06年3月19日 東京荒川市民(現:板橋City)マラソン
5回目のフルは初めての東京荒川市民マラソン。42歳。とにかく風がきつかった。ゼッケンが引きちぎられるなんて初めて見た!振返りたくもないが記憶を残そう・・・。
まさか、こんなことになろうとは!
レース後半、およびゴール直後には「このレースには2度と出ない」と思った。それほど精も魂も尽き果てた。大袈裟ではなく、立っていても座っていても何をしていてもとにかく苦痛の極み。疲労困憊とはこういうことなのか?いままでのレース、いや、今までの人生、たとえば大学體育會の合宿でもここまで動けなくなったことはなかった。走りきれた満足感、一応、自己ベストの達成感を感じるのは夜になってからであった。
折り返しの11時頃から強くなった風は、まさに向かい風、時折風速20m以上もあっただろう。帰宅の際、今日のコースを陸橋でまたいでいく新幹線が、あきらかに減速走行している。「あぁ、やはりそんなに風が強かったんだ」と感じ入った次第。あの「花嫁」はどうなったのだろう・・・・・
前日、カーボローディングのために家族でサイゼリヤ、スパゲッティWサイズを食す。そのまま会場に赴き、前日受付を済ませ、帰宅後ゼッケン&チップを取付けた。天気予報ではスタート時には晴れる予定。長袖にするか迷ったが冬用ランシャツ、短パンとした。夕方は愚息とスーパー銭湯でリラックス。21:00過ぎに就寝。
当日の起床は6:00。恒例の牛丼すき家に赴き「キムチ豚丼トン汁セット」を食す。珍しく嫁さんが会場まで送ってくれた。会場着は8:10。長蛇の列に並び小用を足す。ジップアップトレーナーとパンツを脱げば、もう準備完了。前日受付を済ませたので簡単でいい。荷物を預けたのがスタート10分前。最後にウイダーインゼリーを一気。指定通りのスタートブロックに入る。ゼッケンは自己申告タイムで決定されるらしい。
9:00丁度、スピーカーを通して「プシュン!」というチンケなピストルの音が聞こえた。昔実家で飼っていた柴犬のクシャミを思い出した。出場者数18,000人とか?やはりなかなか前に進まない。聞いていた通りの渋滞だ。スタートライン通過は7’18。あせる必要はない。今日の目標はkm6分のネット4:13。うまくいってのSUB4。
スタート直後に埼京線&新幹線のガードをくぐる。天気予報どおり、雲が切れ明るくなってくる。快晴といっていいほどの好天に。しかし、腹の立つ奴が多い。ゼッケン№が大きいくせにチンタラ走っている奴。その№なら本来のスタート位置はもっと後方のはず。インチキして前に潜り込んだのなら、せめてそのレベルで走りやがれ!!何人もいやがった。
京浜東北線のガードをくぐり、5km通過が28’17(ネット。以下同じ)。渋滞を考えればこんなもの。ありゃ、トイレに行きたい!スタート直前のゼリー一気が余計だった。自分が尿意を覚えると、コース脇で立ちションをする男性ランナーが後を絶たないことに気がつく。「ランナー」誌によると、女性ランナーから見て耐えられない光景であるらしい。そりゃそうだ。ごく当たり前のマナエチだわな。紳士はトイレを探す。荒川河川敷だからコース脇にはいくつもトイレがある。待つことなしに用を済ませられるトイレを探しながら・・・「よし、見っけ!」空いているトイレを発見。待ち時間ゼロで小用を足した。ロスタイムは40秒程度であろう。楽になった。
10kmまでの5kmも28’17と先の5kmと同タイム。つまり小用の分40秒だけペースアップした計算。順調順調。だがまたしても腹の立つことが・・・給水所でのオッサンランナー「早くしろよ!」「前にもありますから!」「なんだ、それなら早く言えよ!」だって。一所懸命給水を用意してくれる係員にクレームをつけるバカがいる。おまえ、ここで10秒を争うようなランナーかよ!!頭に来たが、怒鳴ることもできない。気分だけを害した。
東武線、京成線のガードをくぐって15km。この5kmは27’14。15km直前でコースが狭くなり、一度立ち止まったのには驚いたが、引き続き順調である。
総武線のガードをくぐって20km。埼京線から総武線までだから20kmって長いと実感する。この5kmは27:22。安定したペースと言えよう。そこから1.0975kmいって折り返し。ハーフを1:56台で通過した計算。さぁ半分だ!!当たり前だが逆方向に進路を切る。そこから風が強くなる。向かい風だ!
