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ライラックの花束 #3
"はぁ…"
咲月:これ、まだやってんの?
美空:そう
まーたダメだったんだってさ
咲月:全く…
もう金曜日だよ?
ここまでくると、〇〇さんが可哀想だよ
美空:なぎ〜?
そんなにため息ばっかりついてると幸せ逃げてくよ〜?
和:もう散々逃げられてるからいいんですー
そう言い放ち、依然として、机に突っ伏したまま、ため息ばかりついている和
そんな和に同情…
ではなく
もはや呆れともとれる視線をむける咲月と美空
なぜこんなことになっているのか
月曜日
和母:今日から〇〇くんがうちに住むから
和:はぁ〜〜〜?!
母から衝撃の事実が伝えられ、和の素っ頓狂な声が住宅街に響き渡る
和母:あれ?今朝言ったと思うけど?
和:聞いてないよ!
てか、今朝にしたって遅いでしょうよ!
そういえば、朝、家を出る時に後ろで何か言っていたような気がしていたが、そんな大事なことを言っていたのか…
和母:ま、そういうことだからさ
あんたも、あのきったない部屋掃除しときな?
〇〇くんに見られてもいいの?
和:…うるさいなぁ!
そう吐き捨てて、ドタドタと自分の部屋へと駆け上がり、着替えも大概に布団に埋もれる
"この家に住む…?"
いきなり同じ高校に来たと思ったら、オケ部と共演したいなんて言い出して、それだけでも意味がわからないのに…
ピーンポーン🔔
自室で1人悶々としている和を他所に、インターホンが鳴り響き、母がいつもより2トーンは上がった声で、来訪者を家に招き入れる。
和母:あら、〇〇くんいらっしゃい!
〇〇:叔母さん、お久しぶりです
すいません、急なお願いで…
和母:いいのよ〜!
うちはいつでも大歓迎だから!
さあさあ、上がって上がって?
〇〇:お邪魔します…
和母:今日からは、貴方の家でもあるんだから、ただいまでいいのよ!
そうこうしているうちに、ついに彼がやってきてしまった
彼のために用意された部屋は、元々使われていなかった隣の部屋のようだ
美空と咲月のせいで余計に意識してしまう…
諦められない、なんて言ったものの、結局、私はどうすればいいのだろうか
悩んでいるくせに、どこか恥ずかしくて、強がってしまって、結局誰にも言い出せない
つくづく面倒くさい性格をしていると、自分で自分がイヤになる
いっそのこと、この想いすべて素直に吐き出せたなら、どんなに楽なことか
でも、私にはそんなことできるはずもない
だから、この感情に蓋をするように、私はヘッドホンをつけて、現実もろともシャットアウトするのだった…
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翌朝
"はぁぁ〜〜?!一緒に住むことになったぁぁ?!"
和:ちょ、声デカいって…
咲月と美空に事の次第を話した
咲月:それで?何か進展は?
和:まだ一言も喋れてない…
咲月:うわぁ…
相変わらずの拗らせ具合だねぇ
和:しょ、しょうがないじゃん…!
いきなりだったんだからさ…!
ほら、緊張とかするもんでしょ…
美空:そうだよね
"いきなり"だったんだもんね笑
咲月:そっかそっか〜
"緊張"してたならしょうがないよね〜笑
和:もうっ!
薄々わかってはいたものの、案の定のその反応に少し後悔する和
咲月:でもさ、ほんとにどうすんの?
まさか、このままずっと喋らないでいるつもり?
咲月の言うことはもっともだ
同じ家にいる以上、このままでいいはずがない
和:あ、明日までにはどうにかするから!
そう威勢良く宣言したはいいものの、結局、食事の時以外、まともに顔すら合わせることはなく、もちろん会話などあるはずもなく…
気づけば彼が来てから、5日が経過していた…
遥香:どうしたの?〇〇くん
そんな思い詰めたような顔して
お昼休み
一緒に昼食を食べていると、遥香からそう声をかけられた
〇〇:あー…
〇〇:いや、実は、月曜から従妹の家に住むことになったんだけどね
さくら:いいなぁ(ボソッ
〇〇:なんか、その従妹に嫌われちゃってるみたいで…
いまだに話すどころか、目すら合わせてくれないんだよね…
遥香:え、いまだに?
今日金曜日だよ?
なにか思い当たることはないの?
〇〇:それがないから困ってるんだよ…
徹底的に避けられてるから、聞くにも聞けないし…
さくら:単に従妹ちゃんが緊張してるだけかもよ
遥香:いやいや、そんな笑
さくちゃんじゃあるまいし笑
さくら:ちょっと、かっきー?
遥香:ごめんごめん笑
でも、話しも出来ないとなると、探りようもないよね…
さくら:そういうのは時間薬だと思うよ
従妹ちゃんも、何か理由があってそうなってるんだろうから、焦らないで、待ってみたら?
遥香:いやぁ、さくが言うと違うね〜笑
さくら:ねーえー!
