【ss】REPLAY
目を閉じると今でも鮮明に思い出せる。
夕焼けで赤く染まった音楽室と泣きたくなるようなピアノの音。
「あの時さ…」
「あの時?」
「うん。音楽室でピアノ弾いてた頃」
「いつの話よ。学生の頃のことだよね?」
「いや…、急に思い出してさ。
…てか、俺はあの頃のこと結構良く思い出してるよ?」
「なんで?」
「なんでだろ…」
何故かなんて考えたこともないけど、それはきっと俺にとって何より印象深い出来事だったからなんだろう。
「なんでかは良く分かんないけどさ。
それでもあの時、ピアノ弾いてくれててありがとな」
「なに訳分かんないことばっか言ってんのよ。まったくもう…」
だってあの日たまたま俺があのピアノの音に耳を奪われなかったら、きっとこうして二人で寄り添い合う未来なんて無かったはず。
君の存在に気付きもしないまま卒業してたかもしれないんだから。
「出会えてよかったなー…って思う度に思い出すんだよね。あの音楽室とピアノの音」
「そっか…、そうだよね。
昔はコンクールとか緊張するばっかりで毎回嫌だーって思ってたけど、それがなかったらきっとあの音楽室で練習なんかしてなかっただろうから感謝しなきゃだね」
「これからもたまに聞かせてよ」
「いいけど…、覚えてるかな?
すごい下手になってたらごめんね?」
「いいよ。それも新鮮だし」
二人の大切な始まりが新しい思い出として更新されるなら、上手でも下手でもどっちだっていい。
それを弾いてるのが変わらず君だってことが一番重要なんだから。
*end*
(少し物悲しかったあのメロディも君が奏でると愛しさが溢れてくるから不思議だね)
(何度聴いても聴く度にまた好きになる)
お読み頂きありがとうございました。
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