意地の悪い方なら「行きは追い風だったんだろう?」と思うであろうが、11時ごろまでは追い風は弱かったのよ。後日、気象庁のHPで調べたら埼玉南部の風は9:00北4m、10:00北北西5m、折り返しの11:00同9m、12:00同10m、13:00同9m、14:00同12mとなっていた。やはり私が折返した11:00頃から風が強くなったのだ。コースは河川敷だから吹きっさらし。前記の気象データより強風であったのは間違いない。
まわりのペースが落ちていく。私は大柄なランナーを見つけて「ヤドカリ作戦」。私の後ろにもマゴヤドカリが続いていたようだ。約5kmを追走した。その途中の25kmまでの5kmは28’02。向かい風をものともせず引き続きいいペース。ただ相当脚を使っている気がしていた。
ヤドカリしていたランナーが途中の給水でいなくなってしまった。水を飲むのに立ち止まったから、私が追い抜いた。すぐ追いついてくるだろうと思ってスピードを緩めて待っていたのだが、後ろを振り返っても姿が見えなくなった。ほかに適当なヤドカリガイも見当たらない。自力で進む。
その頃だったろうか。逆風の最中、「こいつ、絶対に後悔しているはず!」というランナーを発見!いろいろなコスプレランナーはどの大会にもいる。フルだとさすがに少ないが、今日もアフロカツラや、お祭りの格好(法被に襷掛け)をしたランナーもいた。「でも、お前、今日の風の中それはないだろう!」・・・なんとウエディングドレス!!裾を持ち上げながら走っているが、それでもフレアのスカートや、肩のあたりのレースがバッタバッタ煽られている。自業自得といえばそれまでだが、追い抜きざまに「今日のこれは大変ですねぇ!」と声をかけた。もっとひどいものを見た。「ええ。」とすがるような目つきで私を見上げた花嫁は、どう見ても厚化粧50代。たぶん20年前なら美人の部類に入ると思うが、太い眉毛は今風ではない。それ以上話しかける意欲を全くなくした私はスタスタ前方に進んでいった。あの上目遣い、しばらくうなされそうである。でも、後半さらに風速が増す中、彼女がどうなったのか興味は残る。
このレースはエイドステーションが充実している。3km置きにはある。後半になると腹も減る。「おっ!アンパンだ」と一口サイズに切られたパンを口に放り込む。ねっちゃ~と具が口に出てくる!「げ!このアンおかしいぞ!」と一瞬吐き出しそうになったが、よく味わえばチョコレートパンというだけだった。
30kmが近くなると、さすがに疲労を感じる。風が一瞬弱くなると脚が伸びる気がするから、タイム以上に脚を使っているのは明らか。30kmまでの5kmは29:10。その時点でネットタイムは2:48を切っている。ここまでは予定通りのペース。残りをkm6’00のペースでいけばサブ4である。「風よ!止まれ!」と何度も心で叫ぶが、全く無視される。
その次の1kmは6’01。遂に6’00を超えた。風はどんどん強くなる。たぶん1kmあたり風で20秒はロスしているのではないかという気がする。31kmを過ぎ、ここからが本当のマラソンの苦しさ。気合を入れなおす!