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たしかに、初めは茹でダコみたいだったさくらも、この5日で、ようやくちゃんと話せるようになったのだ。
〇〇:やっぱ、それしかないかー…
しかし、この日も、会話はおろか、目が合うことすらないまま、夜は更けていった。
翌朝
和の家に住み始めてから、初めて迎えた週末
4月も後半とはいえ、まだ少し肌寒い早朝から、1人散歩に出かける〇〇
「はぁ〜…どうすりゃいいんだか…」
歩いていても、いや、何をしていても考えるのは和のこと
彼女と会わなかったこの6年間、正直にいえば辛いことのほうが多かった。
もうピアノなんて辞めてしまおうかと思ったことなんて数知れない。
それでも、ここまでやってこれたのは、他でもない、あの約束があったから。
〜〜〜〜〜
和:私も、もっともっと、ヴァイオリンうまくなるから
だからね、〇〇くんのピアノと、また一緒に弾きたい!
そういって
精一杯の笑顔を見せてくれたから
だから僕も
〇〇:もちろん!
僕も絶対上手くなって
絶対にまた戻ってくるから!
また一緒に弾こう!
そう笑顔で返して
そして
和:約束だよ…?
〇〇:うん、約束!
指切りしたんだ
〜〜〜〜〜
"絶対に上手くなって、
絶対にまた戻ってくるから!"
そう言った以上、絶対に中途半端なことはしたくなかった。
どうすれば、和にも認めてもらえるだろうか。
出した答えは
"世界一のピアニスト"になることだった
そして、ようやく自分でも胸を張れる成果を手に入れて戻ってきたけれど、それと引き換えに経過した、この6年という歳月が変えてしまったものは、あまりにも大きかった
この5日間、昔のような笑顔を見せてはくれないし、それどころか、目を合わせてすらくれない…
その現実に、今までの自分がいかに思い上がっていたかを思い知らされた
約束ばかりに囚われて、取り憑かれたように結果だけを追い求めて、それでいて、和もきっと同じ気持ちだと信じて疑わなかった
結局、その全ては自己満足でしかなかったのかもしれない…
どれほど歩いてきただろう
考え事をしているうちに遠くまで来てしまったようだ
そこに、ふと、どこからか懐かしい甘い香りが漂ってきた
その香りに誘われ、その先の公園へとさらに歩みを進めると
朝露の煌めく芝生の先、木立の中にあの花が咲き誇っていた
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「 "一生のうちにただ一つの幸福に
めぐり合うのが私のさだめ" か…」
「よしっ…」
週末なのに、また変わらない朝を迎えてしまった…
目が覚めることが、こんなに嫌なことだったことはない
全て夢だったらどんなによかっただろう
しかし、現実はしっぺ返しとばかりに、憂鬱となって重くのしかかる
重たい体をなんとか持ち上げ、リビングへ向かおうと防音室の前を通ったときだった
少し空いたその扉から、懐かしい旋律が聞こえてきた…
ラフマニノフ作曲
『ライラック』
忘れられない…
忘れるわけがない…
あの時、最後に2人で演奏した曲だから…
わたしはそこから動けなくなった
そして…
"グスッ…うぅっ…"
弾き終わって、扉の方を振り返ると
〇〇:和…さん…?
和が泣いていた
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和:覚えててくれたんだ…
〇〇:もちろん
忘れるわけないよ
指切りしたでしょ?
和:わたし…ごめんなさい…
〇〇…くんはもう遠くに行っちゃったんだって…
それで、勝手に遠ざけてたの…
〇〇は和に近寄ると、いつかのように頭をそっと撫ぜる
〇〇:僕の方こそ、待たせちゃってごめんね…
和:ずっとずっと待ってたんだよ…?
〇〇:ごめん…
和:でも…
こうやって覚えててくれたから
それでいいの…
そう答えると、和はいつかのように目を細めて笑顔をみせた
![](https://assets.st-note.com/img/1728221246-Rbjcalo4pXE9q1CfsWIth0Yw.jpg?width=1200)
〇〇:やっと笑ったね
和:もっと…
〇〇:甘えん坊になるのは変わんないか笑
どのくらい撫ぜていただろう
和が〇〇の方へ向き直る
和:そういえば、どうしてうちのオケ部とコンサートしたいなんて言ったの?
〇〇:そりゃ、和さんが…
乃木学に入ったって聞いたからさ…
また一緒に弾けたらなって思ってたし…
それに、ほら…!
あす姉との約束でもあったからさ…!
だから、あんな提案したんだ
そしたら、思いの外規模が大きくなっちゃって…
和:へぇ〜笑
飛鳥お姉ちゃんとの約束か〜
わたしも気合い入れなきゃ!
〇〇:よし!
じゃあ、またアレやろうか?
和:やりたい!
楽器取ってくる!
そういうと、和は大急ぎで部屋へと戻る
楽器を取ろうとしたとき、一枚の写真が目に入った
![](https://assets.st-note.com/img/1728310491-JYKHaPGp9jbihqM1snCkg3Br.jpg?width=1200)
飛鳥お姉ちゃん
ごめんなさい…
私は約束守れないかもしれません…
〇〇くんは
私なんかよりも
ずっと器用で
ずっと大人で
ずっと出来た人でした…
今は、こうして彼のそばに居られるだけで
それだけで十分だと思ってます…
〜To be continued〜
#3