が合ってしまうような日々だけど、奴の存在が俺にいい緊張感を与えてくれているような気もするんだ。
見てるだけじゃ誰かに取られてしまうかもしれない。
君のことを好きなのは俺だけじゃないんだっていう焦りが、少しでもいいから君と仲良くなる努力をしなきゃって思わせてくれるから。
友達なのか、ライバルなのかよく分からないけど…
奴のおかげで俺も頑張れているのだけは確かだ。
*end*
(ありがとうなんて口が裂けたって言うつもりはないけど、
お前は俺にとって友達よりもライバルよりも…もっと大切な存在だと思えたんだ。)
お読み頂きありがとうございました。
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