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ライラックの花束 #2



オケ部:「「「えぇーーー!!!」」」 


いきなり転校してきた世界的ピアニストは、無名のオーケストラ部と共演したいと言ってきた。
しかも、わずか4ヶ月後に、あのクラシックの聖地"茜坂ハーモニーホール"でコンサートをすることまで決まっているというのだ。

青天の霹靂ともいえるこの発表に、騒然とする第一音楽室

生田:いい反応だねぇ〜笑

部員B:いやいや、ハーモニーホールといえば、クラシックの聖地じゃないですか?!

生田:恥ずかしくない演奏しないとね!

梅澤:曲目とかも決まってるんですか?

生田:決まってるよ〜!

そして、生田先生から詳細が伝えられた
 


演奏する曲目は

・ガーシュウィン作曲
  「ラプソディ・イン・ブルー」

・ラフマニノフ作曲
  「ピアノ協奏曲第三番」

パート分けについては、希望を聞いた上で、オーディションを行なって決めること

オーディションは、各パートごとに、2曲の中から指定の部分を演奏すること

この2曲の他に、各学年の選抜者と〇〇で小曲を一曲ずつ演奏すること


生田:こんなところかな。
〇〇くんからも何かあれば。

〇〇: えーっと…
今までは、パートやプルトは学年で決めていたと聞いています。
ですが、今回はオーディションで決めることになりました。
なので、1・2年生の皆さんにもチャンスがあります。
小曲については、まだなにも決めてません。
練習やオーディションを見て決めようと思ってます。

"皆さんの、皆さんだけの音を聞かせてください。"

以上です。

生田:また明日も、希望聞いたり、課題の楽譜配ったりするから、ここに集合ね〜
よし、じゃあ、今日のところは解散!

オケ部:「「「はい!」」」


解散の号令ととともに、片付けに入る面々
すると…


生田:うめ〜、やま〜、ちょっと準備室に来て〜!
〇〇くんもついてきて

うめ、やまと呼ばれた2人と生田先生、〇〇は準備室へ向かう

生田:じゃあ、まずは、あいさつしとこうか!

〇〇:改めまして、齋藤〇〇です。

美波:オケ部の部長で、ホルンやってます
梅澤美波です

美月:副部長で、一応コンミスやってます
山下美月です
昨日のコンサート2人で見に行かせてもらいました…

完全に萎縮してしまっている2人
世界的ピアニスト相手に無理もない話だが…

〇〇:梅澤先輩に山下先輩、ありがとうございます
年下なんで、そんな畏まらなくてもいいですよ笑

美波:いやいや、そんな…

生田:はいはい、そんな固くならないの
これから一緒にやっていくんだから慣れてってよ〜笑

美波・美月:善処します…


生田:今回の話だけど、2人はどう思った?

美波:そりゃ驚きましたよ…
まさか、うちの部でこんなことやるなんて、思ってもないですから…

美月:私もです…
でもちょっと楽しみでもあります
こんなチャンス滅多にないですから…!

生田:お、いいじゃん。

生田:それでね、2人には先にラフ3のスコア見てもらおうと思って

そう言われ、生田先生から渡されたスコアを見る2人

生田:どうよ

美波:覚悟はしてましたけど、かなり難解ですね

美月:難しいけど、4ヶ月あれば大丈夫じゃない?

美波:そりゃあんたは経験者だからね
まあでも、やらないとですもんね

生田:私もできると思って、GOだしたからね
やってもらわないと!

美波:それにしても、オーディションで全部決めるとは思い切りましたね?

〇〇:実は、オーディションで決めるのは、僕から言い出したんです。
皆さんの音を聞いて、ちゃんと判断したくて…
そこだけは妥協したくなかったんです。

美月:その方が燃えるので、私は大賛成です。
今年は、うまい子がいっぱい入ってきてるし、現コンミスとしての意地があるんで、正々堂々決めたいです。

美波:和ちゃんとかすごいもんね〜
私も呑気に構えてられないかも…

〇〇:へぇ〜…そっか…(ボソッ

生田:それで今度の連休にでも、オーディションをやっちゃおうと思うんだけど、どう思う?

美波:いいんじゃないですか
本番まで4ヶ月も無いですし、練習期間とか考えたら、結構カツカツですもんね

生田:それじゃ、明日この話も全体にするから、よろしく〜
それじゃ、うめとやまは引き留めて悪かったね
お疲れさーん!

美波・美月:失礼しました!

そう言って美波と美月は帰っていった。

生田:提案通ってよかったね!

〇〇:そうですね

生田:でも、笑顔の理由はそれだけじゃないでしょ?

〇〇:まあ…はい…
というか、ご存知だったんですか?

生田:飛鳥から聞いたことがあってね〜
ななみんからも聞いてるよ
約束があるんでしょ?