気合は入れなおすが、脚はもうダメ。絶えず吹き続く逆風は、時に突風となる。横を走る女性が風でバランスを崩してぶつかってくる。「ごめんなさい」と謝られ、目をあわすと、30代位のなかなかの美人で初恋のゆかりちゃんに似ている。すかさずアドレスを聞き出した。なんていうことはありえない。「いや、ほんと参りますよねぇ」と爽やかに置き去りにした。
33kmくらいだったかな。ガタンと脚が伸びなくなってきた。1km7’00程度に落ちたことを自覚する。折り返してから逆風の中、ここまでは抜く一方だったが、ここからは抜かれるほうが多くなってきた。まだまだペース配分が甘いのだろう。35kmまでの5kmは33’37、この時点のネットで3:22。サブ4はあきらめて、当初の4:13を改めてターゲットにすえる。
もう限界に近い。あと7km。風はますます吹き荒れる。「気力までは吹き飛ばされないぞ!歩かないぞ!」と思いながら「思い切って停まってストレッチをすることも効果的」ということを思い出す。丁度そこで「荒川名物シャーベットステーション」に辿り着く。停まって、まずオレンジシャーベットをいただく。おいしい。口の中にスーッと清涼感が広がる。軽くストレッチ。全身を伸ばして、次にゆっくりと前屈。股関節を広げ、伸脚。屈伸すると大腿と膝が爆発しそうなので後はアキレス腱。体が少しは軽くなった気がする。ここで自らの卑しさが出る。「どうせ停まったのだから、レモンも食べていこう」とレモンシャーベットもいただく。う~ん、順番としてはレモンが先のほうが良かったかも。先にオレンジだったからレモンは酸っぱい。
シャーベット休憩をしているランナーは多数いたのだが、目を引く女性ランナーがいた。ものすごい美人。街中で見ても振り返るような方であった。ユニフォームをみると「○○公園ジョギングクラブ」となっている。あとで知り合いに聞いてみよう。
2分くらいはロスしたのかな。また走り出す。もうペースは上がらない。あれ?先ほどの美人が歩いている。抜き去る際にも横目でチェック。やはり綺麗。一瞬和むが、逆風は吹き荒れる。特にラスト5kmの岩淵水門。高さ20mくらいなのかな。水門壁が風を遮断しているのでその前後は突風が舞う。ビル風のようなものだろう。179cm79kgの私の身体がぐらつく位。ここは風速20mなんてものではないはず。「イテッ!」左足を蹴飛ばされた。振り返って犯人を睨みつけようとしたが、背後には誰もいない。もう一度左足に何かがぶつかる。今度はわかった。なんと自らの右足が、突風に流され左足に当たるのだ!右足を睨みつけても、何の効果もない。
前のランナーの動きが止まるように見える。そのくらいの風力だ。突如、前ランナーの背中のゼッケンが破れる!風圧で!!そんなのを目にするのも初めてだ。その水門をあとにすると、もう限界。あと5kmの長かったこと長かったこと。私を抜いていくランナーの背中のゼッケンは、引きちぎれていたり、破れていたりするものが多く見られた。
ラスト3km、先週下見がてら走ったところ。「先週はいい陽気だったのにな」と恨めしく思うだけ。あっ!走り出した美人に抜かれた。と思ったら美人さんまた減速。抜き返した。
40kmまでの5kmは実に40’58。ストレッチのロスを差し引いても泣けるタイム。4:13も夢と消えた。
ラスト1kmで「最後はきちんと走りたいな」と思い、再度停まってストレッチ。約30秒ほどかな。後からわかったが、ここで美人さんにまた抜かれたようである。本当に最後の戦いに挑む。
風はまだまだ強い。ゴール近くなると砂塵が舞うのが見える。一歩一歩脚を運ぶ。一応走ってはいるがラスト1kmでストレッチをした効果は殆どない。埼京線の線路をくぐる。国道をくぐる。近くに見えるゴールゲートまでなかなか辿り着かない。瀕死の状況でやっとゴール!!「歓喜のゴール」と言いたいが、そんな余裕はない。もう何もしたくない。
