見出し画像

木々の香りを纏う男達、その香りは静かに破滅を誘う。

先日、職場の先輩と雑談してたら、予想外に盛り上がった話題がひとつある。それが「ウッディ系の香水をつける危険な男」。これ安っぽいやつじゃない、最低でも4万円はしそうなやつだ。もう呪術師が数年かけて作った秘薬みたいな香り。先輩と話しているとなぜかヒートアップしちゃって、「そうそう、パルファンでさ、複雑なノートが絡み合うやつね。ラストにムスクの余韻が残る感じの!」とか言ってて、完全に香水ソムリエだ。で、確かに一理あるんだよ。そういえば、昔の職場にいた後輩が、「イソップ」のウッディ系香水を浴びるように使ってたんだけど、あれは香害。小僧が背伸びしてつけてみる香りではないのである。ここで言ってるのは、その完璧な「甘くて危険な神秘の香り」を自分のものにしてつけこなす危ない大人の男のことだ。

実際、東京で出会った男の中に、その“危険な香り”を体現してる人がいた。二人ほど。近づくだけでクラクラするほどの良い香り。これ、普通に考えたら攻撃だ。不意打ちすぎて頭がぼーっとしてくる。なんか変な気分になってきて、もう耐えられなくなって、「ねえ、どこの香水ですか?」って聞いてしまった。そしたらさ、もう聞いたことないブランド名が出てくるわけ。「トム・フォード」とか「バイレード」じゃないよ。なんか謎の呪文みたいな名前。いや、どこだそれ。実際聞いた10秒後には記憶から飛んでしまう名前なのに、香りを纏った男の記憶は濃くなるばかりなのである。(恐ろしい…)

で、こういう男たちには共通点がある。別に超絶イケメンってわけでもないのに、なぜかかっこ良く見える。育ちが良さそうだし、何よりも絶対的な自信がある。目つきがね、もう自信満々。「俺は間違いない」って目で見てくる。しかも、女性の扱いが上手。自分からは手を出さないくせに、なんかモテちゃうってやつ。そして、何よりも清潔感がすごい。体臭も口臭もゼロ。それに、服にもこだわりがあって、肌触りまで選んでるレベル。いや、怖いよ。完璧すぎて、もう少し人間味見せてほしいんだよね。

そしたら、先輩が不意に言い放った。「でもさ、そういう男って、学生時代は意外とイケてなくてコンプレックス抱えてるパターン、多いよね?」…いや、何その推論!?と一瞬ツッコミたくなったけど、あれ、でも確かにあるかも…と妙に納得してしまった自分がいた。妙に説得力あるんだ、この人は。

続けて先輩がまた、「天然のモテ男は違うよね。ああいう生まれつきモテてるやつって、ブランドとか香水にこだわらないんだよ。シンプルな服を着て、無臭。自然な自信で勝負してるんだよね」と言い出して、これもまた頷ける話。確かに、こういう完璧に作り込んだ男って、どこかに隠してる過去がありそうだな…。

でも話はここで終わらなかった。

また同じようなことが起こった。その日の夜、私は気づくとどこかのラグジュアリーなホテルのラウンジにいた。え?なんで私がこんなところに?周りにはスーツ姿が決まった男がちらほらいたが、どこからか例の「ウッディ系」の香りが漂ってきたのだ。「またか…」と内心で思いながらも、なぜか気になってしまう。香りを辿って近くにいた男をチラッと横目で見ると、やっぱり彼も同じように自信たっぷりな雰囲気。服装もバッチリ、髪型も完璧。肌触りの良い光沢のあるドレスシャツに背筋をピンと伸ばして、こちらを見下すような態度すらあるのだが、うっ…妙に色っぽい。

ここでまた、あの先輩の言葉が頭をよぎった。「イケてなかった過去」。もしかして、この男も?きっと学生時代は地味で、今ではこの香りと共に成功を手にしたんだろうか…。

そんなことを考えながらも、やっぱり気になるのは香りの正体。「すごい良い香りなんですけど、それってどこの香水ですか?」と思い切って尋ねてみる。

男は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに微笑んで答えた。「ああ、これはね…〇〇っていうブランドなんだ。」またしても聞いたこともない呪文の名前。そして完全に勝者の香りだ。私は男の笑顔と香りでクラクラしていた。と同時に周りにいたスーツ姿の男たちが次々にこっちに寄ってくる。
次第に部屋中に甘くて危険な大人の香りが充満して、もはや「ウッディ系」なんて軽やかに表現出来るその域をとっくに超えた「地獄の森林臭」だ。いち早くここを脱出しなければこの男達から逃げられない。もはや呼吸が苦しくなってくる。
助けて、誰か…!!「助けてーーーーーーーー!!!」。

そこで目がさめた。

ベッドの上、私は汗びっしょりで息を整えていた。どうやら、破滅を誘う危険な香りの男たちに取り囲まれた夢を見ていたらしい。二度寝した布団の中で、「やっぱりウッディ系の魅力的な男は危険だな」と、妙に納得した金曜日の朝だった。

いいなと思ったら応援しよう!