〇〇:さっきは目も合わせてもらえませんでしたけどね…

生田:まあまあ、そのくらいで気を落とすでないよ、少年笑
さて、じゃあこのあとは?帰る?

〇〇:ここで練習していってもいいですか?

生田:もちろんいいよ〜
私も聞いてみたいし!

そこから〇〇はみっちり2時間練習に勤しんだ。



同じ頃
校舎の屋上

「はぁ〜〜〜っ…」

朝の憂鬱のタネはどこへやら、夕焼け色に染まり始めた空

また一つ幸せが逃げていく

私の憂鬱は結局晴れることはなかった
それどころか、朝よりひどくなっている

ガチャ

??4:こんなところにいた

??3:気づいたら居なくなってたから、心配したんだよ?


"和"


和:さっちゃん、美空…
ねえ、私どうしたらいいんだろ…

2人を一瞥もせず、和は続けて喋り出した…



10年前

初めて会ったその人は
私に音楽の楽しさを教えてくれた

それからは彼との楽しい思い出で溢れていた
会えばずっと2人で音で遊んで
上手く弾けたら褒めてくれて
頭を撫ぜてくれた

だけど
6年前のあの日

"僕、もうここには来れないんだ…"

突然そう告げられた


泣きじゃくる私の頭を撫ぜてくれた彼に

和:私も、もっともっとうまくなるから!
だからね

"〇〇くんのピアノと
いつかまた一緒に弾きたい!"

そう言って

指切りした


それからというもの
私は毎日欠かさずにヴァイオリンの練習をした

彼にまた褒めてほしかったから


彼にまた頭を撫ぜてほしかったから



"彼に見合う相手になりたかったから"



でも、彼はもっと遠くへ行ってしまった

いまや、その活躍は日本に留まらず

ついには、世界三大ピアノコンクールの一つといわれる、ショパンコンクールで優勝まで果たした

そんな中、昨日行われた彼のコンサート

私のために帰ってきてくれた
なんて
淡い期待も少しはあった

けれど
いざコンサートが始まると
そんな甘い考えは
いとも簡単に打ち砕かれた

凄いなんてものじゃない
言葉では言い表せない
もはや神がかり的な演奏だった

"もう無理だよ…
あんなの追いつけるわけないじゃん…"

そう思うと涙が止まらなかった


だけど、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼はまたわたしの前に現れた


しかも共演したいって




和:ちっちゃいころの思い出をいつまでも引きずって、バカみたいだって…

そんなことわかってる…

わかってるんだけど…

でも、こんなんじゃ

"諦められないよ…"


咲月:やっと言った…

和:え…?

咲月:〇〇さんの話するとあからさまに不機嫌になるしさ?
昨日なんて、泣いて帰っちゃってさ
今朝だって、遅刻寸前に来たと思ったら、課題やってないわ、目腫れてるわ
挙げ句の果てに屋上で黄昏ちゃって
諦めきれてないことくらい見てりゃ分かるわ!

和:うっ…

美空:でもさ、別にもう諦めなくたっていいんじゃん?
今こうやってまた戻ってきてくれたんだからさ?

和:そうだけどさ…
相手は世界的ピアニストだよ…?
かたや、私はといえばただの女子高生
今更相手になんかされないよ…

咲月:それ言っちゃえば、そもそもなんでうちのオケ部と共演したいなんて言ってきたのって話じゃん

和:そうだけど…
そうなんだけど…


美空:じゃあさ、私たちが〇〇さんと付き合っても文句ないよね!

和:え、なんでそうなるの…?
今までの話聞いてた?

美空:えー?
いや、だって、そうは言ってもさ、みーきゅんも〇〇さんのこと好きになっちゃったしー?

咲月:私も〜
あんな演奏見ちゃったら、惚れちゃうよね〜

和:くっ…

美空:そういえば〜、昨日のコンサートに遠藤先輩と賀喜先輩も来てたみたいだし、山下先輩と梅澤先輩も来てたって話だったよね〜

咲月:ほかにも〇〇さん好きっていってる子いるし、敵は多いよ〜
うかうかしてると、取られちゃうよ〜

和:…っ!
ほらっ…!
早く帰るよ…!

この場に耐えきれなくなった和は、そう言うが早いか、階段への扉に急いで向かう

咲月:な、逃げなくてもいいじゃん!

2人も後を追うように屋上を後にした。



朝と同じ道を、朝よりさらに重い足取りで歩く和

朝よりさらに長くかかって、ようやくたどり着いた自宅の前にはトラックが来ていて、なにやら荷物を運び込んでいる。

和:ただいま〜

和母:あー
おかえりー

母もなにやら慌ただしくしている様子

和:これは一体、なにごと?

和母:なにって、今日から〇〇くんがうちに住むから



和:はぁ〜〜〜?!



1時間ぶり、本日2度目の和の驚きの声が、今度は住宅街に響き渡った。



〜To be continued〜



#2 

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