ふらふらとゴールエリアに入り、腰を下ろせる場所を探す。下手にかがむと脚が爆発するだろう。ゆっくり腰を下ろそうとしたがバランスを崩し、左手を地面に突く。手首に電気的な衝撃!やばっ!やっちゃったか!・・・・大丈夫であった。座っていても何をしていても大儀。本当にもう何もしたくない。ストレッチも思うようにできないほど参っている。それでもチップを外し、容赦の無い風で身体が冷え始めているのを自覚したので立ち上がる。荷物置き場でリュックを回収し、着替えるためにスタンド(河原の土手)に赴く。着替えるのもままならない程の風。もう面倒だから、そのままジップアップトレーナー、パンツを着込んだ。過去50回以上レースに参加しているが、着替えをしなかったのも初めて。そのくらいの突風であり疲労困憊であった。知り合いを探して挨拶をせねば!とも思ったが無理。「明日メールで許してもらおう」と失礼することにした。土手を登りきると、新幹線が減速走行しているのが見えた次第。
嫁さんに電話。「迎えに来てくれ」と懇願。戸田橋をふらふらと渡る。橋の上は依然突風。「まだ吹くのかよ!!荒川の右岸まで迎えにきてもらえばよかった」と思ったがもう遅い。瀕死の身体を引きずり、15分以上歩き、やっと車までたどり着いた。「参った」と車に乗り込むが、嫁さんは「珍しいわね」だけ。助手席をリクライニングに倒し、大あくび。その瞬間、あごの下が攣った。生まれて初めての体験。あくびも許されないのか!脚だけが痛いのではない。全身がとにかく参っている。かくもヘビーかつハードな体験であった。
嫁さん「あなた、お昼はどうしたの?」だって。「走って河原でゴールしたんだから、昼飯なんて食っているわけないだろ!ただ今日は給水所にアンパンとかチョコパンがあったから、ちょっとは食べた。」「ご馳走ね。」バカヤロー!!!
後日、知ったのだが、30kmのエイドステーションで食べた俵型の小型オニギリ。金メダリスト・荒川静香のCMの「金芽米」だったそうである。もっと味わえばよかった。
自宅についてシャワーを浴び、遅めの昼食を摂り、居間で横になったら寝てしまった。30分ほどだが、だいぶ身体が楽になった。愚息をつれて連日のスーパー銭湯に行ったところ満車!マラソン帰りの人も多いのだろう。それでも10分ほど待って入れた。脱衣所の鏡に映る我が身体は、ランシャツの後がくっきり残っている。3月中旬にして今シーズンの日焼けが始まった。ひりひりする身体でも、ゆっくりお湯につかり、フルーツ牛乳を飲んでリラックスした。
帰宅してようやくタイムが気になった。ゴールタイムは4:28’○、ネットだと4:20’47。「あれでも自己ベストだったんだ。あの風の中、よく走りきれたよな」と少々感慨にふける。「げっ!ラスト2.195kmに17’50もかかっている!いくらストレッチをしたにしても・・・。35kmからのラスト約7kmに59分かよ!」という情けない思いもある一方、「でも折り返してから2:20以上、風と格闘していたのか」というわが身を労わる思いもあり、悲喜こもごも交錯した。一応自己ベスト、最後まで走りきったという達成感もあるが、目標の4:13を下回る敗北感のほうが強いのはしょうがないだろう。
その夜はあまりアルコールを飲む気にもならなかったが、350缶2本は空けた。もうそれ以上は飲めなかった。
とにかく「今回は風」であった。当日の夕方から夜のニュースでも「風」が話題になっていた。自分の目で見た新幹線の減速運転、荒川近くを走るJR武蔵野線の運休等交通機関の大きな乱れ、飛来物によるけが人も出たそうである。都心での最高瞬間風速は33mとか?ラスト5kmの水門の風はそのくらいあってもおかしくないだろう。
ゴール直後「こんなレースは2度と出ない」と思ったのは、04年1月の「谷川真理ハーフ」でも風に悩まされたから「荒川河川敷はもう勘弁」と思ったことによるが、今日の風は明らかに特異現象だったようだ。
この大会はコースはほぼ平坦。エイドステーションは今までのレースで最も充実している。沿道では「荒川春まつり」も同時開催されていて応援の太鼓等も楽しい。景色が単調なのを我慢すれば、ベストを狙えるべき大会だと思う。青梅の1ヵ月後というスケジュールも望ましい。来年は東京マラソンも2月に開催されるのであわせて出場を検討したい。
ただ、風。これには本当に参った。
以上