天然酵母のパンとオーガニックな偽り
何でか知らないけど、私はやたらと知人に不倫報告を受けるんです。もはや不倫相談センターのセンター長みたいな存在になってしまいました。つい先日も後輩の子が「愛Cさん!お久しぶりです」って連絡してきた。いやいや、めちゃくちゃ久しぶりに連絡してきたなと思ったら、何のことはない。「相談したいことがあって…」って、まさかの不倫話。しかも、この子、1回目は期間限定の夜職までこなしてハイスピードで慰謝料まで払って修羅場をくぐり抜けた猛者なのに、今度は2回目だって!おい、反省はどこいった?
私が不倫相談所のセンター長と化した理由は明白。「こいつなら適当にニヤつきながら聞いてくれるだろう」って、そう思われてるに違いない。いや、まぁ、実際その通りなんだけど。本当に年がら年中適当な人間だから、深刻じゃない話なら「ほー、なるほどね」って適当に流してしまう。だから、不倫経験者でも無い私ですが、自然と不倫報告にはちょうど良い相手ってことになるんでしょう。
それにしても、「私、他人に興味ないんだよね〜」とか言う人、いるじゃないですか?そういう人に限って、他人の噂話に鼻が効くんですよね。もう、野生動物かってくらい。アパレル時代の怖い先輩なんか、まさにその典型だった。私なんか真逆で、他人には興味めちゃくちゃあるんだけど、知人の不倫話とか急にされると「おいおい、なんで私にそれ言う?」ってなってしまう。不倫カウンセラーじゃないぞ!「実はすごくスタートから激しくて…。今までの彼氏とも旦那ともやったことなかったんだけど、そのア○ルプレイがさ…」いやストップ!流石にそこまでだ。そんな生々しい不倫話までされても、こっちはもうタジタジになるわけです。
不倫してる子たちは、だいたい「昔からの親友にめっちゃ怒られた」とか「同僚にお説教された」とか言ってくるんですよね。親友、そして同僚。そりゃ正しいこと言ってるよ。でも、ほっとけば良くないか?どうせそのうちバレて修羅場になって勝手に終わるんだから。説得してもやめる気なんてさらさらないんだ。だから私は「そうなんだ、絶対バレないように気を付けて」なんて適当に流す。結局、誰にも言わないことが一番のリスク回避なのに、彼女たちはその秘密を話さずにはいられないんだから不思議です。
ただ、そんな私も、過去相談センターに寄せられたお悩みの中で、動じたことがありましたよ。それが「ていねいな暮らし」をしている子の不倫。なぜかこれが一番生々しく、とてつもない湿度を感じたのです。普段から派手に男遊びしている子や、メンヘラちっくな子、流されやすい恋愛体質の子、なんかより普段とのギャップが大きいせいか妙にリアルなんですよね…。
若い頃、私は「ていねいな暮らし」の最高峰とも言えるインポートブランドでバイトしてたことがあって、手仕事の温かみがある日用品とかヴィンテージ家具とかに囲まれたこだわりのお家や、アイリッシュリネン100%のベッドシーツに包まれて眠るとか、オーガニックコットン100%のパンツを履いている、とかそんな「ていねいな暮らし」が大好きな人たちが集まる場所でした。で、もちろんそういう生活は素晴らしいし、実際にそういう暮らしをしている人も素敵だと思う部分もある。でもなんだろう。あの人たちの「ていねいさ」って時々窮屈に見える瞬間があるんですよね。どこか嘘っぽくて、どこかわざとらしい感じがしてたんです。丁寧であることは美徳だけど、実際それが全てではやってけないだろうって。
で、なんか不倫までしちゃった「ていねい」勢ともなると、ていねいに暮らしてる分、不倫もていねいなんですよ。あーこれ言葉にするとめちゃくちゃ難しいですね…。不倫はしてますよ。悪いですか。悪いのわかってます。でも相手の彼だって夫だって大事にしてますよ。二人とも本気で愛しているんです。みたいな。変なプライドがあるんです。
服もオーガニックコットンで肌に優しいし、性格も優しいから手作りの天然酵母のパンとかね、たまに持ってきてくれるんですけど。それがまた「発酵に24時間かけてて」とか言うんですよ。いやいや、パンに一日って!そんなにていねいにやって何を目指してんだっていう。それにあなたさ、パン焼く前にちょっと自分の行動の焼き加減見直したほうがいいんじゃないの?って思うわけですよ。なんなら、自分ら夫婦の関係もカリカリに焼けちゃってんじゃん?って。
結局私は不倫の話がどうこうっていうより、その裏にある「ていねいな暮らし」の完璧さと、不倫という俗っぽい行動のギャップに、不思議な違和感を感じてしまってたんですが。だからこそ、その違和感がどうにもならなくて、聞いていてもなんとなく引き込まれてしまう部分もあったんですよね。
でも、ふと気づくんです。彼女たちが見せる「ていねいな暮らし」と、不倫の間にあるギャップって、もしかして私たちがどこかで抱えてる矛盾そのものなんじゃないかって。リネン100%のシーツに包まれながら、恋人や夫の視線を気にしながら、スマホの通知を気にしてるあの感じ。表向きは完璧で整ってるけど、どこかに乱れや迷いがあって、誰にも見せないでいるもの。それが見え隠れする瞬間が一種のロマンになるんだろうなって。(何言ってんだ)
それにしても、化粧っけが無く、ふんわりした服でボディラインを消し、オーガニックコットンの股上が深いパンツを履いた「ていねいな暮らし」をしている人が不倫するんだなぁなんて考えると、そのギャップが妙に色っぽく見えるって気持ちは何となく分からなくも無いなぁ…。その穢れの無い聖なるものに触れることに背徳感が漂ってくるといいますか。そしてやっぱり、いけないことをしていると分かっていながらも、人ってその禁断の果実をつい手に取ってしまうんでしょうね。
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